第12回学生3000字バトル
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  INDEX
 エントリ 作者 作品名 文字数 得票なるか!? ★
 1 須藤あき  ある時計職人に関する一考察  2998   
 2 朝霧  古時計と風見鶏  1791   
 3 加賀 椿  ぬすっと  3000   
 4 たけの  暗闇の世界を駆け抜けた少年  2991   
 5 莱羅  終止符  2565   


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Entry1
ある時計職人に関する一考察
須藤あき

「月間はいてくのろぢぃ」4005年度9月号より抜粋

偉大なる時の錬金術師、レリジオーソ・メイジ。
彼が時計業界に現れてからその生涯を閉じるまでの十二年間、ごく短い期間ではあるがその功績は多大である。
そして氏を語るには名前通り最後の作品となってしまい、同時に最高の作品である人形時計「タイプ・Ζ」(以下、Ζ)を除外するわけには行かないだろう。
今回はそのメイジ氏の半生とΖのルーツについて考察してみようと思う。

氏もまたこの年代の特徴である「道化の静寂」の一人である。
道化と言っても当時と現代では大分語弊があり、当時はいわゆる浮浪者達の事を「道化」又は「ピエロ」と呼んだのである。
彼らはどこの街角にも姿を現し街の広場の夕闇と共に動き始め、街灯の光の中で狂ったように遊び、歌い、詩を詠んだ。
忙しい人々はそんな彼らをやっかみと畏怖の念をこめて尋常ではない者、すなわち「道化」と呼んだのである。
また当時はピエロによる誘拐や盗みなどの犯罪行為が多かったのも統計的事実である。
しかしその道化達がある時期を境にしてぱったりと騒ぎをやめ、様々な業界でめざましい才能を見せ付けた。
そしてこの年代を後世の我々は「道化の静寂」と呼び、かのメイジ氏もその一人だったのである。

氏は時計業界で過ごした十二年間の間に莫大な富を得ていながらそのほとんどをΖ製作で財産を使い果たしてしまうあたり、道化の道化たる由縁を感じる事ができる。
そしてそのΖ、前記で人形時計と記しておいてなんだが実の所は「アンドロイド」と言った方が正しい。
しかもΖは現代を以ってしても搭載が困難とされている永久稼動機能と完全自己学習人格を備えられている。
しかし氏はΖをアンドロイドやロボ、カラクリ等とは呼ぼうとせず、終始「時計」であると言い張りそれ以外の用途は一切認めなかった。
(だからこそ千年の昔にこんな素晴らしいアンドロイドが開発されていながら現代のアンドロイド業界の低迷が著しくなっているのだ)
その理由にも様々な説があるが、あえて読み物として興味深い説を選ぶとすればそれはこの一つである。

氏がまだ夕闇を共にしていた頃の話である。
属していた道化の一派でも格段に頭脳が優れ、周辺の道化を纏めた男がいた。
男は陽気で人柄も良く、詩作などが抜群だった。
当然そんな男に多くのピエロが心酔し、夕闇の広場ではいつの晩も朝日が目をこするまで道化たちの宴は続いていた。
道化のレリジも、そんな中の一人だった。
男もレリジの内に眠る才と人柄を認め、二人は義兄弟としても名高かったという。

そんなある日、男は一人の少女を拾って…否、盗んできた。
少女は奴隷市場に陳列されていた所を街の大きな酒場に買われ、骨と皮になるまで働かされ全身傷だらけになった可哀相な少女。
けれど少女は、歌と楽器が抜群だった。
少女はいつも真夜中になると、ピエロたちの眼に触れぬよう建物の間のわずかな隙間で、毎夜とめどなく涙を流しながら壊れ捨てられたリュートをかき鳴らし、歌っていた。
男はその歌声に聞き惚れ密やかに毎夜耳を傾けていたが、ついにある夜。
どうしてもその少女がほしくなった。
その次の朝、日が顔を出し少女の涙が乾く頃に盗んできた。
道化のレリジはというと、大層驚いた事だ。
朝日と共に寝床に帰ってきた兄弟、そして見知らぬ少女。
ついにやってしまった!
レリジは正直そう思い、頭を抱えた。
しかし男に肩車された少女の濃緑の瞳に恐怖の色は浮かんでいなかった。
むしろ朝日に燃えるような赤い髪をきらめかせ、男の碧眼と目配せしあう様は希望に満ちている様でもあった。
レリジは二人分の食事と入浴の手配を済ますと、さてどうしようかと考えた。
そして自分もまた、ついに正規ではない手段を駆使して街から想像もできない程遠い場所への切符を手に入れた。

そこは天国だったのかもしれない。
どこまでも金色の野原が広がる田舎の一角で、三人は互いに愛を育んだ。
誰にも知られる事無くひっそりと、けれど幸せに暮らしていた。
男が薬を作り、レリジがそれを売り、少女は歌で二人の疲れを癒した。
そうして三人は暖かな愛を育み、誰にも知られる事無くひっそりと数年を幸せに暮らした。
しかし、それは短かった少女の髪が伸び、成長が止まる頃に終わった。
男が死んだのだ。

男の薬は良く効き、多くの人が救われた。
人々は生き永らえるために、男の薬を求めた。
ただ、男の薬は良く効きすぎたのだ。
それは人に永遠という名の終結を与えてしまうほど、よく効きすぎる薬だった。
男は幸せな時間の中で、永遠という詩を紡いだ。
けれどその詩は、男が愛した者たちに届く前に産声を踏みにじられて消えた。
結局薬は様々な忙しい人々の手に渡り、猛威を振るった。
薬によって永遠を手にしたと思った人々は皆、揃いも揃って口を閉ざした。
薬によって永遠を手にした人々の周りの人々は皆、揃いも揃って永遠を“終結 ”と呼び、ある人は怒り、ある人は悲しみ、またある人は喜んだ。

それはとても晴れた日で、野原はあの日と同じように金色に輝いていた。
男の死を悲しんだ多くの道化たちはその田舎の一角をつきとめて男の棺を囲み、涙に暮れて詩を詠み、葬送行列を組んだ。
しかし、そこに少女はいなかった。
涙を流す事もせず白い服を着て遠くからひとり、ピエロ達の目に触れぬように歌っていた。
道化たちがひとしきり騒いでその家に再び静かな時間が戻った時、レリジの目を盗んで少女は手のひらに舞い戻ってきた男の薬を口にした。
しかし、少女は忙しい人たちの言うような終結を迎える事はできなかった。
いくら腕から血を流してもその血は戻ってきたし、いくら髪を切っても長さは変わらない。
少女は永遠になってしまった。
それは男の"愛の証"だったが、それを少女が理解したのはずっと後の事だったという。

それから少女は男が確かに存在した世界を知るために旅に出た。
レリジにも来てほしいと少女は言ったが、それはできなかった。
レリジは自分が少女を愛するのとは違う意味で、少女が自分を愛している事を知っていたのだ。
そこでレリジは少女が旅立った後、時計作りを始めた。
男の残した"愛の証"を使って、いつかこの時計が少女と出会えた時にいつまでも傍にいられるようにと、時の錬金術師は永遠を研究した。
何度も失敗しては死にかけ、罵倒され、何度でも刃物を自らにあてがった。
先立つ物が無いのも忙しい人々に馬鹿にされるのもそれほど苦にはならなかったが、今まで隣にあったあたたかさが無いのは時に耐えがたい寂しさであった。
夜の闇を恐ろしいと感じ、人の中にある孤独に震えた。
しかし彼は時計作りを辞めようとは思わなかった。
「タイプ・Ζ」、それはたった一人のために永遠を刻み続ける時計であるのだ。

…以上が筆者の推薦したい説である。
その物語的要素の強さや歴史的な曖昧さから、単なる都市伝説であるという見解も少なくは無い。
しかし科学とは人間が未知の世界を旅して行く果てしない物語なのではないだろうか?
次いで最高作品ゼータの子孫とも言える現代のアンドロイド。
蓋を開けてみれば軍用・戦闘用の物が七割を占めている。
本来、我々人類は自らの発展のため、誰かの幸せのために科学を進歩させてきたはずが、現状ではそれが破壊や傷を生んでいる始末だ。
そんな争いの耐えない現代で、"忙しい人々"である我々は今こそ思い出さなければならない。
かつて科学は、愛の形であった事を。


Entry2
古時計と風見鶏
朝霧

どんな時計よりも正確な時間を刻み続けている時計がある。
彼の名は、リーベ。
確かな時間を知る者。
寸分の狂いも見せず、片時も休まないで働き続ける。
ある日、リーベは人の姿になっているのに気づく。
物語は、そこから始まるのだ。

早朝、友人の風見鶏が大声を張り上げているのを聞きつけぼんやりと目覚める。
いつもは温厚で大声などあげない彼を心配しながら時計の鐘の音を鳴らそうとすると音がならない。
ついに故障かと、生あくびを浮かべた所ふわあと間抜けな声がもれる。
管理している人間がタイミングよく声を上げたのかと見回しても誰もいない。
不思議に思いながらもぼんやりとしていると、また風見鶏が声を上げる。
はっきりと聞こえないものの自分の名前を呼んでいるのは確かだ。
よっこらしょと掛け声をかけ針を動かそうとすると、代わりに前に一歩踏み出る。
移動している自分に流石に不安に思いそのまま針を動かす動作をするとどんどん前に進み、鏡の前まできていた。
鏡を覗き込むと、古ぼけた時計の姿ではなく人間の姿が現れる。
ショートくらいの髪型で色は黒。切れ長の目に愛想笑いを浮かべた口元。
頬に手を添えて撫でてみると、確かにその感触は自分に来る。
「これが・・・俺?」
あまり突然の事に腰が抜け、その場に座り込んでしまった。
外でまた風見鶏が声を上げる。本来、自分たちに聞こえる程度の小さな音のはずなのに今日は騒がしい。
もしかして・・・彼も!?
衝動にかられ、窓を開けて顔を覗かせると白髪頭の少年がこっちの方を見ながら叫んでいる。
「リーベ!!リーベ大変なんだ!僕、人間になっちゃったんだ!!」
窓から飛び出し、彼に近寄り俺もそうだということを伝えると今にも倒れそうなくらいに青ざめて、鏡の前でへたり込んでいた自分のように座り込む。
「ぼ・・・ぼ、ぼ、僕・・・何か悪い事でもしたのかな?」
震えながら自分を見上げてくる相手の頭を撫でながら、自分も途方にくれる。
−何か、悪い事でもしたんだろうか・・・
宛てもなく、空に向かって呟き目を閉じる。
風が心地よい。
震えていた風見鶏のカナルを立たせてやり、もしかしたらと予感がする。
「なあ、カナル!もしかしたら他のやつらも人間化してるかもしれないぞ?」
カナルの手を引きながら、屋敷の中に入る。

相手は中に入るのが、初めてらしくあちらこちらをみてはわあと声をあげる。
「他って・・・僕らが知ってるやつらっていた?」
階段の中腹ぐらいで聞かれ、ハタリと足を止める。
実質、俺たちは他のやつらとは会った事も話した事もない。
でも、もしかしたらにかけて俺は様々な部屋を開けて歩く。
他の家具やら家電達は、身動きせずに自分の形を保ちそこに位置している。
寂しい気持ちになり2人で階段に座り込み、溜息をつく。
「俺たちだけだな・・・」
「・・・うん」
すっかり、覇気がなくなってしまったカナルの頭を撫でる。
何か落ち着くかんじがする。肩を抱き寄せてもう一度溜息を漏らす。
抱き寄せられた所為で、自分を見上げてくる風見鶏の頭をまた撫でて、これからどうしようかと考える。
「僕達どうなるんだろうね?」
「さあな・・・」
肩に頭を乗せて、目を閉じる相手が今にも消え出しそうな気分になり心配になる。

俺たちは、100歳をゆうに越える長寿の風見鶏と古時計だ。
始めて会った(見たの方が適確)のは、約90年前くらいだった。
そのときには、もうチクタクと時を刻み続ける俺がいて窓の外で風の方向をしめすカナルがいて仕事に明け暮れていた。
そんな事を思い出しながら、自分のいたところを何気なく見てみると違う時計が立っている。
新品の硝子細工でできている豪華な・・・時計。
外を見ると隣で目を閉じているカナルじゃない風見鶏が風の方向を示している
「何なんだ・・・?」
その時計はボーンと大きな音を立てる。
一日の終わりを告げる時報。
それは12回鳴らされる音。
ひとたび、鳴る度に指先から白い光が飛び散る。
自分だけではなくて、カナルも。
カナルは、自分自身が消えていく感覚に目を覚まし、小さく震えながら俺の服を握る。
「怖い・・・」
大丈夫と言い聞かせながら頭を撫でる。
一瞬安心したような表情を浮かべ、カナルは光の玉となり消えていった。
俺ももう少しで消えてしまう。
最後の鐘の音と共に白い光が、一層激しく飛び散る。
本格的に、消えてしまいそうな時に声が聞こえた。

「今までありがとう」

多分、カナルの最期の声だった。


Entry3
ぬすっと
加賀 椿

 『ところで、今この県内で話題になっているのといえば、怪盗二十一面相ですよね』
『違いますよ、盗人二十一面相です。盗んだ後には、なになにを頂戴いたしましたという文を残すみたいで』
『ああそうでしたか。たいそうな名を名乗ってますが、ただの空き巣のようなものですよね。被害は大きいですけど』
『被害総額は一千万円にのぼるそうです。最近はおさまってきたようですが、皆さん、戸締まりには気を付けて下さい』
 電気店のラジオの前を、一人の男が通り過ぎる。口元には笑みが浮かんでいた。

 夕日が、立ち並ぶ青い屋根のマンションを照らし出す。一号棟の一階の扉の鍵を、制服を着た少女が開けていた。扉の横に付いた小さなポストから鍵を取り出し、それを鍵穴に差し込む。その時、茶色い扉に人影が映った。
「何ですか?」
 少女は立ち上がって振り向く。すぐ後ろには、一人の男が立っていた。茶色の頭に黒い帽子を被り、後ろで手を組んでいる。
「あぁ……見付かっちゃったか」
 男は苦笑すると、廊下の手すりにもたれる。
「俺ね、今世間で騒がれている盗人だよ」
「ぬすっと? ああ、あの『怪人二十面相』のパクリの」
 少女がつぶやくと、盗人は笑い出した。
「全然慌てないんだな。冷静で可愛いね。あの呼び名は、二十一世紀最高の盗人という意味を込めたつもりなんだけど」
 そう言うと、彼は表札を見る。
「野宮さんか。下の名前は?」
 少女は顔をしかめた。この時間帯、辺りに人は少ない。
「別に深い意味はないよ。君みたいな子の名前を記憶にとどめておきたいだけ」
 人好きのする笑みを浮かべ、盗人は首を振る。少女は疑わしげに彼を見詰めた。
「その後ろ手に持っているのは何なんです?」
「これは……」
 一瞬戸惑いの表情を見せた後、盗人は持っていた物を少女に見せた。
「スタンガンだよ」
 今まで冷静な表情を保ち続けていた少女が、ぎょっとした顔をする。盗人は慌ててスタンガンをポケットに入れた。
「待ってくれよ。大声は出すな。確かにこれで麻痺させるつもりではあったけど、腹が減って仕方なかったんだよ。皆戸締まりきちんとするようになったから、簡単には盗みに入れなくて。扉をこじ開けるのも、傷を付けちゃうのは気がすすまない」
「人を傷付けるのは?」
「まあ……それも嫌だが、痛いだけですむだろ。とにかく、悪かったよ」
 頭をかき、盗人は辺りを見回した。人影は見えない。少女は盗人に背を向けると、扉を開けた。そして、不安げな顔をしている盗人を振り返る。
「貧乏だから、何も盗むような物なんてありませんよ。これ以上うちの生活を苦しくさせるような事したら、恨みますから」
「しないよ。今までも、入ったって金持ち以外からは盗まなかった」
「へえ……?」
 少女の顔が、ふとほころんだ。
「みかん食べます?」
 突然の言葉に、盗人は驚いて目を見開く。
「へ?」
「田舎から箱で送られて来たんですけど、たくさんありすぎて……。早く食べないと腐っちゃうんですよ」
「いいの?」
「家の中には入らないで下さいね」
 少女は扉の向こうに消える。ガチャリという音がして、茶色の扉は閉まった。
 なかなか少女は出て来なかった。
「まさか、この間に警察に連絡してるなんて事は……」
 急に不安になり、盗人は辺りに目をやる。やはり人影はない。彼が二、三歩後ろに下がった時、突然扉が開いた。
「どうぞ」
 袋に入れたみかんを差し出し、少女は戸惑っている盗人の顔を見上げる。
「ありがとう」
 盗人は真顔で袋を受け取ると、ふと思い出したように扉横のポストを指差した。
「こんな所に鍵を入れておくのはよくないな。泥棒に入られるよ、何とかちゃん」
「……利枝です」
 利枝は怒ったように顔を背け、盗人に背を向けた。盗人が彼女の背中に声をかける。
「俺はいい盗人なんだぜ。盗んだ金のうち、少ししか使ってない。だから貧しいのさ。残りは全額寄付してる」
 振り向くと、利枝は眉をよせた。
「真面目に働いたらどうですか?」
 盗人の鼻先で、扉は閉められる。盗人はため息をついた。
「じゃあ、利枝ちゃん。さらば」

 一週間後の夕方、利枝は友人達と共に商店街を歩いていた。一人が利枝に話し掛ける。
「ねえ、今度一緒に遊びに行かない? 買い物とかさ」
「ごめん……私、お小遣いもらってないから。お年玉もちょっとしかないんだ」
 いつもの会話らしく、その少女は黙って頷いた。ほっとため息をつき、利枝は足下のコンクリートを見詰めた。その時、一人の男が目の端に映った。
 茶髪に、見覚えのある黒い帽子。そしてにこやかな笑みを浮かべている彼は、利枝に向かって手を振っていた。
「あ……」
 驚いて、利枝は目をしばたたかせる。その男は、確かにあの盗人であった。八百屋でアルバイトをしているようだ。
 微笑むと、利枝は手を振り返した。友人達が顔を見合わせる。
「私あの人知ってる。最近来た人でね、この前買い物に行った時に、おつりを渡す時手をぎゅって握ってくれたのー。にっこりしてさ。あの人かっこいーよね」
「いいなー。あたしも今度行ってみよ。野宮さんの彼氏?」
「違うよ。知ってる人」
 笑顔で答え、利枝はもう一度盗人に手を振った。

 その翌日、学校からの帰りで利枝は母親と会った。
「今日は早いね」
 話しながら、利枝は廊下側の台所の窓を開ける。そこに並んであったびんの間から、彼女は家の鍵を取り出した。
 異変に気付いたのは、先に台所に入った母親であった。
「あれ……?」
 その声に、自分の部屋に行きかけた利枝は立ち止まった。
「どうしたの?」
 台所に戻ると、母親が口を手で押さえて立っていた。
「みかんがなくなってる……。あんた?」
「ううん。この前のは友達にあげたからだけど、これは知らない」
 確かに、台所の床に置いてあったみかんの箱がなくなっている。
「まさか、泥棒?」
 母親は顔を青ざめさせた。利枝の家は母子家庭だ。母一人子一人ではあるが、借金もしていて大変な生活をおくっている。ここで金を盗まれては、彼女は気絶しかねなかった。
 ふと不安になり、利枝は自分の机へ向かった。そこには、少ないお年玉が入っているのだ。
 鍵付きの引き出しに手をかけ、利枝は唇を噛み締めた。いつもかけているはずの鍵が開いていたのだ。
 引き出しを開くと、一つの大きめの封筒が目に入った。表に筆で何か書いてある。

『みかんを頂戴いたしました。お代は中にあります。元盗人二十一面相
 追伸 鍵の隠し場所はもっと工夫した方がよいですよ』

 封筒の中から出て来たのは、一万円札であった。
「あんなの一万円もしないのに……」
 苦笑しながらつぶやくと、利枝は台所へ駆け戻った。
「お母さーん。他は何もなくなってなかったでしょ。泥棒だとしても、たった十個のみかんくらいあげようよ」
「そうねえ……。まあ、他に盗まれたものがなければね」
 そう言うと、母親は自分の引き出しを調べ始める。どうやら、通帳がなくなっていないのを確認して少しほっとしたらしい。先程家に帰って来てすぐに利枝がつけたラジオからは、若いDJの声が流れていた。
『そういえば最近、空き巣の話を聞きませんね。怪盗二十一面相』
『盗人二十一面相ですってば』
「ラジオ消してちょうだい。うるさいわ」
「はーい」
 ラジオのスイッチを切ると、利枝は笑顔で、引き出しの中を引っ掻き回す母親の動作を見詰めていた。他になくなっているものなど、あるはずがないのだ。


Entry4
暗闇の世界を駆け抜けた少年
たけの

 何故この道を走っているのか分からない(他にも道はあるのかも)
 まっすぐ進んでいるのか分からない(実は円周上を走っているだけかも)
 真っ暗闇のせいで何も見えない(この世界には一体何があるんだ?)
 
 でも気に留めず立ち止まって考え込みもせずに俺は走り続けている。俺はあの暖かいオレンジ色の光を目指している。

 この暗闇の中を下手に動けない。とりあえずあの光の元へ行けば何か見えるかもしれない、俺のいくつかの疑問が解決するかもしれない。だから俺はひたすら目指す。靴はボロボロになって邪魔だから途中で捨てた。裸足で走っているけれどもう痛さには慣れた。

 とにかく進むのだ。
 
 走り続けているから風を切る音しか聞こえてこない(あぁ俺の呼吸は聞こえるか)
 走り続けているから呼吸は乱れすぎて心臓が壊れそうだ、のどがきれそうだ。だからといって休憩何かしたらあの小さな光が消えるかもしれないと思うと恐くて出来ない。こんな暗闇の中だからあの光だけが俺の道導。

 だから俺は進み続ける。
 
 この世界は誰もいないって訳ではない。孤独ではないって知っていたから俺は辛くても走り続けられているのだと思う。最初に出会った人はこの暗闇の世界を冒険してみるのだと言って暗闇の中に消えた。ついていこうと思ったけれどやめた。遠回りになったら嫌だし。とりあえず無難に進む事にした。それから全然人に会わなくてかなり後悔した。
 あの人の名前やこの世界について何か聞いておけば良かった! 
 
 いってぇ!! 何かにつまずいた俺はスーパーマンのごとく地面へダイブした。あごやひざをすった。
「わっ! ごめん大丈夫!?」
女の声が背後から聞こえた。その声に驚くと同時に嬉しかった。久しぶりの会話だ! 
 暗闇でお互いの姿が捉えられなくて良かった。(彼女の顔が見えないのは残念だが)

 だって今の俺の顔は絶対ヤバイって! 久しぶりの会話だから表情がうまく作れない。顔の筋肉がこわばってしまう。笑い方も忘れた。
 声もうまく発せられないけど、きどった感じもきょどった感じも出ないように
「おー少しいてぇけどたいしたことないよ」と俺は丁寧に声を発した。
「あぁ良かった! ごめんね。私の足につまづいたみたい」
澄んだきれいな声で彼女はしゃべる。俺は聞きたい事がたくさんあったけれど、まずは彼女自身のことを聞いてみることにした。
 
 彼女は俺と同じように、明かりを目指しているらしい。
「あの一番大きな光よ」
そう言って彼女が指さした光は俺の道導の光とは違っていた。そういえば今まで余裕が無くてあの光しかみていなかった。他にも光があったのかと驚き辺りを見回した。
 よく見るとこの暗闇の世界は無理矢理光を覆い隠しているかのように所々から小さな光が漏れていた。
 俺のは小さなオレンジ色の光だったが彼女のは冷たそうな白い大きな光だった。
 
 ここら辺を歩いていた彼女は花の香りがしてきていい匂いだったのでここで休む事にしたのだという。そして彼女は良い香りに包まれながらこの花畑へ進もうかあの大きな光を又目指そうか考えているらしい。
 「でもここにいると昔の事を思い出すの。懐かしくてずっと思い出を振り返っているの。だからこれからの事がなかなか考えられなくて、かなり前から」
 
 俺はここら辺から彼女の言葉を聞いていなかった。俺の胸の辺りの体温が急激に下がっていくように感じたからだ。
 
 思い出? 
 そういえば俺の父や母は、友達はどうした? 顔も名前すら浮かんでこない! 
 思い出せない! 

 あの光を目指す事しか考えていなくて夢中で走って……語ることも振り返りもしなかったから思い出は色褪せるどころか消えてしまった! 

 自分の単細胞さに腹が立つ。切ないどころじゃない、悲しすぎて涙があふれてきた。
 走り続けていた時は足が痛くても、呼吸が苦しくたって我慢出来たのにこの痛みには耐えきれそうもない。ドコに向けたらいいか分からない自分自身への怒りにまた涙が出る。

 この世界に来て初めて泣いた。

 道標だけじゃ俺はもうこれから走れねぇよ。

 あの光にはどれだけ走れば辿り着くんだよ(走ったらまた思い出を忘れそうでこえーよ) ちっぽけな光の元に何があるんだよ(希望を持ち続ける力なんてもう残っていない)

 あぁその小さな光が更に小さくなっている。あんなに必死に目指していたけれど何だかどうでもよく思えてきた。これからどうしようか……今来た道を戻れば思い出は落ちているのかなぁ。

          ん? 

 かすかに何か聞こえる。

「しっ! ちょっと黙って!」
 思い出を語り続ける彼女を止めた。

「ゆ…う…」

 やっぱり聞こえる。

 「悠」
って俺を呼ぶ声が。
 俺は嬉しさのあまり馬鹿みたいに大笑いした。
「えっ? どうし……」彼女の言葉を遮って俺は
「どこからか俺を呼ぶ声が聞こえるんだ。今までも呼んでいたのかな、今まで自分の呼吸しか聞いてなくてさ……」
 頭上を見上げ俺を呼ぶ声が聞こえてくる方向を捜しながら早口でしゃべった。そして何処にいても聞こえるように

 「俺をここから連れ出してくれー!!」
 力一杯叫んだ。

 そうしたら消えかけていたあの光が大きくなって嬉しくて翔だした。

 「待って!私も連れていって」と彼女が追いかけてきた。
そして俺達は手を繋いで倒れ込むようにして光の中へ入っていった。今度は真っ白な世界に黒い闇がぽつぽつあるだけでがっかりした。

 光に向かっている時に元の世界へ帰れると思っていたから。手を繋いでいた彼女も消えていた。

 闇が又大きくなっていくから焦った。

 俺はあの名前も聞いてなかった彼女に又会いたい。そして伝えたい。思い出を噛みしめることも大事だけど程々にして未来を夢見て楽しもうよ。新しいモノを生み出そうよと。

 アンタもあの暗闇で思わなかった? あの目指している光が人のぬくもりのように暖かかったらって、一人はどうしようもなく寂しくて誰かに触れたいと。道を歩くのなら暖かい光の下で誰かと楽しくしゃべりながらがいいって。

 
 何日ヵ後に俺の入院している病院で俺と同じように意識不明だった女子高生が目をさましたという話を看護婦から聞いた。その子は俺と同じ病室の子だった。どんな子か気になったけれど、まだ歩ける状態ではないから顔を見られなくて残念に思っていたその夜

 「ねぇあなたも意識を失っていたんだって?」と例の女子高生が声をかけてきた。
その子は続けた。
「ねぇ聞いてくれる?私意識を失っている時にね」

「そのかっこいい男の名前を知りたいんだろ?」

「……また私の話を途中で遮るのね。今度こそきちんと聞いてもらうからねっ」

「明日の朝起きたら聞くよ。こうして話しているとなんだかあの世界に戻った気分になるし」

 全部を言い終わらない内に俺は寝てしまっていた。

 数年後、世界中で意識不明者の数が徐々に減っているというニュースを彼女と見た。目を覚ました人は誰かに呼ばれて目が覚めたと口々に言っているらしい。その中の何人かは「元気になったら今度は自分が眠っている誰かを起こしに行きたいです」
と語っていた。アナウンサーが
「そうして恋や友情がそこに芽生えその方々の未来が光のように広がっていくのですね。素敵な事です。」
とコメントをしていた。

 願わくば全ての人に光が届くよう俺と彼女は今日も光を届けに世界中を歩き続ける。


Entry5
終止符
莱羅

 我 苦しきこの世に未練なし。
 今、魂を安楽へと解き放たん。
 サヨナラ 私を愛してくれた者、サヨナラ 私が愛した多くの者、
 私はもう疲れた。 この世に在る理由を見出せない。ただダルいだけ。
 この身体を棄てたら今より少しは楽になれるかな。そろそろ楽になりたいよ。
 もうこれ以上苦しい思いはしたくない。楽になりたい・・・。
 自分勝手でごめんなさい。 でも、もうこの苦しみに耐え続けるのはしんどい。
 楽にならせて下さい。  サヨウナラ。 今までアリガトウ。
                     (記 高校三年 冬)
 夜、目を閉じて考える。このまま朝になっても目覚めなければ、きっと楽になれると。だって、この世は私にとって苦しみと悲しみでしかないから。誰かを強く求めるわけでもなく、誰かに強く求められるわけでもない。ただ、息をして動いているだけ。それならいっそ、この汚れた身体から魂を抜きだして、この世を離れることが、私にとって一番の幸せなのではないかと、最近良く考えるようになった。でも、決して今の人生に不満が有るわけではない。ただ息をして動き続ける事に疑問を感じているだけ。
 人間にとって、衣食住が生きて行く上で最も大切らしい。しかし、それも今の私にとってはどうでもいい事のように感じる。そのせいか、以前は一日三食を欠かさず人一倍摂っていた私が、最近では気の向いたときにしか食物を口にしなくなった。かといって、それを正常だとも思えず、病院にも行った。医師によれば、私は身体の病気ではなく、精神が弱っているらしい。私は納得した。確かに以前と比べて、考え方も著しく変わったように感じていた。以前はもっと強い心を持っていた気がする。
 以前から生きていくことにはあまり積極的ではなかった。どちらかというとこの世を離れる事を良く考える方だった。始めてそれを考えたのは、まだ4歳くらいの時。着物を着るときに使う紐で遊んでいたとき、何気なくそれを首に巻き、強く左右に引いた。しかし、その頃は「死」というものがどういう事か解っていなかった。私はすぐに力を緩めた。それは、ただ苦しくて、痛かったから。それからも何度かこの世に別れを告げようと考えた。それは数え切れないくらい。理由はいつも同じ。ただ息をし続ける事に疑問を感じるから。ただ息をし続ける事に疲れるから。その度に色んな方法を考える。苦しまずに逝ける方法はないかと。けれど、幼い時のように実行はしない。それは、あの時よりも、色んな事を理解し始めたから。「死」というものも、今はどんな事なのか、理解しているつもりである。一度魂がこの身体を離れたら、二度と元に戻らないこと。魂がこの身体を離れる時は、苦しみと痛みを伴うこと。決して楽には逝けないこと。色んな事を理解しているつもりだ。色んな事を知ってしまったからこそ、この世を離れたい気持ちより、恐怖心が勝ってしまうのかもしれない。そして、その度にあの時の痛みが蘇るから。私はとても臆病だから。
 それともう一つ、私が踏み切らない訳がある。それはいつか見たあの夢。私はただ怖かった。怖くて怖くてしかたなかった。それは、夢と呼ぶにはあまりにもリアルな感触があった。私は、夢の中で人を殺した。
 その夜、いつものようにベッドに入り、いつものように電気を消して、いつものように瞳を閉じた。以前から寝付きが良くない方で、瞳を閉じてから眠るまで時間が掛かる。瞳を閉じてしばらくして、自然に眠りにつく。その日もそうだった。いつもと何一つ変わらず、いつもと同じように眠りについた。眠ってからどのくらいたったころか解らないが、私は夢を見始めた。夢の中の場所は私の部屋だった。家具から雑貨まで、全てが私の部屋だった。そこに三人の人間がいた。全く見覚えのない三人だった。そのうち一人の人物の意識と感覚に、私の意識と感覚がシンクロした。三人は何かもめているようだった。三人の人物は、二対一に別れて口論をしていた。口論をしていたといっても、不思議と声はしなかった。そのうちに嫌な予感がしてきた。根拠は全くない。でも、その場の雰囲気がとても嫌だった。そして、私の予感は的中した。私がシンクロしている人物と、もう一人の人物(男性)が、言い合っていた女性の首を絞め始めた。私の手にもその感覚がリアルに伝わってきた。とても嫌だった。とても怖かった。どうにかして、手の力を緩めたかった。どうにかして、その場から逃げ出したかった。しかし、それは叶わなかった・・・。女性が動かなくなると、首を絞めていた二人は、女性の首だけを何か筒のような物に入れた。そこで私は目を覚ました。全身がうっすらと汗ばんでいた。夢は終始私の部屋だった。私は無意識に上半身を起こし、部屋を見渡していた。何の変化もない、いつも通りの自分の部屋。私は息苦しさを感じた。こんなにも死を身近に感じたことはそれまでになかった。これが私が今まで考え続けてきたことなのかと思った。私の感覚がシンクロしていたのは、加害者側の人物だった。しかし、私はとても苦しかった。私はとても怖かった。恐怖心しかなかった。この世を離れれば楽になれると思っていた私は、それがどれだけの恐怖心を伴う事なのか、その時深く魂に刻まれた気がした。
 この夢を見てからも、「死」を考える事がなくなることはない。それは今も続いている。もしかしたら、今の方が強く考えているかもしれない。けれど、私はあの夢をみてから、人よりもこの世を自分から離れる事の苦しみを理解できたかもしれない。そう考えると、あの夢が私に与えた物は恐怖心だけではないのかもしれない。
 私は弱い人間だと自負している。だからこそ、いつか自分の手で、人生に終止符を打つような気がする。それはもしかしたら近い将来かもしれない。その時、私は楽になれるのか、それとも、後悔しているのか。それは私にも解らない。でも、出来ることならそうなる前に、誰かに助けてもらいたい。だって折角与えてもらった生命だから。その終止符は、自然に任せたいと思う。自分で終わりを決めるのは、きっと不自然な事だから。この苦心の世にサヨナラする時は、自然に決めてもらいたい。だからそれまでは終止符は打たない。それまではこの苦心の世と共に生きて行く。