≪表紙へ

1000字小説バトル

≪1000rosso表紙へ

1000字小説バトル【Rosso】stage2
第6回バトル 作品

参加作品一覧

(2008年 8月)
文字数
1
(本作品は掲載を終了しました)
ウーティスさん
2
ごんぱち
1000
3
村方祐治
1000

結果発表

投票結果の発表中です。

※投票の受付は終了しました。

  • QBOOKSでは原則的に作品に校正を加えません。明らかな誤字などが見つかりましても、そのまま掲載しています。ご了承ください。
  • 修正、公開停止依頼など

    QBOOKSインフォデスクのページよりご連絡ください。

お問い合わせ

Entry1

(本作品は掲載を終了しました)

Entry2
球場事情
ごんぱち

「……何、持ち込み禁止?」
 四谷京作は、球場係員に聞き返す。四谷は、初老で、白髪のチョビヒゲを生やしている。
「はい、申し訳ございませんが」
 係員は深々と頭を下げる。
「だが、妻が腕によりをかけて作った弁当なのだが」
「申し訳ございません、球場内で召し上がるものは球場内の売店でお買い求め下さい。そうでないものは手作り、既製品関わらず、こちらにお預け戴くか、球場外でお召し上がり下さい。売店の売り上げも大事な球団の収入源ですので、ご協力をお願い致します」
 球場の係員は、深々と頭を下げる。
「……ふむ、分からなくもない。郷に入りては郷に従え、預けよう」
 四谷はチョビヒゲを撫でる。
「千早」
「はい、あなた」
 妻の千早が、風呂敷に包まれた重箱入りの手作り弁当を、傍らの預かり品用テーブルに置く。
「ご協力感謝いたします」
「では、菓子類もですかな? 口寂しい時に備えて、チョコレートを常に持ち歩いているのだが」
 アーモンドチョコの箱を開ける。残っていた二粒が、転がって箱の隅に寄った。
「はい、お預け下さい」
「麦茶はどうだね」
 四谷はバッグから小ぶりの魔法瓶を出す。
「飲み物につきましては、自動販売機か売店でお買い求め下さい」
 係員が自動販売機を指し示す。
「ふむ、とすると、売っていて口に入れそうなものは全て確認する必要がありそうですな」
「基本的にはそう考えていただければ」
 四谷は自分のバッグの中を漁る。
「では、ガムはどうだろう。シュガーレスなのだが」
「お預け下さい」
「薬はどうだね? 食後薬があるのだが」
 四谷は白い紙袋に入った錠剤を見せる。
「ええと、それはお持ちになって結構でございます――」

 スタジアム内に、打球音と声援と応援の鳴り物の音が響きわたる。
「――なあ、千早」
 オペラグラスを覗いていた四谷が、ぽつりと呟く。
「なんですか」
「フリスクと歯磨きガムと胃腸薬とのどぬーるスプレーだけだと、あんまり野球観戦も楽しくないな」
「そうかしら」
 千早はフリスクを噛み砕く。
「あの……千早」
「何です、京作さん」
「諦めて、何か買わんか? さもなきゃ、預けたとこ行って食べるとか……」
「あー、のどぬーる甘くておいしー! すげーおいしー! あたしの作った弁当の次においしー! そして椅子から立つのめんどい! 一度立ったらもう座りに戻って来るのは絶対嫌なぐらいめんどい!」
「……オレ、悪くないだろ、オレは悪くないだろーがよぉ」
球場事情 ごんぱち

Entry3
閑紋
村方祐治

 朝になると私は目覚めるのです。そうして大抵むくりと起き上がり、窓の外を見つめます。朝といってもまだ明け方ですから、紫がかっている雲にシルクのような曙光が渡っていて、とてもきれいです。
 私はそれから、私たちのために、私たちの命のために、長い浜を歩きます。長い浜を渡っていくのは、つまり市場は街にしかないのです。
 籠の中に入った海老は、大抵尾を力強く蹴りだし、しばたいています。私は市場の片隅の風景となって、いつも同じ種類の海老を、大勢のヒトへと示すのです。すると、みるみるうちに海老は貨幣へと変化していきます。初めに市場に来たときは、こんなにも海老を欲しがるヒトがいるものかと驚いたものです。
 籠が軽くなると、私はこんどは大勢のヒトの一部となって、籠の中の貨幣をごく少しの米や塩、山菜などに変化させます。そのとき私は、今日の私たちを確信することができるのです。
 そうして私はもと来た道を、浜を、戻っていきます。ようやく道が開けてくると、そこには小さな小屋が、日に照らされているでしょう。そのころには、太陽はすでに高くなっています。
 小屋の扉を開けると、そこには私の妻が、私の子供が、います。私が妻に籠を渡すと、妻は台所へ行って、暖かな飯、あるいは粥を、私たちのために用意するのです。
 私たちは飯を食い、あるいは粥をすすります。食卓に海老が並ぶことは決してありません。海老は米であり、塩であり、山菜なのです。こうして、私たちは全員、今日の私たちを確信するのです。
 子供たちが安らかな眠りにつくころ、私と妻は、やわらかく、重なり合うことをします。そうしてひとしきり苦しみながらむつみあった後、私たちは裸のまま、外へと連れ立っていきます。
 小屋の明かりは消えていますから、あたりには月光だけがつややかに映えています。そのなかで私と妻は、波の音がするほうへ、着実に歩いていくのです。
 やがて足が冷たくなり、腰が冷たくなり、肩が冷たくなります。そしてついに頭が冷たくなった後、私たちはもう一度重なり合うのです。そうして互いの暖かさを感じながら、ゆっくりと青の底へと堕ちてゆきます。
 かつて、私たちのために、父と母も青の中で重なり合いました。きっと私と妻も、子供たちのために、海老を育てることでしょう。そうして、子供たちはまた市場への道を往復するようになるでしょう。私たちは米になり、塩になり、山菜になるのです。