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第16回1000字小説バトル
Entry25

ふそくのじたい

作者 : 羽那沖権八
Website : http://www.geocities.co.jp/Bookend-Soseki/4587/
文字数 : 931
「え、ええと、も、もう一度言ってくれるかな?」
 財布を見た四谷京作は、酔いが醒めていくのを感じた。
「四千五百十五円になります、けど」
 不審そうな目で、店員は彼にレシートを差し出す。
「五千円、だよ、ね。うん、安いよ、美味しかったし」
 四谷は財布を確認する。入っていた筈の一万円札はなく、五千円
札もない。あるのは、千円札ばかり。
「ボーナス後で油断してたかな、思ったより使ってるね、あはは。
面倒で万札ばっかり使ってたし」
 半分独り言のように喋りながら、四谷は財布の札入れから取り出
した千円札を、ゆっくりと数える。
 一、二、三――おしまい。
「小銭だ、うん。札ばっかし使ってたんだ。ほら、五百円玉もあん
まり自販機で使えないからたまっちゃって」
 小銭を確認する。
 だが、小銭の大半は光沢のない茶色の硬貨ばかり。
「あは、その、ねぇ?」
 全部数えてみても、せいぜい六百円。
「ツケって、きかない?」
「お待ち下さい、店長を呼んで――」
「待って! ほら、この定期、七万円で半年分のとこ、後一週間も
残ってるから、これで足りない分に」
「申し訳ありませんが、現金かカード以外のお支払いは受けられま
せんので」
 店員の口調は冷ややかだった。
「この上着は? 青山で五千円もしたんだ、何だったら皿洗いでも
できるし」
 店員が無言で別の店員に目配せする。
「わ、分かった、社員証置いて行く。足りない分は明日きっと払う
から」
 四谷が慌ててカード入れから社員証を取り出そうとした時。
 ぱさっ。
 数枚のテレホンカードが落ちた。
「あっ」
 そしてその中には、小さく折り畳まれた一枚の紙が。それは正し
く。
「や、やた、ほら、千円!」
 彼は札を広げて店員に見せる。
「いやあ、ははは、いつだかに返して貰った奴をつっこんどいたん
だ! いや、すっかり忘れてた!」

「――という事があると思わないか、同志?」
「うむ。確かに、あれは嬉しい」
「我々は未来の我々の不測の事態に対し、とても嬉しいエネルギー
の贈り物をしているわけだ」
「異議はない。未来には、高速増殖炉もきっと改良されるであろう
しな」
 どぼーん。
「さ、任務終了だ。さっさとこの防護服を脱ぎたいものだ」
 海に沈んでいく無数のドラム缶を見届けた後、二人の士官は船室
に入って行った。






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