QBOOKS
1000字小説バトル 2nd Stage
チャンプ作品
『夢に出る』ヤマモト
 父ちゃんが夢に出る。よく出る。居間とか庭とか昔行った遊園地とか、いろんな所で俺と父ちゃんが喋っている。死んだ肉親が夢に出るのは何かの警告だとかよく聞くが、そんな感じは無い。

 昨日のはこんな夢だ。
 俺は野球の試合を見ている。というか、フェンスの向こうに小さーく見える選手達をぼんやり眺めている。回りは酒で顔を赤くしたおっさんばかりだ。大人が巨大に見えるので、今俺は子供になってるんだなと解る。
 ポコっと頭に何かが当り、振り向くと父ちゃんが唐揚げとカップを持って立っている。俺はズレた野球帽を被り直し、やりぃー! と喜んで唐揚げを受け取る。父ちゃんは笑いながらビールを飲んでいる。
 目が覚めて、そういや野球、よく連れてってもらったよなと思った。



「あんた煙草減らしなさいよ。体に毒よ、毒」
食後の一服を吸っていたら母ちゃんが言った。
「へいへー」
「全く、お父さんがいたらなんて言うか」
パタパタと台所を片付けながら呆れ顔でこちらを見る。
「父ちゃんも吸っただろ?」
「お父さんは子供が出来てから吸ってなかったわよ。見た事無いでしょ?」
ふーん、と思いながら俺は違和感を感じる。父ちゃんが煙草を吸ってる所を見た気がしたのだ。
 いつだっけな? と考えて、思い当たる。夢の中だ。

 誰かの葬式らしい。皆一様に黒い服を着て鼻を鳴らしている。俺は高校の制服を着ていて、あ、これはもしや、と思ったら隣に父ちゃんが立っていた。その喪服は冗談かなんかなのか? と聞こうと思うが止めておく。ふと気付くと外で、どうやら火葬場だ。まだ隣に父ちゃんはいて、煙突から出る煙を見ながら
「あれ、俺だろ」
と言った。
 俺はちょっと困ってしまった。そしたら何故か急に22の俺の意識になって、
「もう5年も経つんだよな」
と言っていた。
 父ちゃんは苦笑いしてポケットから煙草を取り出し、火を点けた。
 あ、煙草、と思う。じっと見ている俺に気付いて
「お前は長生きしろよ」
と父ちゃんは笑った。父ちゃんは早過ぎだよ、と思ったけど言えなかった。夢だったんだし、言えばよかった。


 後ろでチーンと音がして、振り向くと母ちゃんが仏壇に手を合わせている。



 支度をして家を出た。久しぶりに彼女とデートだ。遠出して泊る計画。
 駅までの道を歩きながら、ふと今日、裸の彼女の隣で父ちゃんの夢なんか見たらちょっとヤダよな、と思って笑ってしまった。
 今日は勘弁な、と呟いて空へ手を合わせた。


TOP PAGE
ライブラリ
作品の著作権は作者にあります。無断の使用、転載を禁止します

QBOOKS
www.qbooks.jp/
info@qshobou.org