第8回チャンピオンofチャンピオンバトル詩人部門 Entry3
十七夜月
浜の上
見上げねばならないところで
わざと煌煌としてらっしゃる
わたくし
こと、悲劇役者
ただいまタクシーを降りて
海に向かうところ
IN DA PINK.
B.ナガチロ
昼間、人のいたことなぞ
いいや、人など沢山いれば風と同じかもしれない
人工の風紋は、いづれにせよやみくらには見えず
ああもう、あしもとの、群生する海藻の触りよ
幾度も幾度も軽い意識の目覚めを与えてくれるうちに
ついに、喪くなってしまった
海は、だらだらを涎をまとわせて
真っ黒いわにぐちを開けている
踏み込めばきっと、つぎつぎに足元の砂を奪っていく
波打ち際で転んだことを思い出すとは
自分にも子供時代があったのだ、そういえば
だがしかし、あったものは、今はないものだ
あるものは
この身
この質量
このこころ
この疲労
くたくたの膝
筋肉痛の腿
海の咀嚼には
うってつけのからだ
むかし、スイムスクールに通っていたもので
泳げると思っていたのです
現に素潜りは平気でしたし
実績も、自信も気もちもあったといいます
でも、駄目なものですね
駄目なものです。
足元を何かにぞろりと撫でられて、
攣った足を抱えて沈んでいきました
ああ、泣き腫らした目に
あんなに巨きな桃色の月が
みるみる近く
熱を孕み
不意にきた大波に
すべてを浚われても
きっと残るだろう
あの娘のまなこと同じ型の
同じ月の記憶
泣き腫らした血の色だので
きっと、きっと、
網膜に血瘤として
残るだろう
遺すだろう
きっと。