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第1回学生課題小説バトル全作品・結果一覧



課題:夏の夜(自由な発想で自由にやってください)



#題名作者文字数
1花火が散るまでRuima (フェリス女学院高校1年)999
2夏の夜空に浮かぶものすずのすけ (國學院高校3年)806
3俺の幻影蛍北条みゆい (学芸館高等学校2年)910
4(作者の希望により掲載を終了いたしました)
5夏夜夢 勿忘草青葉大地 (静岡県立富士東高等学校2年)999
6七つの熱帯夜Began (城北高等学校1年)996

第1回学生課題小説バトル
Entry1

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花火が散るまで

作者 : Ruima
学校 : フェリス女学院高校1年
Mail : usamin@bi.mbn.or.jp
Website :
文字数 : 999
 夏祭りの夜。屋台の並ぶ商店街から離れた川沿いの土手に、僕は
立っていた。約束は8時、花火の始まる時間。腕時計の長針はまだ
10の所だ。早かったかな。そう思っていると、浴衣姿の紺野が僕
を見つけ駆け寄って来た。
「ごめんね、澤田。呼び出したりなんかして」
「ううん。どうしたんだ? 突然」
「私ね、澤田のことが好き」
 一瞬、時間が止まった。どうしよう。何か言わなくては。焦るほ
ど言葉が見つからない。悩む僕に、紺野は真顔を崩して笑いかけた。
「いいよ、答えてくれなくて。澤田、スズカのこと好きなんでしょ?」
「……ごめん」
「謝らないでよ。わかってたけど、どうしても言っておきたかった
だけだから」
 ドーン!
 夜空に1発目の花火が上がった。
「ねえ澤田。この花火が終わるまでだけ、恋人してよ」
「でも……」
「フリでいいから。お願い」
 笑顔の紺野の瞳が妙に真剣に見えて、僕は頷いた。
「いいよ」

 それから僕達は、手を繋いで花火を見た。
「綺麗だね」
「うん。でも悲しい。華やかだけど、すぐに消えちゃう」
 紺野が妙に寂しそうだったから、僕は懸命に言葉を捜した。
「けど花火は消えてもさ、2人でこうして見た思い出は一生モノだ
ろ?」
「スズカとじゃなくても?」
「今はおまえが恋人だろ、ナオ」
 初めて呼んだ名前。紺野は答えの代わりに僕の肩に頬を寄せてき
た。
「ありがとう」

「今日はつき合わせてごめんね。楽しかったよ」
「うん、僕も」
 それから彼女は僕に背を向け、肩越しに笑って言った。
「じゃあね。バイバイ!」
 駆けて行く紺野は、暗闇に溶ける様に見えなくなる。何故か、紺
野が本当にどこかに消えてしまうような気がした。休みが明ければ
また学校で会えるはずなのに。

 家に帰ると、母が慌てて居間から飛び出してきた。
「ケンタ、同じクラスの紺野さん! 夕方、交通事故に遭って亡く
なったって!」
 え? 嘘だ。そんなはずない。だって、それじゃあ僕とさっきま
で一緒にいたのは、一体誰だったって言うんだ?
『澤田!』
 紺野の笑顔が、声が、頭の中いっぱいに広がって。僕は思わず玄
関の真ん中にしゃがみこんだ。涙が溢れ出た。
 ごめんな。答えてやれなくて。おまえ、好きになる男、間違えた
よ。
 でも嘘じゃないから。密かに浴衣姿にドキッとしたのも、忘れな
いって言ったのも。全部本当だから……。

 生涯忘れられない夏の夜。花火より鮮やかな笑顔を僕の胸に刻み
付け、君は夜空に消えてしまった。


第1回学生課題小説バトル
Entry2

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夏の夜空に浮かぶもの

作者 : すずのすけ
学校 : 國學院高校3年
Mail : st-ngsw@ms.tokyo.jcom.ne.jp
Website :
文字数 : 806
彼の記憶は常にその白に近い金色の輝きと共にある。

最初に、「それ」に気がついたのはいつの事だったか。
十歳? 十二歳? 最初は、可愛がっていたハムスターだったから
…そう、小学四年生のころだ。

その次は、猫。そして、犬。田舎のおばあちゃん。おじいちゃん。
近所に住んでた幼馴染のアイザワ。初恋の相手の、エミちゃん。姉
貴。弟。そして、お父さん。お母さん。その後も、たくさん。

彼はその白金の光を見上げるたびに、疼きを感じた。罪悪感を覚え
た事は無いが、不安を感じたことはある。自分は、くるっているの
ではないか、と。だが、そんな不安は光に包まれると消滅した。要
するに、自分はそういう生き物なのだ。ただ、それだけの話。

彼は闇夜に浮かぶ「それ」に、自分が抱えているものをつきつけた。
あたかも、捧げるように。

彼の周りには、自然に誰も寄り付かなくなった。当然だ。彼に関わ
る人間は次々と死んでいくと言う事実は、人を避けさせるのには十
分すぎる理由だった。だが、彼女は違った。そんな話を聞くたびに、
笑いとばした。それがなんだっていうの? と。

愛しくて、愛しくて、何よりも大切なものに思えた。その分だけ、
喜びも大きかった。こんなに疼いたのははじめてだった。

彼は誇らしげに掲げたそれを、また自分の胸にかき抱く。もうあの
笑顔が見られることは二度と無い。だが、その静かな表情が崩れる
ことも二度と無い。これだけの喜びをくれた彼女に感謝して、せめ
て苦しまないようにしたのだから。

彼は冷たくなった彼女の唇にくちづけをする。長い長いキスの後、
耳元で静かに囁く。

いまからつぎがまちどおしい。はやくきみのところへいきたい。

彼女の首を抱きながら、彼は座って「それ」を見上げる。もう彼に
残されたものはなにもない。ただひとつ、彼の生命の他には。

夏の夜空に浮かぶ月は、何一つ欠けることが無い美しき己の姿と、
「それ」自身が放つ白に近い金色の輝きを以って、

漆黒の天空を支配していた。


第1回学生課題小説バトル
Entry3

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俺の幻影蛍

作者 : 北条みゆい
学校 : 学芸館高等学校2年
Mail : miyui58@hotmail.com
Website : http://www7.tok2.com/home/miyui/
文字数 : 910
「あのう、雄二君、居ますか? 」
加奈が浴衣姿で家の玄関に顔を出した。今日の彼女は妙に色っぽく
見えるのは服装のせいだろうか。俺と彼女は一応恋仲だった。とは
言うものの付き合い始めて一週間しか経っていないけど。

「ったく、このくそ暑い時に蛍見に行くだなんて」
「こら、文句いわないで。どうせ花火見に行く約束してたし、ちょ
っと早く出たと思えばいいじゃない」
彼女のたしなめる声を心地よく聞きながら俺達は学校の側の蛍の名
所の川に向かった。結構すでに人が溜まっている。友達の顔もちら
ほら見える。適当に言葉を交わして、適当に冷やかされながら俺は
加奈と歩いた。真っ暗になる時間より少しだけ早く蛍は光を放ち始
めた。俺は加奈とでっかい石の上に腰をおろしてぼーっとそれを眺
める。しばらくして加奈が突然立ち上がっり川を背にし、少し距離
を置いて俺と向かいあった。なんだろ・・・・・・?

「砂時計の砂が落ちきる前に言いたかったの。あのね本当は私、蛍
なの。ここからいつもあなたの事見てました。学校の教室からこの
川をみてるあなたに私は恋をしたの。でも、わたしは蛍だから思い
を伝えることはおろか、話も出来なかった。だから、神様にお願い
したの。どうか、雄二君と話が出来る様に人間にして下さい。ほん
のちょっとでいいから・・・・・・ってね。だけど、もう時間切れ
なの」

唖然とする俺と彼女の間に遠くから花火の音が割って入った。その
音に驚いた蛍が一斉に光を消してしまう。同時にかすかに見えてい
た加奈の姿が目の前から掻き消えてみえた。
「加奈ぁ! 」
思わず俺は叫んでしまった。その時妙に恐怖を感じた。彼女がいな
くなることに。

「なーんてね。何おっきな声だしてるのよ? まさか信じちゃった
の」
「うっせーな」
くすくす笑う彼女に俺は赤面するしかなかった。確かにちょっとで
も信じかけた俺って馬鹿かも。
「ごめーん。じゃ、そろそろ花火いこ」
「わりぃ、もうちょっとここにいさせてくれ」
「どうして?」
「・・・・・・」
「消えたりしないよ、私」
そういって加奈が俺の手を握って引っ張った。
また花火の音がする。さっきと同様に蛍は逃げるように闇に溶けた。
加奈の姿も良くは見えないけど俺の掌にはしっかりと彼女の小さな
手がおさまっていた。


第1回学生課題小説バトル
Entry5

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夏夜夢 勿忘草

作者 : 青葉大地
学校 : 静岡県立富士東高等学校2年
Mail : snmm@thn.ne.jp
Website :
文字数 : 999
「ねえ、どうしたの?」
 突然、僕と同い年くらいの見知らぬ女の子が話しかけてきた。
「え?」
「え?じゃないわ。せっかくのデートなのにさっきからボーっとし
てて上の空じゃないの」
 いきなりそんなことを言われても、僕には何もわからなかった。
僕は、彼女のことを、まったく覚えていないし、そもそも何故自分
がこんな所にいるのかどうかもわからない。なんか、まるで夢の中
にいるような………。
 何も答えれずにいると、今度は心配そうに話しかけてきた。
「もしかして、熱でもあるんじゃないの?」
 彼女の手が、僕の額に触れた。
 その感触が、現実感を呼び戻していきだんだん今の状況がわかっ
てきた。
 そう、彼女は栞は僕の恋人で、今日は一ヶ月ぶりのデートで遊園
地に来ているところなのだと。
「大丈夫だよ。ちょっとぼーっとしていただけだから」
 栞の手を心地よく思いながら答える。 
「そう?ならいいけど……」
「ほんとに大丈夫だって、それより早く乗り物にでも乗ろうよ」
「それもそうね。じゃ、行きましょ」



 それから、僕たちは遊園地を思いっきり楽しんだ。
 絶叫マシン乗ったり、アイスを食べたり。お化け屋敷では、栞が
悲鳴を上げて僕にしがみついてくる様子が可愛かった。怖いもの知
らずの性格のくせに、こういうものだけは苦手らしい。
 閉園近くまで遊んで、最後に、観覧車に乗ることにした。


 向かい合わせに座ったのは良いけれど、栞の顔を見るのがなんだ
か照れくさくて、僕は窓の外の夜景を見ていた。
「今日はどうもありがとう、とっても楽しかった」
「ううん、こっちこそ楽しかったよ。またいつか来たいね」
「うん、そうね。また何時か来れると良いよね」
 栞は微笑みながら、僕の方に移動して来た。
「ど、どうしたの?」
 僕の問いには答えずに、栞は僕の額に手のひらを当ててきた。
 すぅっと、意識が遠くなっていくのを感じた。
「本当にありがとう。そして、ごめんなさい。でも、あなたと……」
 薄れる意識の中、右手に何かを握らされたような気がした。





 目が覚めると、僕は自分の部屋にいた。
 何か夢を見ていたような気がしたが、靄がかかったようで思い出
そうとしても思い出せなかった。
 右手の手のひらに違和感を感じ見てみると、青い小花が集まって
咲いている花。勿忘草を握りしめていた。
「勿忘草。確か、花言葉は『私を忘れないで』………」
 窓の外を見てみると、月が煌々と夜の街を照らしていた。
 夏の夜は静かに更けていった。


第1回学生課題小説バトル
Entry6

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七つの熱帯夜

作者 : Began
学校 : 城北高等学校1年
Mail : Yockay@aol.com
Website :
文字数 : 996
 どうやらそれは、熱帯夜の暑さのせいによる幻覚などではなく、
本当に存在しているようだ。何と認識できるわけではないが、頭は
はっきりしているし、夢の中のわけもない。
 それは、空中に浮いて、球状で、表面は水がはうようで、色は無
数に見え、人を5人は軽く飲み込めそうな大きさの物体。

 その球の中は不思議と気持ちよかった。あのべっとりした暑さが
ない。先へ先へと進んで行くが、なかなか反対側にたどり着かない
……。

「1つ……」

 その先で彼女と会った。彼女もその球が気になっていたのか、球
の中から出てきた僕にすぐ気が付いた。驚いたに違いない。僕だっ
てあんなに驚いたんだから。

 彼女の名はリザ。外国語を話すので、それがやっと聞き取れた。
足が悪いらしく、ベットの隣には車椅子があった。彼女は僕を受け
入れてくれたらしかった。
 その夜、僕が東京に戻るとその球は消えた。

「2つ…3つ…4つ…5つ……」

 その日からその球は現れ、僕とリザを会わせた。3つ目の夜にな
って身振りでお互いの意思を通じさせることを覚えた。やはり、通
じないこともあり、そんなときには二人で笑って済ませた。リザの
笑顔は素敵だった。目を細め、白い歯を見せ、えくぼを作る。太陽の
光を浴びた花よりも輝いて。

 6つ目の夜のニュースで「熱帯夜は今日で終わり」と聞いた。今
夜かぎりでリザと会えなくなるのでは、そんな予感がした。リザの
笑顔が思い出になるなんて嫌だ。このまま夜が来なければいいのに。

 リザを見たとたん、目の奥に何かが結晶した。見せるわけにはい
かない。それを隠すことを優先した。
 リザが笑う。いつもの輝きがない。僕が隠している涙に気づき、
慰めようとしているのか。
 心配させたことが悔しくて、僕の目から全てがこぼれた。泣くな。
泣くな。わかってるのに……。
 リザが泣き出してしまった。僕の涙もかれる気配を見せず、どん
どん量を増す。
 リザが揺れて見える。このまま消えてしまいそう……。
 手を握られて気づいた。リザは泣きながらも笑顔を崩していない。
思わず手を強く握り返した。
 リザの声を聞いた気がした。いや、気持ちがはっきりわかる。笑
顔の意味さえも。
 握った手を通して僕らの心がつながった。
 リザはすごい。僕なんかよりずっと遠くを見ている。今日の別れ
も予感となる1つの未来に違いない。しかし、未来は無限に広がる。
そう、きっとまた来年会える。
 6つ……。

「7つ……」

バトル結果

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第1回Q書房夏休み課題1000字小説バトル
課題───夏の夜(自由な発想で自由にやってください)
作品受け付け中!!───7月21日〜8月20日迄(終了)
作品発表───到着次第順次発表
人気投票受け付け───8月21日〜8月28日迄(終了)
投票結果発表中───8月31日



第1回Q書房
夏休み課題1000字小説バトル
結果発表第1回チャンピオンは
KAZU・改さん作『海人(うみんちゅ)の戦争』に決定です。
おめでとうございます。



作品
海人(うみんちゅ)の戦争(KAZU・改)5
俺の幻影蛍(北条みゆい)3


お詫び:最終票1票が掲載漏れしていました。
よってKAZU・改さんの倶票数は5票なりました。
投票された方、KAZU・改さん、並びに読者の皆様にお詫び申しあげます。



海人(うみんちゅ)の戦争(KAZU・改)

俺の幻影蛍(北条みゆい)







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