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第3回チャンピオンofチャンピオン小説バトル Entry4

神様と会った


ガソリンスタンドで灯油を18リットル買った。
重いポリタンクを持った僕は、帰り道、凍った歩道で滑ってコケた。
ポリタンクは車道に飛び出し、猛スピードで走って来たランドクルーザーの進路を塞いだ。
ランドクルーザーは、右に避けようとして滑り、すぐに左に切り返し、結局ケツが滑ってくるくる回り、最後に電信柱にぶつかった。
で、その電信柱の上から、神様が落ちてきた。
けっこうな高さだ。
積もった雪のおかげで怪我はしなかったらしい。
神様は電信柱の上にいたわけだ。この寒いのに。
理由は話したがらないので、しつこくは訊かない。
神様はユニクロのダウンジャケットなんか着ていた。
ユニクロのカードも持っていた。
ユニクロが好きらしい。
気をつけてくれよ!
僕は神様に怒られた。
神様は腰をさすりながら、ランドクルーザーの運転席を覗き込んで、しょーがねーなあと言った。
運転席で男の人が死んでいた。
頭が割れてる。ヒドイ有様。
脳味噌が、まあ、そんなだ。
助手席の女の人は首が折れていた。
やっぱり死んでいる。
神様は、もう、とか言いながら、奇跡でチャッチャと運転席の男の人を生き返らせた。
ついでだからとか言って、女の人も生き返らせた。やっぱり奇跡で。
車はイイや、と壊れたままにしておいた。
本当はこういうのナシなんだぜ。
生き返った二人は、危なかったなとか、助かったのは奇跡よとか言って騒いでる。

僕と神様は、近くの終夜営業のファミレスに入った。
神様は、アルバイトのウエイターに喫煙席を指示した。
席に着くとすぐに、ユニクロのダウンジャケットからたばこを出して吸い始めた。
マイセン。マイルドセブン。やっぱりこれだな。で、最近どうなの?
神様は煙をブカブカ吹かしながら訊いた。
僕は、フツーですよと答えた。
フツーってなんだよ?
僕は返事をしなかった。
神様は、まあいいさと灰皿に灰を落とした。
この【おすすめ】の牡蠣フライセットを一つ、と神様。
僕はコーヒー。
神様は牡蠣フライセットを大方平らげてから、今、持ち合わせがないんだけどと言った。
おごりますよ。
僕がそう言うと、神様は、そうかいと言ってウエイターを呼んでコーヒーを頼んだ。
このファミレスのコーヒー、まあまあ美味いよな。
神様とはファミレスの前でわかれた。

家に帰ってストーブに灯油を足しながらその話をした。
妻は言う。
「それって、私のお父さんでしょ?」
言われれば、まあ、似てなくもない。
神様は、割とお義父さんに似ていた。



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