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第1回学生課題小説バトル
Entry6

七つの熱帯夜

作者 : Began
学校 : 城北高等学校1年
Mail : Yockay@aol.com
Website :
文字数 : 996
 どうやらそれは、熱帯夜の暑さのせいによる幻覚などではなく、
本当に存在しているようだ。何と認識できるわけではないが、頭は
はっきりしているし、夢の中のわけもない。
 それは、空中に浮いて、球状で、表面は水がはうようで、色は無
数に見え、人を5人は軽く飲み込めそうな大きさの物体。

 その球の中は不思議と気持ちよかった。あのべっとりした暑さが
ない。先へ先へと進んで行くが、なかなか反対側にたどり着かない
……。

「1つ……」

 その先で彼女と会った。彼女もその球が気になっていたのか、球
の中から出てきた僕にすぐ気が付いた。驚いたに違いない。僕だっ
てあんなに驚いたんだから。

 彼女の名はリザ。外国語を話すので、それがやっと聞き取れた。
足が悪いらしく、ベットの隣には車椅子があった。彼女は僕を受け
入れてくれたらしかった。
 その夜、僕が東京に戻るとその球は消えた。

「2つ…3つ…4つ…5つ……」

 その日からその球は現れ、僕とリザを会わせた。3つ目の夜にな
って身振りでお互いの意思を通じさせることを覚えた。やはり、通
じないこともあり、そんなときには二人で笑って済ませた。リザの
笑顔は素敵だった。目を細め、白い歯を見せ、えくぼを作る。太陽の
光を浴びた花よりも輝いて。

 6つ目の夜のニュースで「熱帯夜は今日で終わり」と聞いた。今
夜かぎりでリザと会えなくなるのでは、そんな予感がした。リザの
笑顔が思い出になるなんて嫌だ。このまま夜が来なければいいのに。

 リザを見たとたん、目の奥に何かが結晶した。見せるわけにはい
かない。それを隠すことを優先した。
 リザが笑う。いつもの輝きがない。僕が隠している涙に気づき、
慰めようとしているのか。
 心配させたことが悔しくて、僕の目から全てがこぼれた。泣くな。
泣くな。わかってるのに……。
 リザが泣き出してしまった。僕の涙もかれる気配を見せず、どん
どん量を増す。
 リザが揺れて見える。このまま消えてしまいそう……。
 手を握られて気づいた。リザは泣きながらも笑顔を崩していない。
思わず手を強く握り返した。
 リザの声を聞いた気がした。いや、気持ちがはっきりわかる。笑
顔の意味さえも。
 握った手を通して僕らの心がつながった。
 リザはすごい。僕なんかよりずっと遠くを見ている。今日の別れ
も予感となる1つの未来に違いない。しかし、未来は無限に広がる。
そう、きっとまた来年会える。
 6つ……。

「7つ……」






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