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第93回詩人バトル

エントリ作品作者文字数
1見ないフリ蒼ノ下雷太郎283
2廻る弥生216
3ジェンガ葉月みか118
4ハッピー・クッキングわいさん343
5舞踏植木59
6白黒トノモトショウ360
7はるじいさんの横顔空人170
8シガテライグチユウイチ174
9スピードについて大覚アキラ540




 


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エントリ1  見ないフリ    蒼ノ下雷太郎


あなたが苦しんでいること
流した涙の数
無視していたわけじゃなかった

でも、僕はやはりこれを偽善だと知る

安楽を忘れられない手は
またあなたを苦しめるリモコンを握るよ
言葉を告げるのがこわくて
あなたを苦しめるゴミが投げられるのを、見ないフリするよ

いっそ、あなたが僕たちを殺せば
どれだけラクになるのかな
これも偽善だよね
本当は死にたくないくせに

僕が好きだった森は伐採されたよ
僕が好きだった川は汚染されたよ
僕が好きだった空は破壊されたよ

ねぇ、あなたは
もしかして、泣いているの

肌に痛い雨が降り注ぐよ
ねぇ、あなたはやっぱり泣いているの

ごめんね
それでも僕らは、自分たちのためだけに
見ないフリ





エントリ2  廻る    弥生


高度の下がった太陽は
真夏のそれより眩しくて
左の頬を突き刺した黄色い光に
顔をしかめた私
あなたは笑って
カーテンを引いた
そんなこわい顔するな、と言って

目を細めてみたら
少しだけ遠くまで見えた
地球の回転も躍動も
感じたことがないけれど
それでも確かに
ここに戻ってくること
いま 共有できない思いに
共感しあう二人が
この小さな部屋に戻ってくること

去年も感じた風が
夏の火照りが残った肌の上を
滑ってどこかにいった

ずっと軌道が変わらなきゃいいのに







エントリ3  ジェンガ    葉月みか


理解するとか
そんなのどうでもいいって

どうせ足りない言葉で
見失うだけ

感じてよ 私のこと

要するに
考えなきゃいいんだって

思考は言葉
その時点で終わってる

忘れてよ 私のこと


愛とか恋とか 全部 気分

ケータイで詩を書かないのは、書き殴れないからだよ。





エントリ4  ハッピー・クッキング
    わいさん



 甘く焦げた臭いが沁みた、爪を剥がせないのは、結局、自分が可愛いから。
 幾らかの涙と血を流して済めば、安いものだとおもっているから。
 神様は、信じない。
 運命も、呪わない。
 可愛くて、大嫌いな自分の腕を、噛み締めて我慢すれば、時間だけは過ぎてくれる。
 生き急いで、死に損なうほど、恥ずかしいことはない。
 今、殺してあげる。
 今、殺してる。
 近付かないで。
 今、わたしのなかで、あなたを殺し中。
 空を見上げるな。
 呑気に鼻歌など吹くな。
 あなたは、あなたの罪も知らないくせに、わたしの罰を裁くな。
 甘い言葉なら、中華鍋でまとめて焼いてあげる。
 今、料理中。
 お腹いっぱい食べておくれよ。気付いてくれよ。
 お腹いっぱいになったなら、あなたの絶望を聞かせておくれ。
 どんなに退屈だろうとも。






エントリ5  舞踏    植木


ある日
孕んだ女は思います

銀杏をみて
何故かしらと

胎児と
お母さんは共犯者

命は
ひとりごとのように

秋雨の下で
濡れ重なっています






エントリ6  白黒    トノモトショウ


隣人がボブ・ディランである可能性より
隣人が殺人鬼である可能性の方が高く
だが実際には隣人とは平凡なものであって
平凡なものが殺人鬼になる可能性の方が遥かに高い

(僕の親愛なるニガー
 ジョー・ジャック・フランシスコに捧ぐ)



WHITE○●BLACK



君は教会に行った
懺悔室で神父とシスターが交わっていて
主は遥か昔に死に絶え
人が信じるものは空虚なヴィジョンでしかない
ということを知った君は
川に行った
あっち側で手を振るインディアンを
こっち側で無視する君は
どこも狂っていないと自覚しながら
やはり異常である
ということを知った君は
ラブホテルに行った
あどけない少女の顔が
温もりと三万円を求めるように
股を開いていて
それは悲しいことだが
それは本当に悲しいことだが
射精した彼女は
こんなの狂っているわと呟き
やはり異常である
ということを知った君は
考えることをやめた





エントリ7  はるじいさんの横顔    空人


はるじいさんは
縁側で爪を切っている
パツン パ ツン と
不器用なリズム

髪の毛は伸びないのに
爪は伸びるの?
はるじいさんは
ひょっひょっ と笑う
パ ツン パツン と
ぎこちないリズム

切られた爪は
いろんなところへ飛んでいく
サンダルの上 盆栽の鉢 袋戸の陰

数秒前まで
はるじいさんだった爪は
切り取られ
いろんな場所へ散っていく
パツ ン パ ツン と
散っていく






エントリ8  シガテラ    イグチユウイチ


誰にも邪魔されずに生きていきたい


一晩で 15センチも

雪が積もった土曜日の朝に

そっと 真っ白な新雪を犯す

泥の足跡を

ゆっくりと 踏み抜く

何度も 何度も


今日はバイクに乗れない

こんな雪では

こんな道では

今日はバイクに乗れない

今日は南雲さんに会えない

今日は南雲さんに乗れない

こんな雪では

今日は 南雲さんに乗れない

乗りたい


邪魔をされずに 生きていきたい

誰にも 何にも





エントリ9  スピードについて    大覚アキラ


水の流れのはじまるところを想像していた
爪でつけた引っかき傷の薄くなって消えていくのを見つめながら
それはスピードについて考えることにとてもよく似ている
夕暮れはいつもゆっくりと訪れたかと思うと
油断した一瞬にスイッチを切るみたいにあっけなく終わる
それもまたスピードと深く関わっている現象なんだ
そんなあたりまえのことさえも
きみはつい最近まで知らなかったんだ
それは罪ではない
知らないままでいい
きみは知らないままでいいんだよ
そうさ
水の流れのはじまるところをきみは知らない
爪でつけた引っかき傷の薄くなって消えていくのをきみは知らない
そして
それは罪ではない
ピストルが今ぼくの手の中にないことを
ぼくは心の底から感謝したいと思う

ラヴ

アンド

ピース

あした夜が明けたらすぐに出掛けよう
中国縦貫道のちょうど真ん中辺りのサービスエリアのトイレで
ぬるいホットドッグを咥えながら並んで小便をしよう
ぼくはきっと
あまりにも馬鹿らしい壁の落書きに堪えきれずに噴き出してしまって
ホットドッグを口から落とすだろう
便器の中で小動物の屍骸のように転がるホットドッグが
悲しそうに水分を帯びていくのをぼくはじっと見つめるだろう
夕暮れが終わって金色の虹が真夜中の空に浮かぶまで
そして
それはスピードについて考えることにとてもよく似ている