第78回 1000字小説バトル結果

おめでとうございます!

今回のチャンピオン作品は、荵さん作『他意ちゃん』です。
荵さんは2度目のチャンピオンとなります。
これからもがんばってください!

エントリ作品作者得票
04他意ちゃん4
03蒼跡 〜So・Seki〜沙汰2
06路地の中とむOK2
07洗物ぼんより1
08追跡越冬こあら1
09『将軍は冗談が上手すぎた』橘内 潤1


感想票をお送りいただいた皆様、ありがとうございました。
「私の投票がない!」「内容が違うような」……
掲載もれ、ミス等ございましたらご連絡いただけますようお願いいたします。



推薦作品と感想

■他意ちゃん  荵さん
 
感想:大暴れしてもなんだか憎めない「たいちゃん」、振り回されながらも魚を買う「あたし」、いいコンビだ。2人ともポジティブで明るくて、読んで元気になる作品でした。
票者:その他の作者


感想: うーん。今回は、誰が勝つんだろう。
 大体いつもは予感があるのだが、今回はまったくわからない。

 とりあえず個人的な好みとすれば、「クリオネ」「タイちゃん」であります。「クリオネ」も男が馬鹿でけっこう好きだが、やっぱり独り語りの域を出ていない。とすると、薄味でも「他意ちゃん」かなぁ。だなぁ。(M)
票者:その他のQBOOKS参加作者


感想: 終わり方が素敵ですね。
 困りながらも、タイチャンのことが好きなきもちが伝わってきました。

票者:このバトルへの参加作者


感想:うーむ……今回は他に考えられないから、これ即断で良かったんだけど。
もうちょい長い尺で読んでみたいなぁ、と思ったりもする。
自閉症の人と交流を持った経験がないと想像しにくい場面とか、もっと書き込んでほしいなと思うし。

票者:このバトルへの参加作者


■蒼跡 〜So・Seki〜  沙汰さん
 
感想:とても穏かな物語。
(ぼん)
票者:このバトルへの参加作者


感想:ステキな雰囲気が醸し出されている作品です。
書きすぎないところに作者のセンスの良さを感じました。
票者:このバトルへの参加作者

■路地の中  とむOKさん
 
感想:主人公が、とんでもない間違いをしているし、救いようのない状況のはずなのに、「めでたし」で終わらせているのがスゴイと思いました。中年男とのオカマの掘り合いの件りはお見事です。
票者:このバトルへの参加作者

感想:「路地の中」とむOK
いいねえ。この、文学的不条理エログロ世界。

「洗物」ぼんより
これもいいねえ、かなりいい。

「追跡」越冬こあら
いいなあ。ただただ「追跡」の一場面を描ききりたかった、とそういう感じ。

投稿数一桁か。ついにそうか。まあいいや。

2005年Qデビューの驚異の新人二人と、帝王か。
この三作品は、それぞれモチーフも味付けも全然違う。違うけど、出来がいいということは読めばすぐ分かる。どうすれば、出来が「いい」ものになるかは、俺なりの理論がある。いわゆる文章で作り話をでっち上げるときの、そういう技巧というか、コツというか、勘所みたいなものに、俺はかなり自覚的だし、作品を読んでいると、たぶん、上の三人もかなり自覚的だろうなと感じる。まあ、具体的に、そういう技巧なり、勘所なりを言ってみろと言われても、それは企業秘密だから俺は言わない。もちろん、上の三人は、もしかしたら、そういう技巧や勘所については全く無自覚無頓着で、書けちゃう人たちだってこともありうる。たとえば、今はなき、どっぐちゃんとかは、俺にはそういう天才肌に思えた。けど、上の三人は、やっぱり、そういう天才肌とはちょっと違うように思える。ぼんよりは、もしかしたらちょっとそうかなと思える気もするけど、とむOKと帝王は、まあ、違う。この完成度の高さは、分かってやってると言う感じだ。

作品を評価する際のもう一つの要素は、作品のモチーフとそのモチーフに対する作品(作者)の立ち位置への共感だ。作品の完成度より、こっちの方が物を言って、作品の評価を高めることもある。いわゆる、「下手くそだけど、これいいよねえ」ってやつだ。ま、今回の三作品は、そうじゃないけど。うまいし、完成度も高い。その上、モチーフとその味付けもかなりいい。で、俺は困る。しょうがないから、減点方式で選別する。

小姑みたいにあら探しを始めて、最初に気が付いたのは、ぼんよりの「洗物」のなかの微妙な乱れ。どこかっていうと、〈足元に擦り寄ってくる猫が〉の前後のつながりだ。この繋ぎ方だと〈猫〉が「現在」の主人公の足下に擦り寄っているように、つい、読んでしまえる。一行空けて、「現在」と「過去」を区別してはいるがあまり有効に機能していない。そもそも一行空いたあとの過去の回想が、最初の、からからにひび割れた指で愚痴りながら洗物をしている「現在」の主人公の独白というか回想のままなので、過去の回想の中の主人公が過酷な洗物をこなしている最中に感じた「奇妙な世界の不平等」を描写し終わったあとにくる、「過去」の現実である〈擦り寄る猫〉の描写が、読者には、一気に二段跳んで「現在」に着地したように読めてしまう。つまり、こうだ。読者にとって、現に目の前にあるのは、洗物をしている「現在」の主人公だ。その主人公が回想している過去の自分が、やはり洗物をしながら「奇妙な世界の不平等」を頭の中で感じている。この時点で、読者にとって、「奇妙な世界の不平等」を感じているのは、過去の主人公であると同時に、それを回想している目の前の「現在」の主人公だ。だから、その過去の主人公の頭の中の「奇妙な世界」を中断する「現実の猫」は、読者が、「主人公の回想ではなく、これだけが作品中の今現在進行形の現実だ」と捉えている「現在」の主人公のところに現れてしまう。もちろんこれは読者の誤りで、猫が登場するのは、過去の回想の中なのだが、少し読み進めないかぎり、その誤りには気付けない。この、猫と関わる数行が、過去ではなく現在の出来事のように読者の読まれてしまう可能性があるという点を、俺はこの作品のマイナスとする。

で、次に気が付いたのは、帝王の「追跡」の中の犯人の拳銃発砲事実の描写の順番。作品中「」で囲まれ、二つに別れた形で、犯人の情報が読者に提示される。気に入らないなと思ったのは、犯人が拳銃を発砲したという情報が「」内で提示される前に、地の文章が先に「無抵抗な相手に拳銃を向けたことが、カミヤマ個人の嫌悪感を煽った」と告げてしまう点だ。「あれ? 俺、読み飛ばしたか?」と思ってしまった。いや、もう、本当に些細なことで、どうでもいいって言えばどうでもいいんだけど、まあ、無理矢理にケチをつけるならここくらいしかないんで、仕方がないからこれをこの作品のマイナスにする。

というわけで、とむOKの「路地の中」だ。まあ、これは文句ないよ。結構探したけど、ケチをつけるところはないなあ。つげ義春的というかなんというか、まあ、精密でグロいペン画の世界が、ぼあーっと。ヒドイね(褒め言葉)、このヤな作品世界(褒め言葉)。

(アナトー)
票者:その他のQBOOKS参加作者

■洗物  ぼんよりさん
 
感想:とむOKさんの『路地の中』と迷ったんですが、ぼんよりさんに投票します。
どうやったら、こんな文章が書けるんですか? 驚きました。
洗物という日常の一コマから立ち上がる非日常とも言いきれない微妙な感情の世界、さびしさにやりきれなさ、開き直り。家族のさりげない愛情で、日常を肯定的に受け入れる主婦の救い、恥じらい。場面の切り取り方や描写の感覚、すごいとしか言えません。文章の奥深さを感じました。すごく面白かったです。荵
票者:このバトルへの参加作者

■追跡  越冬こあらさん
 
感想: 何か、全く表現されないところにとてつもない怖さがあるように感じられた。

ピックアップ

04 他意ちゃん 荵さん
 ケータイをトーキングエイドのように使えるとは知らなかった。
 「たいちゃん」の様子がきちんと書けている。「タイ、ハ、アリマセン」というやや鸚鵡返しな言い方もリアルである。
 細かいことを言うならば、プロのヘルパーならば本人が納得してから買い物するのが基本だと思う。「お金が無いからダメ」とただ言うのもたいちゃんにとっては自己選択の否定であり、納得できずパニックを起こしてしまうのも当然に思えてしまう。対話の詳しい状況を知りたかった。しかし、決して上手く対話できることばかりではないというのも現実的なのであろう。

07 洗物 ぼんよりさん
 作務。無我で没頭することで悟りを得る。そう思って読んだのですが中段の猫の印象で禍々しくひっくり返されてしまった。その部分以外はわかりやすく、特に最後息子が洗い物に入る時、戸惑う母親の哀しさが伝わってくる。
票者:このバトルへの参加作者


■『将軍は冗談が上手すぎた』  橘内 潤さん
 
感想: 冬将軍の擬人化というのは、面白げなネタだなぁ、と思いました。
 ただ、タイトルでネタバレしているとか、仕事をサボるのが冗談なのかなぁとか、気になる部分もある訳ですが。
票者:このバトルへの参加作者