Entry1
取調室
のぼりん
取調室の中で、男は泣いて取り乱した。
「私は見たんです。赤い光を放った巨大な物体が、回りながら車の前へ降りてきたのを」
「UFOだといいたいわけか?」
「UFOかどうか知りませんが、この世のものじゃありません」
男と机を挟んで、若い刑事がしきりに首を傾げる。
その時男は、車の中で失神し朝を迎えた。気づくと助手席に座っていたはずの女性がいなくなっていた。男は彼女がそのUFOのようなものに連れ去られたのだと主張している。
年配の刑事が椅子を一つ持ってきて、ふたりの間を割るようにしてすわった。
「あんた嘘ついちゃいかんよ。彼女との愛人関係も分かっているんだし、その清算に関するいざこざで口喧嘩をしていたところも目撃されているんだ」
「な、何がいいたいんですか?」
「だからね、やっちゃったんだろ? どこへ埋めたんだ? ちゃんと白状しなよ」
男は怒りをあらわにして叫んだ。
「何て事をいうんだ、この人は!」
「警部」若い刑事が思わず口をはさんだ。「容疑者にだって人権があるんです。そんな軽はずみなことを詰問しては…」
「君は経験が浅いからわからんのだよ。相手が嘘をついているかどうかなんて、目を見りゃわかる。この男は絶対に女を殺してるね。じゃあ、聞くがその物体ってのはどんな格好をしていたんだ?」
男は目の前のメモ紙のうえに、震える手で絵を書いてみせた。
「ふうん」警部は一瞥すると鼻先で笑った。「アダムスキー型だな。しかしその円盤写真は、すでに専門家によって模型だったと証明されている。しかも奴の体験談は、過去に書いた売れないSF小説の焼き直しだったそうだ」
その物言いに、若い刑事は目を丸くした。
「よくご存知ですね。警部がそんなことを知っていたなんて」
「アダムスキーが詐欺師だってことなんざ常識さ。世の中にアダムスキー型の円盤なんて存在しないのだからね」
「何でいい切れるんだ」
容疑者はいきり立った。警部はうんざりしたような顔をした。
「なにもかも宇宙人のせいにして大騒ぎされると困るんだよ。できたら日常から逸脱しないでほしい。だいたい宇宙人は時空移動で地球にやってきているんで、UFOなんか乗りゃしないんだよ」
そういうと、突然、警部の顔がぐにゃりと曲がった。
奇妙な話だが、それから数分後、その取調室から出てきた容疑者はそのまま釈放され、二人の刑事は何事もなかったかのように、それぞれの仕事に戻っていったのである。