第2回学生作者限定テーマ付き1000字小説バトル

エントリ 作品 作者 文字数
1 変わらない。 児島柚樹 997
2 野ビルの会 歌羽深空 1000
3 HAIR yuki 1000
4 シグナル 芦野 前 1000
5 朝方の集中伸長・受取人 鈴矢大門 1000
6 暇つぶし反比例グラフ 左右田紗葵 1000
7 伸びていく 神風夜月 1056
8 無関心、若者世代 篠崎かんな 1072
9 カガクシャ 南那津 1000
10 天までとどけ Began 1000
結果発表







エントリ1  変わらない。     児島柚樹


身長が伸びた。
まいった。
どこまで伸びるんだよ私は。

私は背がでかい。
中学卒業現在で170cmだ。

ヤバイ、このまま伸び続けると富士山越す勢いだよ。


「京。」
幼馴染のタカが声をかける。
こいつはチビだ。
160もない。

「うわ。でか。」
「やかましい!!」
「ほら、帰るぞ。」

二人で帰るのはこれが最後。

桜が咲く季節には私たちは違う高校だから

今日でタカとはサヨナラ。

「じゃぁなタカ。」
「おう。元気でな。」

二人で笑いあって、

もう毎日は会えないだろう。



何回か
春がきて

タカとは本当に会わなかった。

私は高校を卒業してた。
短大に入って、2年。

就職活動に励む中、

一通のハガキがポストに入ってた。

【同窓会】のお知らせだ。

中学校の思い出が鮮やかに蘇ってきた。
だから、
私は行くことを決めた。

当日。
「京?!久しぶりぃ!!背ぇ変わってないね。もっとでかくなってると思った。」
声をかけられたのは、同じクラスで仲のよかった朋美だった。
確かに私の背は中学校から少し伸びたくらいだった。

「ちょっとトイレいってくるわ。」
席を立って、トイレにむかった。

途中、誰かにぶつかった。
「ごめんなさい。」
「いえ、こっちもぼーっとしてたんで。」

ぶつかった人は誰かににてた。

「京・・?」

そいつは私を知っていた。
でも分からなかった。

「オレだよ。タカ。」

「!!!」

タカだった。
ぜんぜん分からなかった。

だって

私よりでかいんだよ?

「え。うっそ。おっきくなった。」
「そうそう。高校からグングン伸びたの。」

ふわっと笑う顔は変わっていなかったけど
私より何もかも大きくなってた。

同窓会が終わり、
私はタカと一緒に久しぶりに学校に行ってみた。

門は閉まっていて入れなかった。
けど、タカは門を楽々と跨いでった。

「京も早く。」
「上れないよ。こんなの。」

タカはえらそうに笑って、手を差し伸べてくれた。
少しムカついたけどタカの手を握った。
やっぱり私より手は大きくて
不思議な感じがした。

校庭は昔と変わらないでそのままだった。
「やー。懐かしい。ここで部活とかしてたんだよな。」
「そうそう。朝会とかね。」
「夏とか暑くて死にそうだったよなぁ。」
「倒れてた人とかいたよねー!」
昔話に花が咲いた。
タカは昔のタカのままで、
私はよかったと思った。

「タカ身長伸びたね。」
手を私の身長に合わせて伸ばしていっても
タカの肩くらいしかなかった。

「身長が伸びてもオレはオレだよ。京。」
タカが笑う。
それはやっぱり昔と変わらずだった。




エントリ2  野ビルの会    歌羽深空


私が警視総監宅の庭木の手入れをしていると、矢文が飛んできた。
その珍しさから、総監は興味深そうに読んではいたものの、読み終えると何か呟いて手紙を捨ててしまった。
その光景を見た私としては、興味をもってしまう。
帰り際、そっとゴミ箱から手紙をくすねて、家に帰って読んでみた。
すると、何やら驚くべき事が書かれていたのでお知らせいたします。
郵便は、信用できないので。



野ビルの会は素晴らしい会だ。
野ビルの会とは森にビルを幾つも建てホームレスを住まわせる、民間団体だ。
ホームレスには、一切の代金は求めないが三食昼寝付きの生活をさせてくれる。
ビルというよりアパートだが、会員達がビルと主張するのだから、仕方ない。
好きに帰ってよい事になってはいるが、この暮らしからすすんで抜け出そうという人はいない。
逆に、怠け心から自らホームレスとなり、ビルへ住む人もいた。
しかし、野ビルの会は一向にそれを拒まない。

資金の方は、野ビルの会会員である財界人などが少しずつ融資をしている。
最近では、国も補助金を出している。
ホームレスはこう語る。「この生活はやめられない」と。

しかし、それは本当の事実を知らないから言える事なのだ。

野ビルの会は、三つの部署に分かれている。宇宙部、財界部、ノア部である。

宇宙部は、主に異星人や製薬会社からの人体実験用の人間のニーズに応える部署だ。
野ビルが森や山奥にあるのは、連れ出しやすいようにするためで。
ホームレス達は何人もいるから一人や二人気づかない。
それに、ホームレス達の身元は不明なのだ。

財界部は、会員が病気の際の移植や輸血に関る部署だ。
会員一人ずつに拒否反応や型の違いが表われないドナーを探す。
たくさんのホームレスを収容しているからこそ、できる芸当だ。

最後に、ノア部。
ここは働こうとしない人間などいても仕方ないを信条に働く部署だ。
収容されているホームレス達を、少しずつ消してゆく。
それに、遺族などいないのだから訴えも無い。
そして、全員が消えたところで新しい世界を作ろうという事なのだ。

野ビルの会とは野のヒルのように、すべてを吸い尽くす会なのだ。



宅急便で送られてきた箱に入っていた手紙を大臣は読み終わると、何かを呟き直ぐにゴミ箱へ投げ入れた。

大方、大臣も総監もこう呟いたのだろう。「この生活はやめられない」と。
そして、二人はおそらく財界部の……。



大臣の執事が手紙をそっと手にとった。



連鎖の輪は伸びていく。




エントリ3  HAIR    yuki


 気が付けばそれは伸びていた。

 鏡を見て、自分の疲れきった顔にうんざりする。やせた頬、くぼみがちな目。しわの多い乾燥気味の唇。
 昨日のスクリュードライバーが脳みそと皮膚の間で、その名の通りスクリューしてる。そのねじ回しはぐるぐると回り続けて、どこかにあるあたしのねじを必死に外そうとしている。それを外した所で、あたしの一体全体何が出てくるかは判らないのだけど。

 やせた頬、くぼみがちな目。しわの多い乾燥気味の唇。
 そして、肩でいかにも不躾に跳ねている直径50ミクロンの髪の毛達。
 
 美容院に行ったのは、もう半年も前のことだ。普段なら、2ヶ月開けずに行くはずなのに、時々あたしはこうなる。調子はいかがですか?と、書かれている(もちろんコピーでだけど)その場違いな葉書を見ながら、溜息をつく。
 夏の日差し。客のいない店内。眠たげに、それでも堂々としている、いくつもの椅子。もったいない。と、笑った爽やかな美容師の口元。しゃきり、しゃきりと小気味いい音。熱めのシャワー。まぶたに心地よい蒸しタオル。読み荒らされた雑誌類。鏡に映ったうんざりな自分。
 
 ずさんになっていく髪の毛とは裏腹に、あたしの顔はその形相を必死に隠そうと、ファンデを厚く塗り、似合わない明るめの口紅や濃い目のアイシャドウを必要以上に酷使している。体重計のメモリは日に日に数字を減らしていき、履き慣らしたジーパンはしきりにサイズを下げろと言ってくる。ブラのカップをいつもより多めに入れてるけれど、上着の上からでもその不恰好な胸の形が手に取るようにわかる。
 映画の本数、家での自炊、友人と会う事、笑う事、喋る事、テレビ、外食、メール、キスも電話も買い物も。
 何もかもが、減っていく。まるで、ジェットコースターの落下スピードと比例しているみたいに、どんどんどんどんどんどんと。

 ラッキーストライクの匂いが部屋中に立ち込めて、2箱分の吸殻を食べ終えた銀色の、その味気ない灰皿は満足そうにあたしの横で眠っている。
 増えたものといえば、煙草と酒と化粧品の数だけだ。結局はそれしか残らない。全部、あたしを見捨てて去っていった。もちろん、男も。

 やせた頬、くぼみがちな目。しわの多い乾燥気味の唇。
 直径50ミクロンのこの子達の栄養分はきっとあたしの思いで、いつのまにか、どんどんどんどんどんと、あたしの下らない醜い感情を吸い取って行き

 気が付けばそれは。

作者付記:髪の毛の直径は50〜100の間で色々と説がありますが、此処では50を取り上げました。
専門的なことは判らないので、ごめんなさい。
念のため、スクリュードライバーはねじ回しという意味のカクテルで、ラッキーストライクは煙草の銘柄です。



エントリ4  シグナル    芦野 前


「最近駅まで迎えに来ないよね」
 家から走って坂を上がって、カンカン鳴ってる踏切に滑り込み駅の階段をのぼって、その途中でついに手すりに情けなく体重を預けた俺を見下ろし、傲然と彼女は言い放った。
(今来たじゃん)
 チクリと心に棘が生まれる。
 しかし俺はこんなところで口答えをするほど馬鹿ではない。
 ああそうだねゴメンね、と適当に呟くと、彼女は携帯を持ったまま俺の横をすり抜けて階段を下りていってしまった。
 俺は、慌てて後を追う。
「メールもすぐに返さない。ご飯はいつもマックかケンタ。良くってそこらのファミレス。服も買ってくれなくなった。誕生日にもティファニーくれなかった。最近ホテルじゃなくてあんたの家ばっか行ってるし、なんか見た目とかテキトーになった」
 彼女のいつもより速い歩調がそこで突然ピタリと止まって、体ごとこちらを振り返った。
「ねえ、私ってあんたの何?」
 気丈にも疲れた顔は見せないままこちらを睨みつけるその目に、俺は何も言い返せなかった。
 そのまま彼女はすごい速さで目の前の道を進み始める。
 でも俺の足は、その場から動かない。

 二人の間の距離は、どんどん伸びていく。

(何!?)
 それは俺が聞きたい。
 俺はアッシーか、おまえの財布か、都合のいい従僕か。
 ちょっと顔がいいからって調子にのんな。
 手料理なんて出したこともないのは誰だ。
 一緒の時間ほしいからバイトやめてって言ったのは誰だ。
 おまえなんか、おまえなんか、おまえなんか。
 今まで少しずつ溜まってきた俺の憤りが、ここにきて爆発しそうになる。

 ちょっと待て。
(そうじゃない)
 頭の奥の何かが、俺の中で鳴り響く。
(何だ?)
 それは一つの言葉になって、俺から出ようと必死でもがく。

 気がつけば彼女は横断歩道を渡りきっていて、その信号は無常にもぴっかっぴっかっと俺に細切れな光を送っていた。
 遠くに小さく見える彼女の顔はよく分からない。
 でも、笑ってはいない。
 俺は急いで、点滅して今にも消えてしまいそうな青色に向かって走り出す。
 男の足で追いつくと、後ろから彼女を抱きしめた。
「何!?」
「好きだから」
 噛み付くような声だったけれど、めげることなく俺は言いたいことだけを言う。
 ちょっと何を言おうか考えている間があったが、それを無視してもう一度俺は突っ込む。
「恵理は、俺の、『好き』だから」

 二人で一つの影が、暮れかけた日に照らされて、歩道に伸びていく。




エントリ5  朝方の集中伸長・受取人    鈴矢大門


 指の先の皮を剥いていた。爪との境目のある白いところって、何だか嫌なもので。ゆっくりと引っ張って少しずつ剥いでいく。すると、ぺろり、と剥がれた、かと思いきや、何か白い糸がさらに繋がっていた。今度はその糸を除けようと思って、くいっと引っ張ってみた。するとその糸は何の抵抗もなく伸びてきた。ここで切ろうかと思ったんだけど、するすると出てくるのが楽しくて、そのまま引っ張り続けてみた。するすると糸は次々に出てくる。僕はわくわくしてきた。白い糸はまだ出てくる。

くい、する、くい、する、くい、する、………。

まだ出てくる。そろそろ隣にはこの白い糸の小山ができ始めていた。それでもまだ終わらない。いつまで出てくるのかなあ。僕はどきどきしている。この白い糸は何なんだろう。

くい、する、くい、する、くい、する、………。

終わらない。そろそろ僕もぞくぞくしてきた。この糸、何だろう。体から沸いて出るこの糸は一体…。白くて、つややかなこの糸。その山はもう座っている僕の胸まで来ている。

くい、する、くい、する、くい、する、………。

だんだんと手ごたえが変わってきた。少しだけれど、重くなってきている、気がする。もうすぐで、終わりなのかもしれない。僕はびくびくして来た。何かとんでもないことをやっているのではないだろうか。この糸、出しちゃって良かったものだろうか。

くい、する、くい、する、くい、する、ぐい。

あ、何か終わりそう。重い手ごたえがする。ぐいぐい。ぐい。あ、何か指先がむずがゆいし。僕は思い切り白い糸を引っ張った。

ぽん!
『以下同文。』

…。……。
旗かよ。以下同文か。糸ねえ。ていうか指から。以下って。本文何だよ。卒業? 夢? むしろ夢オチの方が僕としては幸せだ。でも、現実は辛い事だらけだ。

疲れたので、僕はぐっと伸びをして昼間だが眠る準備を始めた。ごきり、と背骨が鳴って、必要以上に伸び伸びした気もした。体中から糸が取れたせいかもしれないし、単に同じ姿勢で居過ぎたからのような気もする。

白い糸は、綺麗で強い糸だったから、夜になっていくつかより合わせて縄にして、洗濯物干し紐にしてみた。なかなかいい感じである。また次回僕から卒業証書(仮)が出るまでは、是非とも伸びることなく活躍して欲しいものだ。

ところで、次回はあるのだろうか。僕は一体何を卒業したんだ?



そういえば糸に夢中で昨日は……。……。

昨日は……昼から大学の卒業式だった!




エントリ6  暇つぶし反比例グラフ    左右田紗葵


 待ち人は、あと30分ぐらいしたら来るとかなんとか言っていた。
 私はすれちがう人間の群れより遅いスピードで時間をやり過ごし、壁にそって通路を歩く。曲がり角で正面衝突未遂をする。立ち読みのためだけに利用する駅構内の本屋に入る。ぱっと見て表紙が気に入ったハードカバーの小説を立ち読みした。通路の狭いその本屋では、教科書でふくれた鞄をもった私は邪魔者にすぎない。容赦無くぶつかって通る人々。こういう時だけ悪い子になってみる。肩にかけた鞄を床におろすべきなのかもしれないと思いながら、そうしない愚行。
 小説は、カエルの生肉を毎日愛猫に食べさせることが趣味の老婦人の話だった。孤独な老婦人と愛猫のかわいた交流と、しわしわの老婦人がぷりぷりのカエルを捌く生々しい描写が素晴らしい。お金があればこの本を買って部屋の本棚に加えたいけど、無理。
 時計を見ると、すでに30分経っていた。駅に着いたら携帯電話に連絡ををくれるはずなんだけど。心配になって、急ぎ足で本屋を出た。壁際はいっぱい人間が歩くから反対側を通って、人間の群れと同じスピードで群れを横切り、改札口の前に辿り着く。人待ち顔の人間、行き場も目的もなく屯する女や男がたくさんいた。かえって目的を持ってそこにいるのは淋しい気がした。早くこの場を離れたくて電話をかける。呼び出し音が5回鳴って、若い声の相手が出る。
「あ、あの……」
喧騒にかき消される声。何か話されても聞こえない。
「え?」
聞こえ辛い声だけど、あと10分ぐらいで着くというようなことを言っているのは分かった。そして私にそれでもいいかどうか尋ねているだろうこともわかった。
「うん、わかった。」
とりあえず返事をして、電話を切った。ひとり、ふたり、さんにん、よにん。改札を通る赤の他人を見送る。じみなひと、こわいひと、にらむひと。
 しばらくして、待ち人現る。一緒にいつもの2番線で上りの電車を待つ。時刻表を見る時に「上り列車」を「あがりれっしゃ」と読んでしまい笑われる。電車を待つ列に並んでいると鳩を見つけた。話題が無く気まずいので、できるだけ無邪気に鳩を指して
「ハトだ。」
と言ったら、止めろというのに手に持っていた食べかけのパンを与えた。予測通り鳩は餌を求めて電車に乗るまでついてきた。
「なんでハトは頭と足が一緒に動くの?」
ゼンマイ仕掛けだからと答えられた。この関係すらなんだか解からないのに私は一緒にいる。




エントリ7  伸びていく    神風夜月


 二週間前、会社帰りに寄った骨董屋で美しい人形を手に入れた。
 人形と一口に言っても多様だけど、今までに見たことがないくらい素晴らしいできだった。
 夜の海のような漆黒の髪。透き通るような蒼い目。誘うような赤い唇。上質なドレスに、愛らしい顔。
 たった一瞬だった。
 私はすっかり魅入られたのだ、今にも動き出しそうなその美に。


 私はその日、上機嫌で人形を持ち帰った。
 ケースに入れて埃がつかないよう大事に保管し、窓辺の低いチェストの上に置いた。
 それからというもの、人形を眺めるのが私の楽しみになっていた。
 私は人形をうっとり眺めては、この子が動き出したらいいのにと、想像しては幸せな気分に浸っていたのだった。
 私の行動は日に日にエスカレートしていったと思う。
 最初は眺めているだけで満足していたのに、人形に話しかけながら髪をすき、終いには人形に着せるドレスを作っては着せていた。
 小さい子供のような行動に、自分でも大の大人がと呆れていたのだが、部屋に入って人形を見てしまうともう、だめだった。可愛くて可愛くてしかたがなかった。
 だから、気づけなかったんだと思う。
 

「やつれてるわね」
 ある日、会社の友人が言った。
「まさか。残業もないし、ダイエットもしてないのよ」
「嘘。顔が青いわ」
 ポケットから鏡を取り出して覗き込むと、私の顔は血の通っていないかのように、真っ青だった。
「九時間も寝てるわよ。どうしてかしら」
「最近買ったていう人形が原因かもね。美しい物には魔が潜んでいるって言うし」
「やめてよ」
 笑いながらも、黒い予感を払拭することはできなかった。
 

 家に帰ると変わらずに、人形は窓辺に鎮座していた。
 まさか、ね。
 会社での会話を振り切るかのように、浴室で熱いシャワーを浴びた後、ふと人形に目を向けたその時。
 私はとうとう気づいたのだ。
 友人のあれは性質の悪い冗談なのだと、そう思い直そうとしていたのに。
 息を呑んだ。ありえない事だった。月光によって映されたその影を最初見たときは、人形のそれより一回り大きいくらいだったっていうのに。
 影が、壁一面に広がっていた。
 伸びていく。日に日に少しずつ、でも着実に。
 背筋が凍りつき、動けなかった。代わりに私は、察してしまったのだ。
 あの人形は人の生気を喰うのだ、と。
 闇の中でも人形の唇が湿っているのがわかった。てらりと光るあれは、かつて喰らった人間の血。
 逃げ出そうとしたけど体がいうことをきかなかった。
 人形がニタッと笑ったと思ったら。


 後のことはもう、覚えてはいない。




エントリ8  無関心、若者世代    篠崎かんな


 テレビを付けると、朝のニュースが流れた。
「今年は米の大豊作です。また、各種野菜も例年の収穫量を超えています」
 あくびをしながら、カーテンを開ける。朝日が辺りに入り込み、窓辺にぽつんとあるサボテンを浮き上がらせた。俺はいつもと同じように声を掛ける。
「バーカ」
 明るさに目覚めたサボテンが微かに体を震わした。
「うっさぃ、朝や『おはよう』ぐらい言えや」
「誰が言うか、オウムならともかく」
「オウムより、あったまええで」
「バーカ」
 喋りまくるサボテンはほっといて、朝食の用意を始める。
 やっぱ育て方間違ったな……。
 一ヶ月前に発売された『あなたが育てる、あなただけの話すサボテン』
 流行に乗って買ったはいいが、毎朝「バーカ」っと言っていたら、あんな奴に育った。
 テレビの前で朝食を食べる、どっかの戦争、被害、テロ……
「なぁ、聞けや」
「ニュース見てるんだよ」
「どうせ頭にゃ、入ってないやろ。そんなのより有益な話してやっからさ」
 リモコンのボタンを押す、規則的に単語を発していたテレビは消え、朝の静けさが拡がる。朝日に照らされていた植物を掴み、朝食のすき間に置いた。
「聞いてやる、何を言う?」
「なんで人間は戦争を起こすのか」
「ふん」
「おっと、その辺で威張ってる評論家のと、違うで」
「宗教か? 侵略か?」
「本能や」
 自信ありげな、はっきりした声。
「どんな動物にも天敵が必要なんや。けど、人間にはどんな動物も歯たたん。だから、人間は人間が天敵なんや。平和が良いってわかってて、結局争ってるのは、本能につぶし合えって言われてるからや」
「偉そうに……」
「実はな、結構怖がっててん」
「誰が?」
「俺ら植物。人間はあまりにも増えすぎた。最近、俺らの中で開発された『本能を強める成分』とやらが有ってな、人口増加を防ぐ為に少しずつ蓄積してる。どんな人も植物食うやろ? だから、このごろ戦争多いんや」
「まさか?」
「信じないならええで」
「大体……お前、ばらしていいのか?」
「俺は将来植物がどうなろうとええねん。今楽しければそれでええ」

 ついこの間まで、食べられる事を嫌がるように凶作だった米、それが今年は大豊作。そしてまるまる太った野菜、果物、お茶に海藻までも、食べてくださいとばかりに驚異的に伸びている。人間は少しづつ本能に流されて行くのか……。
「まぁ、信じた所で……人類の未来なんて興味無い」
「なんや、意外と似てるやん、俺ら」
 にっこりと、たしかに笑ったサボテンが嬉しそうに発言した。
 そう、出来る事などたかが知れてる。
 俺は今、気の合う友達が出来て嬉しくてたまらないのだ。




エントリ9  カガクシャ    南那津


 全世界の人間の脳がネットワークに繋がった。全世界の人がどう考えるか、手に取るように分かるシステム。しかし、人間の意志を変えることは機械にはできなかった。

 ついに計算が始まった。
 簡単に言えば人類滅亡への残り時間の計算。人間の意志がこのままである限り、資源は尽き、混沌の世が始まり、滅亡する。そんな推測はこの世の科学者の通説論であった。そして、その期日が何時なのか、興味本位に見てみたい。一人の科学者がついに実行に移したのだ。

 出た。残り時間は……、目を疑う。一年すら無かった。
 おかしい、カオス*1すら範囲に入れたはずだ。莫大なソース*2をデバッガ*3にかける。誤りは見あたらない、当たり前だ、このソースを組んだのは彼だ。再計算を行う、全世界の脳だがデータ収集は差だけだから一瞬だ*4。一週間の計算。差だけでよいものをゼロから再計算させた*5。この間、死刑台に立たされたような心持ちであった。
 出た。結果は分かっていた。さらに五分減っていた。科学者は自分だけ知った、この現実に酔うことしかできなかった。

 頭が働かなくなるからと、止めていた酒を呷る。美味しくもない。同僚が隣に座る。愚痴を言いたくて呼び出したのだ。
 誰にもできなかった計算をついにやったんだ*6、同僚はほめてくれた。俺達にできることは何も無い、同僚はそう言った。それが彼が何故か思い当たらなかった一つのフレーズである*7ことに彼は気づいてしまった。方法は無い、筈が無い。彼は飛び出した。翌日同僚が自殺したと聞くことすらなかった。

 人間の脳=意志を変えるにはどうすればよいのか。彼は科学者らしく、計算の方法から解決を臨むことにした*8。値としては、学業成績、エネルギー理解*9から、利己心、奉仕欲*9、さらには貧富、環境*11……一万もの情報を収集し*12、人間の意志がこのまま永続すればこの時間になる。そんな計算だったはずだ。

 科学者は哲学者*13のもとに走った。彼の仕事は計算であり、彼の範疇ではないと気づいたのだ。それは正解だったが、説得は難しかった。誰も知り得ぬ筈の値*14を相手に理解させる。いくら友人であっても無理があった。最終的に、友人は信じた。
 それで留まる訳にもいかず、知り得るあらゆる手段を講じた。彼は完全に値に縛られていた*15。

 疲れ果てた彼は研究所に戻った。彼に希望の色は無かった。自分の死期を確かめるために残り時間を見る。残り時間は伸びていく*16。彼は人類を生き長らえさせたのだった*17。

作者付記:〜〜カガクシャ 脚注〜〜
一度読み終えてから後で読むことをお勧めします。
*1カオス――ギリシャ語で「混沌」という意味。実は物理用語であり、一般的な事象であっても条件がわずかに違うだけで大きく結果に差が出ることを示す。また、流動的に同じ事象が続くはずなのに違う現象が起こること。例を挙げれば、同じ蛇口から水を流し続けているはずなのに、ふと水の流れが曲がる、など。
*2ソース――プログラムの記述のこと。
*3デバッガ――ソースに誤りがないか確かめるツールのこと。普通はプログラムを動かす前に行う。
*4データ収集は差だけだから一瞬だ――コンピュータ情報収集において、再び最初から全て調べるのは無駄とされる。前回との情報と違い(差)のみを収集し、その部分だけ書き換える。この時代の技術では全世界の脳であってもリアルタイムでの更新が可能とされる。
*5差だけでよいものをゼロから再計算させた――(*4)参照、計算に置いても同様。ここでは計算もリアルタイムでできます。
*6誰にもできなかった計算をついにやったんだ――可能ではあったが、かなり面倒であり、実際結果は分かっているようなものであり、さらには自分の死期を知るようなものであるので、誰も恐れてできなかった、と同僚は言っている。
*7それが彼が何故か思い当たらなかった一つのフレーズである――彼は科学者として純粋に残り時間に興味があったのであって、人類規模の死期を確認してからはその思考に考えに行き着かなかった。通常は思い当たるが、人類規模となるとその波に自分が巻き込まれると考えてしまう。
*8計算の方法から解決を臨むことにした――計算するにはその計算をする情報(値)が必要。科学者はその情報の在処を探り、それを対処しようとしたわけだ。この場合、情報は当然ながら全世界の脳である。
*9学業成績、エネルギー理解――エネルギーが少ないと感じなければエネルギーを大切にしようと思うきっかけすら生まれない。そう思えるだけの思考力は学業成績であり、少ないと感じるのはエネルギーをよく理解しているからである。
*10利己心、奉仕欲――エネルギーが無くなると理解していても、自分だけがよいと考えれば節約する気なんて無くなってしまう。それが利己心。将来のために残そうと考えられるかどうか。それも奉仕欲。
*11貧富、環境――世の中には、お金持ちはお金持ちらしい生活をしなければならない、という法則もあるようです。人間はなにかと周りに左右されやすい生き物です。
*12一万もの情報を収集し――この集めた値が、結局の所、彼の価値観でしかないのに彼は気づいていない。まぁ、知り合いの哲学屋など大勢の人に相談したけどね。
*13哲学者――科学が一般の人間の考えられる価値・思考の範疇を越えると、その行為でさえも専門家の仕事になってしまう。科学とともに哲学・倫理学も発達しなければならないのに、現実は科学ばかりが先走りしてしまいます。
*14誰も知り得ぬ筈の値――残り時間は所詮科学者の論理値(思い込み)であり、現実と適合するとは誰も思わない。
*15彼は完全に値に縛られていた――彼はその値が正しいと信じ切ってしまっていた。自分が算出した値に裏切られては、科学者は自分の存在価値を見失ってしまう。
*16残り時間は伸びていく――リアルタイムで計算しているので、残り時間が随時変化している。誤字に思えるかもしれないが、科学者は人類規模で考えており、恐竜の反映の期間などと並べて、人類繁栄の期間は一定で決まっているとしている。その期間の幅が“伸びていく”。ゆえにこの字で正しい。
*17彼は人類を生き長らえさせたのだった――この値が本当に正確ならの話だが。しかし、世界中の人間をデータベースにしているにもかかわらず、値を改善できたのだから、やはり彼は偉業を成したのであろう。



エントリ10  天までとどけ    Began


 口笛を吹くときのようにそっと息を吹きかけただけなのに、ロウソクの火はぐらぐらりと揺れた。ぼおっというかすかな音。息を止めて見つめているうちに、また元の静かな火に戻り、まっすぐとそこに立った。火の先が上へ上へ伸びようとしている。僕もつられて、ぴーんと背伸びをする。
 テーブルの向こうのおばあちゃんが笑った。静かに笑ったから、火は揺れない。僕が動いたときにだけ、ロウソクは僕に合わせて頭を振るんだ。おめでとうって。
 八本立ち並んだロウソクを、上のほうから見下ろす。ロウソク一本一本に、みんなの名前を付けていく。パパに、ママに、おばあちゃんに、死んだおじいちゃんに、ヤマに、アキラに、サヤちゃんに、そして僕、と。
 顔を近づけて、みんなにありがとう、って言う。いい、いくよ。
 一本だけ消えなかった。どこか不満そうな顔で残った青いロウソクは、僕だ。
 火に照らされたおばあちゃんの、温かそうな笑顔が見えた。一本だけになったロウソクが、おばあちゃんの顔に影を入れる。でもそれは、白い懐中電灯の光で下から照らしたときとは違って、とても人をきれいに見せる影だった。
 薄暗い部屋の中で、ロウソクのまわりのテーブルだけが切り取られたようになって、時間が止まる。ロウソクの火が時間の糸を焼き切ってしまったのだ。小さな僕の昔も、大きな僕のこれからも、ロウソクが優しく照らしてくれる。
 来年の誕生日は休みの日がいいな。パパとママの空いた席を見て、そう思う。ロウソクの僕に聞いてみる。おばあちゃんに聞くよりカレンダーを見るより、ロウソクの火の方が、ずっと正しい答えを知っているように思えた。そして、その質問の向こうにある僕の心もきっとわかってくれる。
 時間をつかんだロウソクは、前よりも大きく僕には見えた。そしてやっぱり、まっすぐ立っている。上へ上へと伸びていく。ずっとずっと、空までとどけばいいな。それで、もしも雲が焦げたら、どんなに甘い匂いがするだろう。甘い匂いに惹かれて、みんなが僕の火に気付くんだ。僕の誕生日に気付くんだ。
 お誕生日おめでとう。
 パパとママの声が聞こえた。
「遅くなってごめんね」
 目を開けると、白い天井が見えた。蛍光灯の光がまぶしい。横からママが顔をのぞかせて、まぶしい光を隠してくれた。
「ちゃんとケーキ買ってきたわよ」
 手に提げた袋が目に入って、夢の残りの、ロウソクが火を閉じる。
 今日は僕の誕生日だ。





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