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第5回1000字小説バトル
Entry16

伝説の男

作者 : のるふ
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 暑い夜だった。
「6名様ですか?三階へどうぞ一」
 いつものように、同じ居酒屋へ行き、見知った誘導のお姉さんに
従い小さなエレベータに乗りこむ。三階へ向かう。
 今まで何度も繰り返した事。
 でもその日、エレベータは二階でとまった。
 そして、伝説が生まれる。

 開いた扉の前に若い女性が二人立っていた。
 僕らは皆で奥に諸め、女性達のスペースを作った。
 しかし、ただでさえ小さなエレベータに野郎が6人も乗っている
のだ、そう簡単に女性二人分のスペースが生まれるわけがない。
 出来上がったスペースはギリギリその二人が入れるかなという程
度だった。
 女性達は躊躇していた。
 それもそうだ、エレベータには積載重量の問題がある。
 積載量のデータは7人550kgまでだった。
「ムリかな?」
 その場の全員が心の中でそう思った。
 なぜなら、その日の僕らのメンバーに170cm120kgの巨漢H氏
が居たからだ。
 ほぼ定員状態のエレベータに乗り込む事、女性にとってこれ程自
分を試される状況もないだろう。
 自分が乗る事で重量オーバーになるかも知れない。
女性達は相当躊躇していたが、僕らが一向に扉を閉めないのを見て
意を決した。
 まず一人目が乗り込む。

 奇妙な静けさ。

 全員が、特に今乗り込んだ女性が、胸をなでおろした。
 しかし、残った方の女性は逆に心中穏やかではなくなる。
 最初の女性が無事だということは、自分の危険性が増したという
事。

 皆が見守る中残りの女性も乗り込んだ。
 ブブ−ッ!
 とたんに鳴り響く警報音。

「どひゃ一」全員の照れ笑いがその場を支配した。
 女性達は恥かしそうにエレベータを降り、僕らに上がるように示
した。
 その時、伝説の男H氏が動いた。
 H氏が素早くエレベータを降り、女性達をのせ先にいけと身振り
で示したのだ。
「ひょ一、かっこい一」
 からかう僕らの声に見送られながらH氏は2階に残った。
 当然、三階で僕らはH氏を待つことになる。
 しかし、H氏はなかなか現れない。
 エレベータは何度も上がってくるし、そこには人がたくさん乗っ
ている。なのにその中にH氏の姿は無い。
 ただ、時折階下から聞こえる警報音がH氏の存在を示していた。
 エレベータが人を載せて上がってくる、二階で止まる、H氏が乗
り込む、警報、というサイクルが繰り返されている。
 気が付けぱ僕らはH氏抜きで飲んでいた。
 彼の存在などなかったかのように。
 ここに、H氏の「三階以上へ上がる事を重力に許されない男伝説」
が完成したのである。






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