第6回1000字小説バトル
Entry42
冗談じゃないよ、まったく。馬鹿にするのもいい加減にしろ。あ あ、もう随分乗ってくるなあ、大手町か。大体ねえ、あたしをおば さんだと思ってなめきってるね。飲みに行こうだあ? 金も無いく せに誘うんじゃないよ。あたしだって、これでもまだまだ男には不 自由してないんだから。電話一本で呼び出せると思ったら大間違い だって言うの。断られて当然なんだよ。人の気も知らないで。 何? 新お茶? 何が新お茶だよ。大体何なんだ、新お茶の水っ て駅名は。「新」つけりゃいいってもんじゃないんだよ。「新」じ ゃないんだからさあ、もう。それに何? 乗り換えられる駅の名前 がなんで「淡路町」と「小川町」なんだよ。何のつながりもないじ ゃん。乗り換えられるって分からないじゃん、それじゃ全然さあ。 何考えてんだ、まったく。都営と営団の二人揃って、頭悪いんじゃ ないのお? ああ、ちょっと押さないでよ。降りるよ、降りりゃいいんでしょ。 あ、降りちゃった。あ。もう。しょうがないなあ。ああ、ちょっと 邪魔邪魔。ちんたら歩かないでよ。ほら、歩かないなら左に寄って よ。ああ、ああ、何なんだよ、このエスカレーターは。なんだなん だなんだなんだ、なんでこんなに長いんだよお。はあっはあっ。な んでこんなのが必要なんだよお。ああ、もう。何? まだあるのお? いい加減にしてよお。はあっはあっ。 ああ、ちくしょう、いやがるじゃないか。はあっはあっ。 「遅いって、あなたねえ。はあっはあっ。断った筈よ。はあっ」 なあにい? なんて言い種だこいつ。 「あのねえ、はあっ。おかしいと思わないの? 女房子供に金が掛 かるからって、はあっ、なんであたしが犠牲払わなきゃならないの?」 そうよ、そうでしょ? 「酷いことしてるのよ、あなたは。女房にもあたしにも。心苦しい と思ってるの? 少しは」 そうよ。酷い。駄目だっていうのに。 「それでも会いたいのかっ。そうなのかっ」 あ。 「よし、わかった」 え。何あたし。 「二回いかせてもらうわよ」 ちくしょう、笑いやがったよ。 「努力だあ?」 馬鹿だ、あたしは。 「うーん、よし。じゃ待っとれ。こっちも手持ちがないんだから」 なんだなんだなんだ、何をしてるんだあたしは。なんて女だ。いけ ないっちゅうのに。なんでATMなんかに入ろうとしてるんだよ。キ ャッシュカードなんか取り出してさあ。 ああまったくもう、なんでこんな時間まで開いてるんだよ、住友銀 行っ。
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