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1000字小説バトル 3rd Stage
チャンプ作品
『怪獣刑事』蛮人S
「みんな聞いてくれ。今日から新しい仲間が加わる」
 月曜の朝、七曲警察署の捜査一係。ボスこと藤堂係長は、新しく着任した刑事を紹介しようと傍らを振り返った。
「さあ、本日付けで配属の……」
 そこには誰も居なかった。
「ん?」
 突如、青白い閃光がバゥ、バゥと二三度輝いた。目の眩んだ刑事たちが思わず顔を覆う間に、入口のドアが音をたてて吹き飛び、土煙の中から巨大なる異形の者――恐らくはボスの言うところの新刑事が、尻尾を振り大きな翼を振り金色の鱗を輝かせ、壁をがらがら崩して乱入した。
「ああ、諸君、彼が今日から配属になった……」
 けたたましい電子音の叫びがボスの声を遮った。叫びを発する彼の首は角の生えた龍の頭であり、龍の様に長く、そして三本もあった。三本の首は電子音とともに各々好き勝手な向きへ出鱈目に打ち振られ、翼が巻き起こす風速四十米の嵐は、彼を中心に机の書類やら壁の張り紙やらを轟々と渦巻かせた。
「さてさて、みんな慌てるんじゃないぜ? 彼が新任の……」
 振り回される三つの首の開いた口から、一斉に白い稲妻がほとばしった。破壊光線だった。一本目の稲妻は壁を横切り、コンクリートの破片を弾きつつ窓を枠ごと三つほど打ち砕いて空を焼いた。オゾン臭の立ち込める中、二本目の稲妻は何が気に食わないのかロッカーに集中し、木葉微塵に粉砕して周囲の書類棚ごと吹き飛ばした。三本目は刑事たちの足元を走り、床材をばりばりと打ち砕いた。机が傾き、刑事たちが伏せる中、ボスは真っ直ぐ立ったまま不敵な笑みを浮かべていた。
「ふッ、なかなかの暴れ者じゃないか。よし、今日からお前を怪獣刑事と呼ぶ事に……」
 三本の稲妻がボスの足元に炸裂した。捜査一係の床は崩落し、刑事たち、その他全てが炎と共に階下に落ちた。七曲署の建物はその半ばが倒壊し、降り注ぐ瓦礫の雨と黒い土煙の中から、怪獣刑事は電子音を二度三度放ちながら空へと羽ばたき、やがて消え去った。

 捜査一係の面々が無傷だったのは奇跡であろうか。
「ボス……あいつ、また来るんでしょうかね」
 藤堂係長は夕焼け空を見上げつつ、再び笑みを見せた。
「そうだな、奴はきっと戻ってくる……その時には、今度こそ俺達の仲間にしてみせるさ。俺は、待ってるぜ」




 刑事たちは黙って夕陽の中で頷いた。(奴がせめてゴジラだったら……)と思った者もあったが、それを言葉にはしなかったし、その必要もあるまいと信じていた。




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