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第18回中高生3000字バトル

エントリ 作品 作者 文字数
ミルクセーキ べっそん 2826
左手で食べる 相川拓也 3000
15分間 神崎現 3000
お菊の笑顔 花村彩邪 2568
ちいさな世界 香月 3341
スモールサイズ。 3000
遠い国 桜也乃 1441
導なき道 佐々木洋美 3000
Friendship of Two peopie 妃華寒水 2586


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エントリ1  ミルクセーキ   べっそん

朝、みそ汁のにおい。母さんが朝練がある弟のために早起きして弁当をつくってくれていた。父さんはゴルフがあるから今日だけ早起き。妹は、大会が近いから朝からやかましくトランペットを吹き鳴らしている。
ベランダに、まだしわくちゃのYシャツとりにいったら、クモの巣がからまってむかついた。

学校へいこう。

電車はいっつも満員。足はいっつも宙ブラで、いっつも周りは汗かきオヤジ。今日は、生まれて初めてそうじゃない。隣で体がぴったりくっついてるのは、隣町の高校の女子。けっこうかわいい。ひじが胸にあたる。やばいやばい。顔見たら、そんなに嫌がってない。つーか気があんのか? 駅についてどわっとお客がおりて、その子がふらついたから、すかさず支えてあげた。そんで、ちょっと改札口まで話した。あっちがアド聞いてきたから、教えた。あっちがかけてきたから、話した。あっちがまたかけてきたから、また話した。あっちが会いたいって言ってきたから会った。歌いたいって言ったからカラオケ言った。チューしたいっつーから、チューした。付き合いたいって言うから、うんって言った。 

麻衣子との時間はあっという間だった。

不思議だけど、最近よく小学校の時の通学路を通って駅までいくようになった。なんでかわかんないけど、いろんな昔の自分が道の途中で現れる。よく遊びに行った幼馴染の家。ちっこい僕らはミニ四駆で遊んでいる。あそこのおばちゃんのミルクセーキはマジうまかった。そんなもん飲めるのはあっこの家だけだった。母さんの時代はよく飲んでいたらしい。その子の家の先に通っていた中学がある。春だから、桜が咲いている。体育館から卒業式を終えた僕らが出てくる。一番好きだった女の子が泣いている。先生方が、教室へいくよう僕らを促している。その時、黒服を着た幼馴染のおばちゃんがでてきた。手には、あいつの遺影。バイク事故であいつは卒業式の三日前に死んだ。無免許の無茶な運転。中学に入ってから、メチャクチャぐれて、あんま話さなくなってたけど、廊下で会ったときは声をかけるぐらいはいっつもしてた。事故の前の日も、すでに決まった進路のことを話していた。あいつは、地元の建設業者でバイトをすることになっていた。あいつは、二年間付き合ってる女の子がいて、あいつは実は父親になっていたらしい。卒業式の翌日に友達が会いにいったら女の子は首をつっていたそうだ。桜は、これでもかっていうくらい散っていく。僕たちはまだ先生の誘導にも関わらず、桜の木の下で思い思いに話し、思い思いに泣く。 少し、ミルクセーキが飲みたくなった。
夏休みって、こんな俺でも毎年冒険がある。

空が青くて、海は青くて、自転車をこぐクラス1のひ弱野郎の藤井の顔も真っ青。俺らは、突然の思いつきで、
藤井の実家のある島へ旅をしてきた。もちろん、港までは朝五時から四時間かけてチャリで走ってきた。一時間の船旅の間全員爆睡していたが、藤井だけ船酔いで紫になっていた。
夜、テントで寝てたら潮が満ちてきて浸水した。気がついたら泳いでた。必死でバラバラになったテントの骨組みを集めた。海の家からの借り物だから、失くしたら弁償しないといけないから。結局、みんな疲れ果てて、浜辺に雑魚寝した。蚊に夜中中散々さされて、みんなあんまり眠れなかった。そんで、へとへとになった僕らは翌日も海で泳ぐ予定だったが予定より早く切り上げて、さっさと家に帰ったのだった。母親はミルクセーキをつくってくれた。

麻衣子とはうまくいっていた。

もう少し良い体してたら毎日やりまくりだけど、そうならない場合だった。俺らは、音楽を聴いて、一緒に昼寝して、おやつ食べて、涼しくなったら麻衣子を送ってくがてら、散歩をした。空がちょっとクレナイ色。川原から見つめる少年たちには、あぜ道を歩く僕たちが空に平行して歩くように見えただろう。 
俺たちは、結婚を約束した。
でも、麻衣子はある日どこかへ飛んでいってしまった。僕の前から姿を消した。電車でも会わなくなった。
ずっと家の前でストーカーみたいに待ったこともあったけど、結局帰ってはこなかった。

僕はあきらめなかった。

今日も電車はおやじだらけ。 学校もいつもとオンナジ。弁当は、やっぱり今日も母さんのあったかい弁当。
最近、やっと母親のありがたみなんかがわかってきた。わりかし、ちょっとだけ。たぶん、大学に行って一人暮らし始めたらもっと感じると思う。かあちゃん、あったけえよこのご飯。

信じられないけど、俺らはどうやらもうすぐ大人になるらしい。

大学に入って一人暮らしを始めたら、見えなかった世界が見え始めた。自由は一気に増えた。そして、自由の重みを思い知った。大人用のおもりを背負った。まるで、修行をしているみたいだ。あいかわらず、電車はオヤジだらけ。会社は厳しい。最近、しょっちゅう怒られる。ミスが多いというより、気迫が足りないという理由で。どうも、お気遣いありがとうごぜぇます。こないだ、接待をするために行った店で、中学時代に想いをはせていたあの女の子に出会った。お水になった彼女はあの時の面影を少し残しながらも、ほとんどわからないくらい厚化粧をしていた。惚れこんでいた俺だからわかった。接待先の社長にその子がついたので、そのことをその場で話すのはやめた。だが、店をでる時にその子がやってきて覚えてるよと言ってアドレスを書いたメモを渡してくれた。そんで、ちょくちょくメールするようになって、ちょくちょく仕事帰りに家に泊まりにくるようになった。中学時代の恋は実った。わけがない。ほかにもいっぱい男がいて、体中キスマークだらけだった。 せつねーな、俺。その子とは会わなくなった。
最近、家の近くにミルクセーキの売っている自販機を見つけた。よくお世話になっている。
去年、母ちゃんが体を壊して倒れた。癌だった。母ちゃんは年が明けて、桜が散る前に死んだ。母ちゃんだけど、まだまだ若かった。

信じてもらえないかもしれないが、こないだ麻衣子が帰ってきた。

家に帰ったら、ベッドに寝てた。どうやって入ったかはわからない。でも、麻衣子だったからとりあえず警察は呼ばなかった。無理に起こさず、寝顔を見てみる。間違いなく、彼女だった。そっと唇をあわせてみる。
彼女は少し目をあけた。

ただいま。

川原で寝転んだ俺には、ただ青い空しか見えない。他にはなにもない。ただ、ひたすら青いだけ。 
どんどんすいこまれていく。まるで、自分が世界の天井にくっついてて、空へ落ちてしまいそうだ。でも、僕は落ちない。隣で麻衣子が僕の手をしっかり握ってくれているから。だから、僕をキャッチしてくれる雲なんていらない。いらないから、このままずっと青だけでいい。僕は絶対に落ちない。
そして、麻衣子も僕がしっかり握っててあげよう。 

僕には、麻衣子しか見えない。 他には何もない。 ただ、ひたすら麻衣子だけ。

自販機がどこにあるか、僕は忘れてしまった。





エントリ2  左手で食べる   相川拓也

 西日を浴びる高校に部活動の声が響く。校庭は野球部が走る。それを見下ろす校舎はじっと大きな躰を陽光にさらす。その校舎の窓から人が飛び降りる。校庭沿いの植え込みに落下した。遠ざかっていく野球部は誰一人として気付かない。下校途中の生徒が植え込みに埋もれた人間を発見する。騒ぎが少しずつ拡がる。人間は微動だにしない。
 病室で人間は目を覚ます。現世への帰還を歓迎する声がわく。自殺未遂の少年は上滑りする歓声の中、手を握る母や父の声を漫然と聞く。今日は病室にいられるが、明日は二人とも仕事だから叔父が来るという。叔父は自由業である。
 両親は突然の自殺を企てた息子に気を遣う。母はまさぐるように尋ねる。
「何か、嫌なことでもあったの?」
「……別に」
「何でもいいから、言いなさいよ」
「なんでもないんだよ」
 何もない、それがつらい。
「何もないわけないだろう」
 父がわずかに声を荒げる。息子は黙っている。母がちらと父の方を見る。
「まあ、そのうちに言いたくなったら言いなさい」
 父の表情が混乱する。

 翌朝少年が目覚めたのは十時過ぎだった。
「お、起きたな」
 叔父がいる。
「どうも」
 他人行儀に挨拶をすます。違う県に住み、子供もない叔父とは久し振りに会う。挨拶に対して叔父は小さく微笑んで、手に持った本に目を落とす。ふと顔を上げて、楽にしてなね、と言うと、彼はまた本の中へ帰って行く。下手に気にされない方が、少年にとっては楽である。意識はだいぶはっきりしている。自殺に失敗したということが、じわじわ心を締めつける。
 今頃、本当なら全て終わりになっているはずだった。すべて投げ出して逃げてしまうつもりだった。もとより投げ出すものなど何もなかった。前途には受験が立ちはだかるだけなのだ。親友らしい親友もいない。挨拶をかわすだけの人しかいなかった。どこにも居場所は見付からない。どこへ行っても、人間の集団は現状で安定していた。入り込む隙などなかった。よそ者は出て行くしかないと思った。しかし脱出に失敗して、両脚と右腕を折った。
 ここまで考えてため息をつく。ふと叔父を見る。古めかしい装丁の本である。目を凝らす。御伽草子と書いてあるように見える。変な本を読む人だと少年は思う。
 じっと甥が見ていると、叔父が気付く。おおこれな、と言って本を渡す。
「なかなか面白いよ。古文だからお前なんかは嫌いかもしれないけど」
 たとえ活字でも、甥には古文は融解した文字の列に見える。本を返す。
「お前、浦島太郎知ってるだろ? あれでさ、何年龍宮城で遊んでたか知ってるか?」
「……さぁ」
「七百年なんだよ」
 甥は目を丸くする。
「室町時代から七百年だと、ちょうど二十一世紀だろ? 室町の人がこの時代にいたら、つらいだろうなァと思うよ」
 浦島もよそものになったのだ。居場所もなく、浮浪者同然の浦島を想像する。玉手箱を明けて浦島は自殺をしたのではないかと、甥は解釈する。
「退屈じゃないか?」
 叔父が訊く。大丈夫です、と答えると叔父はうなずいて、ゆっくりしてなと言ってまた本を読み始めた。
 甥はまた黙って考えを巡らせる。自殺に失敗して骨折した。情けなくて仕方ない。動く歩道の上でつまずいたようなものだ。自分で歩かなくても止まることなく進んでしまう。時間は非情である。こうしている間にも、歩道は進み続けている。ふとベッドの横に置いてある時計を見る。秒針が何の感情もなく回っている。こんな歩道など、降りてしまいたかった。
 クラスの人間は気味悪がって誰も近寄らないに違いない。いよいよ惨めになってくる。ギプスでもしていけば気にかけられはするだろう。しかし偽りの気遣いに偽りの感謝をしなければならないことは目に見えている。うんざりする。
 病室は蛍光灯の音が聞こえるほど静かである。ページを繰る音が時折する。花さえない病室に、甥は悶々とし、叔父は本を読む。叔父は本を読みながらも、甥を気にしている。
 不意に叔父は本を閉じて口を開く。
「三階から、だったっけ?」
 甥はドキリとする。おずおずとうなずく。
「本当に死ぬ気だったら、四階とか、五階とかじゃないと。あんまり、死ぬ気なかっただろ?」
 甥はうるさく思った。死ぬ気はあった。しかし四階ではなく三階を選んで、生き延びでしまった。叔父の言葉は痛かった。己の臆病さを暴かれたような気がした。本当に死ぬ気があれば四階や五階にすれば良かったのだ。最後まで生に執着していたと思うと、甥はいっそう情けなくなった。
「結局どんな人でも生きたいんだ。誰も死にたくなんかはない。お前だって覚悟はしてただろ? でも、所詮三階止まりだ」
 叔父は続ける。
「何かむなしかったんだろ。それで何となく自殺した。そんなんだろ。俺もそういうことがあったから、何となくわかるんだよ。俺は実際に飛び降りなかったけど。……実行した分お前の方がすごいよ」
 心のうちを見抜かれた甥は叔父の方を見る。目は合わさずに、首から肩のあたりに視線を泳がせる。
「偉そうなことを言うようだが、結局一生なんてほとんど失敗なんだよ。浦島みたいに、一時は楽しくても、すぐ苦しいことが来るようなこともある。うまくいくように思えるのは子供のうちだけだよ。お前は死ぬのに失敗した。ここからお前の失敗の歴史が始まるんだ。もうお前はうんざりかもしれないけど、つらいのはこれからだよ」
 甥は自然とうつむきがちになる。いっそう気持ちがふさぐ。眼前にどんよりと横たわる果てしない未来にくらくらする。死にたい欲望がふくれていく。今なら十階からでも飛び降りようと思う。何もない、失敗ばかりの未来をつきつけられて、甥は愕然とする。
「まあ、今はゆっくり休みなよ。とりあえず、まずは骨折治さないとな。少しはのんびりしなきゃ、だめだよ。幸い病院は自殺対策がしっかりしてるから、今度こそ死んでやろうなんてことしても無駄だぞ、言っとくけど。……少し説教くさくなって悪かったな。葬式が大っ嫌いでさ、なるべく誰にも死んでほしくないんだよ。何か飲む物買ってこようか? 何がいい」
 甥はいらない、と一言断わる。叔父は拍子抜けしたようにうなずいて病室を出ていく。ドアが開き、わずかに外の音が漏れ聞こえてくる。ドアが閉まると、病室はまた静寂が支配する。窓から入ってくる午の日光が、白い部屋をいっそう白くする。叔父の言葉は甥の頭の中でばらばらに散らばって渦巻いている。彼自身の思想と混ざって混沌とする。
 沈黙が運ばれてきた昼食によってしばし遮られる。甥は眼前に横たわる昼食を見るともなしに見る。生気のない食器に入ると何でも生気のなくなるものだ、と思う。
 叔父の言葉を反芻する。失敗ばかりの待っている前途を、この折れた脚で歩いて行く自信はない。ベッドに縛られた現状に何の希望も見つからない。少年はなお死を望む。だが誰にも死んでほしくないという言葉が脳裏にこびりつく。死を避けようとすることは無意味ではないか? 死んでほしくないと願ったところで、人は所詮死ぬのだ。叶わない望みを持つことに何の意味があるのだ。彼は混沌をかき回す。確かな物をつかもうとする。しかし混沌はますます実体を失っていくようだ。
 目の前には昼食が相変わらず置いてある。彼は慣れない左手でスプーンをつかむ。ぼろぼろこぼしながら食べる。必死に食べ物を口に運ぶ自分を、彼は侮蔑する。





エントリ3  15分間   神崎現

 123456、ダウト、78910、ダウト、JQK。
 時と共に順調に積み上がってはふいに無くなるカードの山は、あたしのところにばかりやって来る。扇よろしく広がった手持ち札は一向に減るけはいを見せない。
 吉田くんも先生もどうして、こんなに正直者で鋭いんだろ。あたしは『3』に出した王様と女王様がすぐにお戻りになるのを見ながら、くちびるを尖らせた。
 何が悲しうて、カードせにゃならんのだ。ぶちぶち言って、あたしは10分前のことを思い出した。

 それは本当に、いつもと変わりない朝で、あたしは普段通りにひとりで起き、制服に着替え、朝食を摂って、家を出た。すべて滞りなく、今朝も一日が始まっていた。
 何の疑いもなく学校に着き、その静けさに気がついた時からもう、狂っていたのだ。どこにも誰も居なくて、クラスのあたしの席には、先生が座っていた。
「早くないですか?」
 挨拶よりもまず先にそう問うと、先生はやたらと嬉しそうにこちらを見た。
「いや、全く。あと残り15分ちょっとだし」
「いつもより早いですよ、まだ朝礼前だし。……みんなは?」
 先生が居るってことは、休日なワケではなさそうだ。今日は始業時刻が遅い日だったのかしら。
 先生は探偵を気取って、あたしの鼻に左手の指を突きつける。右手はパイプをふかしているかのように宙に浮いていた。
「キミは、新聞を読んでいないのだね。テレビも見ないクチなのだな? ……あ、ひとり暮らしだっけ?」
「新聞とってませんし、テレビもないです。ひとり暮らしって言ったって、週末にはウチに帰りますから、中途半端ですけど」
 むっとしながら早口に答えると、先生はひどく気の毒そうにする。
「……今日が休日なら良かった?」
「だからどうしてですか」
 彼はいつにもなくぼさぼさの頭を掻いた。
「あと15分くらいで、地球さんに巨大隕石さんが激突なさるんだってさ。15分後には死んじゃうんだよ、オレたち」
 何を言われたのか理解するのに、それほど長い時間は要らなかった。あたしは即座にきびすを返した。
 先生があたしの肩をつかむ。
「ウチに帰るのっ!」
「無理だよ、帰り着かないって。交通機関、完全マヒしてるし」
「そうだ、電話!」
 ケイタイを出すが、取り上げられてしまう。
「ダメだね、つながんない。パンクしてる」
「じゃ、どうすりゃいいのよ、もうっ!」
 だん、と床を踏み鳴らして、座りこんだ。先生は肩を竦めて、あたしの傍にしゃがみこむ。通路は狭くて、先生の体に押された机が床をひっかいて音を立てた。
「何にもしなくていいんじゃない? いらいらして15分経ったって楽しくないよ?」
「なんでそんな落ちついてられるのっ」
「開き直ってるんだよ。死ぬからってさ、親に会いに行くとか、特別なことしなくていいじゃんって。いいじゃん、いつもとおんなじで」
 先生はあたしの席に座り直し、パイプの代わりに、おもむろに煙草を取り出した。火をつけ、ゆっくりとのむ。
「そう考えたら、生徒に会いたくなるんだから、先公って因果な商売だね。親の次が彼女じゃなくて、ガキどもだよ?」
「会えなかったじゃないですか、誰にも」
がらんどうの教室に、今にも泣きそうな声が響く。先生は眉根を寄せた。しかし不機嫌そうではない。
「お前が来ただろ」
 大きな手が頭を殴るように叩く。そのせいで涙は引っ込んでしまった。
「ところでさ、お前の席に座ったらお前が来たってコトは、他の席に座ったら他の奴が来るかな」
 言うなり先生は隣の席に腰を下ろす。委員長の吉田くんの席だ。
「来る訳ないですよ、知ってて来るモノ好きは先生だけですって」
「そうかなぁ、『吉田は最後まで無遅刻無欠席でした』って感じしない?」
 あたしは相手をしないで、自分の席に着いた。何だかだんだん開き直ってきたかもしれない。泣く暇を奪われたからかしら。
「まだ信じられないなぁ」
 ひとりごとを言うと、耳ざとく聞きつけた先生はうんうんと頷いた。
「地球さんがどうたらなんてでかいコト、正直わかんないよな。親と生徒と彼女と自分が死ぬってコトぐらいしか。オレなんか半径7メートル以内しか、現実感湧かないのにさ」
 先生が何か言うたびに、副流煙が鼻や口から出てくる。あたしは肺ガンなど気にせずに呼吸した。
「何ですか、その微妙な数字は」
「だいたい教壇から最後尾席までってコト。でかいコトで一喜一憂すんの、難しいわけよ。だから、最大半径7メートルだけ見ていようよ」
 彼は立ち上がり、勢い余ってこけながらも教壇に向かった。教卓の引き出しから、プラスティックの小箱を取り出す。ここからでも中身が何なのか、はっきりと分かる。
 ここで先生は真面目くさった。
「15分繰り上げて、最後の授業を始めます。ここに、この間没収したばかりのトランプがあります」
 黒板からチョークを摘んで、振り向きざまに『指名』する。
「ふたりでできるゲームと言えば?」
「えーと、ポーカー?」
「ブラックジャックもいいねぇ。……おっ」
 チョークの先が突然、窓の外を指した。あたしは駆け寄って、示す先を探った。見知った男子生徒が、校門あたりを歩いている。
「吉田くん!」
「ダウトにしない?」
「断然、大富豪ですよ」
 吉田くんは七並べを希望した。
 三人の公正なるジャンケンの結果で、今に至る。

 カードは全然減らない。時間はどんどんなくなる。いらつく。ふたりの目の動きや仕草に神経をとがらせる。数字を言う声以外は静かな緊張が、場に満ちる。
 楽しい。
 あたしはいつも挙げない右手を挙げ、
「はいっ!」
 大声を出した。
「……いや、まだ出してないし」
 カードを置きかけて吉田くんが突っ込む。
 いきなりダウトかよと困惑気味の先生に向かって、もう一度声を上げる。手もぶんぶん振り回した。
「はい、先生!」
 苦笑いで、先生はあたしを『当てる』。それを充分に待って、あたしは『発言』した。
「今日が休日じゃなくてよかったです」
 先生はやっぱり、嬉しそうに笑った。





エントリ4  お菊の笑顔   花村彩邪

 「ごめんね!」
数日経っての事だった。この間の彼女等4人組が、三原に話しかけてきた。この間と言うのは、今から何日か振り返っての、ある出来事の事だった。
 三原アケミ、15歳、中学3年生。受験シーズンとも言うべきこの季節に授業を寝て過ごしたり、遅刻・早退を頻繁に繰り返してるアケミは多くの人たちからいろんな意味で、注目を浴びていた。
「三原さんって不思議だよね〜!」
「てか、私は違います〜って見せびらかしたいだけじゃん?」
「うんうん、きもいきもい」   アハ八ッ
たまたまこの日、教室でこぼしてた愚痴を、たまたま通りかかった
三原に聞かれ、ばれてしまったというワケだ。
「この間は本当にごめんねー。悪気がなかったってゆうか〜...」
4人組のうちの1人が話し始めた。しかし、三原はそうは思わなかった。
警戒するかのように一歩距離を置く。
「これ、その時のお詫び!」
ズイッと三原の前に手を差し出す。
「...?何コレ」
彼女の手には黄色の液体が入ったボトルが握られていた。
「家で寝てないのかなぁって心配してわざわざお母さんに睡眠剤
もらっちゃった」
「ヨシコのお母さん、看護婦なんだよ!だから安心だよん」
「大丈夫!それ軽いヤツだし」
4人が口々にいろんな事を喋り、まるで朝の騒々しいにわとりの様な
光景だった。
「とりあえず受け取ってよね!」
そう言って、無理矢理三原にボトルを渡し、その場を立ち去った。
その時の彼女達のニタリと笑った含みのある笑みが気にかかった。

 
 「ま、死なないよね...」有無を言わさず渡されたその液体を見つめ、
飲むことを決意した。深夜1時の事だった。ゴクッゴクッゴク...
目を瞑り、布団の上で横になった。体が急に軽くなり、真っ暗だったまぶたの奥に灯りが見える。そこに手を差しのばした瞬間、辺りは一面の花畑へと
広がった。
 まるでテレビや映画でよく見る天国そのものだった。さすがに三原も
ヤバイと思ったのか、どうにか目を覚まそうとほっぺをつねったり、頭を
ポカポカと殴った、その時だった。
「お嬢さん、どうしたの?自分の身体を痛めてはいけないよ」
そういって、三原の手をそっと下におろした。今まで感じ取れなかった
その気配にびっくりし、あわてて振り返った。
「王子様...?」
そこには三原が思わず口にしてしまったほど、物語に出てくるような
王子によく似た風貌と口調、品格を兼ね備えた男が立っていた。
「ねえ、王子様なのでしょう?」
その“王子に似た男”はにっこりと笑い、こっちに背中を向けた。
「お嬢さん、私にこれ以上近づいてはいけないよ」
そう言い残し、“王子に似た男”はその場を立ち去ろうとする。
「ま、待って!」
とっさに、“王子に似た男”の服の裾を掴む。
「どうしていけないの?」
すると“王子に似た男”は困ったような笑顔で三原の頭をポンポンと
軽くたたく。
「今帰ればすぐに目が醒める。しかし、私に連いてくるならその時は...」
“王子に似た男”は最後まで言おうとはしなかった。
「それでも私について来るのですか?」
哀愁を帯びたその顔に、乙女心をキューンとやられたのか、
三原は迷わず答えた。
「はい、王子様...」
(だって理想の王子様に出会えたのに、わざわざ今現実に引き戻される
ことだけは嫌!)これから始まるであろう、甘い2人だけの世界を夢見て
三原はにっこりと柔らかな笑顔を彼に向けた。それは今まで誰にも見せた
事の無い、屈託の無い笑顔だった。
――こうして2人は手と手を取り合って花畑へと誘っていった。

     これが物語だったならば、ここでめでたしめでたしと
     終わるはずだった――・・・

 「どーしてぇ!!どーしてなの、アケミぃぃ....どうして我が子が
こんな目に...」
泣き叫ぶ声が部屋中に響く。何日こうして泣いたのであろうか、アケミ
の母親の顔は泣き崩れていた。赤く、はれぼったく、見るに耐えない。
彼女の叫び声ですっかりもみ消されてしまったテレビでは、こんな
ニュースが流れていた。
「昨夜、M県J市に住む三原アケミさん、15歳が薬物により植物状態
に陥りました。これで、3人目の被害者です。この薬物は黄色い液体で
出来ており、一度飲むと自分の願望に近い夢を見、自己選択によって
目を醒まか、そのまま眠り続けるかが決まってしまう物だと分かりました。 特に中高生の間で流行している模様で、その出所を現在警察が調査中です。コメンテーターの岡田さん、今回の事件をどう思われますか?」
 [番組特別コメンテーター 岡田〇〇氏]というテロップと共に画面が“コメンテーターの岡田さん”に切り替わる。
「そーですねー...たった一度で、というのは効果絶大ですね。今まで
無かったのではありませんか?えー、ですがこの薬でも目を醒まされた
方もいるのでしょう?そこまで危険ですかねえ。あ、いやいや薬物は
やっちゃいけませんよ!あ、当たり前です。」
額に掻いた冷や汗をタオルで一生懸命拭い、また続けた。
「ですが...この方も良い夢心地で永眠なら逆に良かったのでは
ないでしょうか。最近、少年犯罪も増えてますし、意志が弱い人も増え
てますでしょう。若い方には現実が厳しいのかも――」
 今日もテレビからは無責任でどうしようもないコメントが聞こえてくる。しかし、これが今もっとも支持を集めるコメンテーターだというのだから、日本はどうなってしまったのだろうか。

 そして一週間、1ヶ月、半年...と日が経ち、麻薬所持者はあっと
いう間に全国民の半数を超えた。その黄色い麻薬は後に“お菊の笑顔”と
言うなんとも胡散臭い商品の様な名称で、3つに減ってしまったチャンネルで放送された。しかし、その名称を耳にする者はごくわずかであったという。なぜならその頃にはもう国民の殆どが植物状態に陥り、生き残ったのはコメンテーターの岡田氏とその友達、その他の堅実な人間だけだった。
そう、この“お菊の笑顔”は岡田氏とその知人である博士による発明品
だったのだ。
 
「ふはははっだから薬物はやっちゃいけないといったでしょうに。
馬鹿ですなぁ、どいつもこいつも。まさかこんなに広がるとは思って
なっかったけど...まあ、良い夢見ちゃってちょうだいな。私はこの
日本で早速自分の願望を叶えるとしよう。」
ふははははは―ッ そして岡田氏の不気味な笑い声だけが遥か遠く、
天まで轟いたのだった。





エントリ5  ちいさな世界   香月

兄の手は震えていた。握った手からじわっと汗が吹き出してなんだか気持ち悪い。
あたしが覗き込むと、兄は笑って見せた。そして、何度も、何度も、「だいじょうぶだから」と繰り返していた。
その光景はひどかった。部屋からはもともとあった不潔な匂いと異臭がまざり、強烈だった。だけどあたしはそんなことちっとも怖くなんてなかった。ただ、いつもと違う兄が怖かった。

僕の手は震えていた。こんな感覚、もちろんはじめてだったから。汗が止まらなかった。ただ、妹に心配かけないように、いや、自分自身に言い聞かせるように、「だいじょうぶだから」と繰り返していた。
改めて今まで生活してきた部屋を見た。強烈な匂いが鼻をつく。ただ、僕は怖かった。そして、妹だけは守らなきゃいけないと思った。

「・・・おなかすいた・・」

香奈が僕のシャツの裾を引っ張った。とりあえず僕は家の中で一番清潔な、きれいとは言えないが、台所のイスに連れて行った。
四畳半の部屋を出たのは半年振りだろうか。カーテンをしめきり真っ暗な中、蒸し暑いこの部屋には虫がわき、カビの生え放題だった。香奈はなにもしらない。ものごころつく頃からこの部屋を出たことがないのだから。これが当たり前だと思っている。そのせいで、ひどく明かりに弱い目になってしまった。
そのうえ、言語力もひどく乏しい。今年で七つになるが、三歳児程度の知識しかないのかもしれない。
母は娼婦だった。そこそこの財力をもった男をたびたび家に連れ込み、僕と香奈を四畳半に閉じ込め、声を出すことも許されず、男とSEXを繰り返した。男が帰ったあとは、拷問の時間だった。
抵抗することは許されなかった。だってここが僕らの世界だから。母が神だから。どんなに殴られても、蹴られても、髪の手をひっぱられても。母は神だから。

冷蔵庫を開けた。中には賞味期限のすぎたものばかりで、僕はかろうじて残っていた生ハムを香奈に与えた。香奈は黙って食べ続けた。手足はこんなにも細い。同い年の子の半分ほどしかないのではないか。涙があふれた。
僕は香奈とは違い、外の世界を知っている。母が仕事に行っている間、一度だけ家から抜け出したことがある。最初、太陽の光で目が痛かった。ふらふらと、ぼろぼろの服を着て歩いた。道行く人がちらちらと見ていたが、誰も声をかけてはこなかった。三分ほど歩くと、公園があった。そこには同い年ぐらいの子供たちと、楽しそうにおしゃべりをする母親達の姿があった。
そのとき僕ははじめて気が付いた。我が家が「異常」であることを。
その夜、僕はいつも以上に拷問を受けた。前はしつけだと思っていたが、これはおかしいと気づいてしまった。

今日も、いつもと同じ朝だった。かすかにカーテンの隙間からこぼれてくる光で目が覚めた。香奈は横で眠っていた。平和そうに。細い腕で必死にタオルにくるまって。
ふすまの間から居間をのぞく。いつもは寝ているはずの母が起きていた。目が合う。僕は身を引いた。次の瞬間勢いよくふすまが開いた。母の体は怪我だらけだった。
「来な」ひどく低く冷たい声が響く。「行かなきゃまたぶたれる」条件反射で僕は急いで居間へ出た。いきなりの平手打ちで僕はバランスを崩して倒れた。
母は泣きながら叫んでいた。

「なんだその目は!文句でもあるの?!あんたたちを育てるためにあたしがどれだけ苦労していると思ってるんだ?!!寝たくもない男どもと寝て!まわされて!!どうしてあたしばっかりこんな目にあわなきゃなんないんだよ!!」

僕の首をしめる。付け爪が食い込んで、血が流れる。僕の意識が遠のいていくと、母は香奈の元へ向かった。髪をひっぱり、無理矢理起こす。

「なに寝てるんだよ!お前の食事のためにあたしがどれだけ働いてると思ってるんだよ!!」

香奈の顔は、いつもと違う恐怖で怯えきっている。

「お前らなんかいらないんだよ!!愛してなんかないんだよ!」

僕は信じてた。母は僕らを愛していると、愛しているから殴るのだと。信じようとしていた。
だけど違った。僕らは母の玩具でしか無い。怒りの掃き溜めでしかない。いろんな感情がこみ上げてきた。

母は香奈の首に手を出していた。ずっとここで生活してきて体力のない香奈は今にも息をひきとってしまいそうだった。
僕は、母の派手なアクセサリーの入っているジュエリーケースを、母の頭の上に思いっきり振り下ろした。
手にははじめての感覚が襲ってきた。ケースの中身が飛び散った。
母の頭からはじわっと血が流れ始めた。僕は、「母がまた起きるんじゃないか」、「また殴られるんじゃないか」、「香奈を殺すんじゃないか」、怖くてしかたなくて、何度も何度も繰り返し殴り続けた。
香奈は僕を見て怯えていた。僕は香奈にむかって、何度も何度も「だいじょうぶだから」と繰り返した。僕の世界は香奈だけだ。香奈の世界も。だから、香奈にだけは嫌われたくない。
香奈だけが僕を愛してくれるのだから。

僕は、香奈から母の死体が見えないように抱き締めた。香奈にはこの現状があまり理解できてないようだった。ただ、部屋中にひろまった血液の匂いに顔をしかめていた。

翌日、僕は母の死体を四畳半の部屋へ移した。つかんだ足はひどく冷たかった。死体があった場所には血がどす黒く固まっていた。僕は香奈に見られないように、その上に毛布を被せた。
次の日も、また次の日も、僕らは家から一歩も出なかった。本当は今すぐにでも出たかった。香奈を外へ連れ出してやりたかった。
でも、僕は怖かった。「母を殺した」という罪が、僕の背中にのしかかる。香奈はすやすや眠っている。数時間に一度、起き上がっては泣き出したが、それも三日でおさまった。僕は香奈に言葉を教えてやった。母がいる間、僕らは声を出すことを許されなかった。言語力の乏しい香奈に、僕は一日中、毎日毎日、言葉を教えた。

母をこの手で殺してから一週間後、それはいきなりやってきた。

コンコンッ

まさか。この家に客なんていない。新聞だってとっていない。一体誰が尋ねてくるというのか。香奈は不思議そうに聞いてきた。「兄ちゃ?」
僕は香奈を居間の一番角に座らせ、怖くないようにタオルをかけてやった。何年も僕と香奈が寝ている、香奈の一番のお気に入りだ。香奈は楽しそうにタオルにくるまって遊んでいた。
僕はおそるおそるドアへ向かった。

コンコンッ

心拍数があがる。
穴からのぞくと、スーツ姿の男二人と女が一人いた。奴らは言った。

「加藤さん、警察です。いらっしゃいますか?」

なんで。僕は焦った。どうして。なんでばれた。母が仕事に行かなかったから?管理人さんが言いつけた?どうすればいいのかわからない。そうだ、居留守をしよう。だけど次の瞬間、ちゃり、と鍵を取り出す音が聞こえた。もうどうすることもできない。僕は捕まるんだ。刑務所に入れられるんだ。香奈と、もう一緒にいられないんだ。
僕は香奈のもとへ駆け寄り、一言だけいった。

「兄ちゃん、香奈のこと大好きだぞ」

兄ちゃん・好き・嫌いは香奈が特によく使う言葉だ。僕はわかりやすく伝えた。
そして、そっと母を殴ったジュエリーケースを両手に抱えた。

ガチャ

鍵が開けられると同時に、きぃっと音をたててドアが開けられた。次の瞬間、僕はジュエリーケースを持って走った。そして先頭にいた男の刑事をおもいきり殴りつけた。

「香奈は、絶対わたさない!!僕は香奈とずっといる!!絶対に捕まらない!!」

叫んでいた。刑事は頭から血を流し、女の刑事が携帯で連絡をしていた。もう一人の刑事が僕をおさえつけてきた。まともな食事もしてきていない、まして今ひとりを殴ることに全体力を使ってしまったため、抵抗する力なんてなかった。
ただ、「香奈」と叫んでいた。
香奈はなにもわからず、急に現れた大人たちに怯えて泣いていた。

「兄ちゃ!兄ちゃ!・・・やぁ!嫌い!!!」

僕ら子供にとって大人は世界。歯向かうことなんてできやしないんだ。

僕は少年院に送られた。母を殺したからではなく、刑事を殴った罪だった。
あとから聞くと、あの刑事たちは母から虐待をうけていた僕らを保護しに来たそうだ。隣のひとが連絡したらしい。
結局僕は一番大切な香奈と離れ離れになってしまった。大人が信じられなかったからおった罪だった。





エントリ6  スモールサイズ。   音

 今僕の家のベランダには一つの鉢植えがある。小玉西瓜の鉢植えだ。
僕に鉢植えを預けた張本人である香苗が云うには、もう暫くすれば食べられるようになるそうだ。しかし収穫時期はきちんと見極めなければならないらしい。
だったらそんな時期に旅行になど行くなと云いたいところだが仕事の忙しい中、久々に行けるという女友達との旅行を止めるわけにも行かず、
僕は香苗に鉢植えを押し付けられてしまったのだ。
「水遣りは夕方に一回してね。あとね、もし西瓜の近くのくるんってなってるとこが枯れたら収穫して、それ食べちゃって良いから」
 出発前に香苗はそう云っていたが、「くるんってなってるとこ」が枯れる様子は無い。まあ枯れられても困るのだけれど。
取り敢えず、あと一日は今のままでいてくれ。そうすれば香苗が旅行から帰ってくる。その後だったら熟しきっても構わない。
「ああ云ってたけど俺が食ったら香苗は絶対怒るに違いないんだよなぁ……」
 五年も付き合ってきたんだ。香苗の言葉の裏に隠されている意味はよく知っている。
香苗が「食べても良い」と云ったものを食べれば確実に怒られる。
「食べても良い」というのはつまり「出来れば食べて欲しくない。っていうか寧ろ食べるな」という意味なのだから。

「つうか絶対もう熟してるよこれ……旅行前に食べちゃえば良かったのに」
 小さな西瓜に向かって話し掛ける僕は傍から見れば只の変人だろう。
解っている。よく解っている。しかし如何せん暇なのだ。何もやる事が無い。
だから今の僕には精々西瓜に向かって愚痴を零す事くらいしか出来ないのだ。
「はぁ……」
「おう、どした兄ちゃん!」
「いや、何か僕って尻に敷かれてるなぁって……」
 ……って、ちょっと待て。何だ今の声は。此処には僕しかいない筈だぞ。
 きょろきょろと辺りを見渡す。矢張り誰もいない。
「……幻聴か」
「違うわ! 此処にいるだろうが! ちゃんと見ろ!」
「……嗚呼、病院に行って来ようかな……」
 近所の高橋医院で良いだろうか。
「ああもう何で解らねぇんだ! 下を見ろ阿呆!」
 下を見て何かがいたら僕はもう重度の病気を患っている事になるのではないだろうか。
動く事を拒否する首を無理矢理下に向けて、声のした方を見る。鉢植えの辺りだ。
「よう、やっと見たな」
 ……何か、いた。
「ああー駄目だ僕はきっと頭がおかしくなってしまったんだぁぁぁ」
 頭を抱えて現実から逃げようとする。しかしそんな僕に向かって声の主は陽気に話し掛けてくる。
「兄ちゃん、俺は別に幻覚でも何でもないぜ? 妖精だ妖精」
「あああいつの間に僕はファンタジー思考になったんだぁぁ僕は赤川次郎の小説が好きなのにぃぃ」
「おお、兄ちゃんは推理小説が好きか。俺も好きだぜ」
 俺達趣味が合うんじゃねーか、と云いながら妖精は僕に笑いかけた。僕の掌ほどのサイズしかないくせに宙に浮いて僕の肩を叩いてきた。
……触覚までおかしくなってしまったようだ。もう此処まで来たら妖精の存在を認めてしまった方が楽になれるんじゃなかろうか。
「……ハジメマシテ妖精サン。ボクノナマエハ高野秀彦。ヨロシクネ」
 僕は外国人の使うような拙い日本語で妖精に挨拶をした。
「兄ちゃん、舐めてんのか?」
「……だって、じゃあ僕はどうしたら良いんだよ」
 わざとらしい僕の態度に妖精は怒ったようだ。
「俺の存在を認めたのは褒めてやる。ただな、兄ちゃんは未だ何処かで俺を幻覚だと思ってる。それじゃあいけない。より良い人間関係を作る秘訣は相手を心から認める事だ」
 偉そうに妖精は語った。何故僕は妖精に人間関係について諭されているのだろうか。
「じゃあ、まぁ認めるけど……何で君は出て来たんだ。香苗の前にも出て来ていたのか?」
「いや、人間に姿を見せるのは今回が初めてだな。兄ちゃんがあまりにも退屈そうだったから話し相手になってやろうと思って出て来た」
 何処までも偉そうな妖精だ。ぱっと見小学生くらいにしか見えない顔つきをしているのに。妖精だからもしかすると老人並みの年齢に達しているのかもしれないが。
「ところで、兄ちゃんは彼女と別れたいのか?」
「はぁ?」
 何を云うんだこの妖精は。
「そんなわけ無いだろ。愛してるよ香苗の事は」
 あ、今かなり恥ずかしい事云った。妖精が僕を見てニヤニヤしている。
「だって昨日から愚痴ばっかり云ってただろ? ちゃんと全部聴いてたぜ俺」
「まぁ……それは一種の愛情表現というか何と云うか」
「グラビアアイドルの水谷真子と付き合いたいって云ってたのも聴いたぜぇ?」
「っ、それは只の妄想だっての!」
 この妖精、昨日の夕方うっかり洩らした事まで覚えてやがった。独り言を聴かれていたとは思っていなかったので、さっきよりも数倍恥ずかしい。
「俺は妖精だからな。兄ちゃんが望めば真子ちゃんと兄ちゃんを付き合わせる事なんか簡単だぜ!」
「だぁから、余計な御世話だっての!」
「マジで? アイドルと付き合える機会なんか今を逃したら一生来ないぜ?」
 嗚呼、しつこい!
「僕は香苗が帰ってきたらプロポーズするつもりなんだから、そんな機会要らないんだよ!」
「え……?」
 僕の怒鳴り声の直ぐ後に、戸惑ったような声が聴こえた。
慌てて振り向くと、部屋の中には旅行鞄を持ったまま立ち尽くす香苗がいた。
「なっ、香苗! 明日帰ってくるんじゃなかったのか!?」
「うん、そのつもりだったんだけど……急に友達のお母さんが倒れたって連絡があって、皆で慌てて帰ってきたの」
「へ、へぇ。その友達のお母さんは大丈夫なのか?」
「軽い過労だって。数日入院するだけで大丈夫みたい。……ねぇ、それより今の話本当なの?」
 香苗は裸足でベランダに出てきて僕の隣にしゃがんだ。僕は目を逸らした。
「ねぇ、秀彦」
 明日云うつもりだったのに。何の心の準備も出来ていなかった。畜生、あの妖精の所為だ。文句の一つでも云ってやりたかったが妖精は姿を消していた。
「……そうだよ。僕は明日香苗にプロポーズするつもりだった。ちゃんと指輪も買ってあるんだ。寝室の抽斗に入ってる」
 香苗の様子を伺った。断られるだろうか。まだ結婚はしたくないと云われてしまうだろうか。
「……良かったら、僕と結婚して下さい」
 僕は頭を下げた。小玉西瓜の鉢植えの前でしゃがみ込みながらのプロポーズ。格好も何も有ったもんじゃない。
「……香苗?」
 何も云わない香苗を訝りながら頭を上げると、香苗は顔を伏せて泣いていた。嗚呼、畜生妖精め。僕は香苗を泣かせてしまったじゃないか。
「御免、香苗。厭だったよな。俺もう少し待つから。そしたらいつか結婚しよう」
「……っ、違うわよ莫迦」
 泣いていた顔を上げて僕を真正面から見つめた。潤んだ瞳が可愛い、なんてこんなときに思うのは少し不謹慎だろうか。
「嬉しくて泣いてんのよ」
「…………え?」
 僕は阿呆面をした。目も口も驚きで開いてしまっていた。
「え、え、えっと、それは……結婚オーケーって事、でしょうか」
「ばぁか。そんくらい理解しなさいよ」
 香苗が洟をすすった。僕は腰が抜けてしまって、ベランダに尻を着いた。

「あ、西瓜もう食べられるわよ秀彦」
 僕等には格好だのムードだのは無縁のようだ。プロポーズの直ぐ後に小玉西瓜の話をするくらいだから。
「二人で食べましょう」
 にっこりと香苗は笑った。熟れた西瓜の近くには妖精がいて、僕に向かって「良かったな」と云っていた。





エントリ7  遠い国   桜也乃

「市長。もうこの国には、食糧も水も、残っていません。何処か違う豊かな国に移住しましょう。」
  「いや、待て。全世界のもの全てが納得しなければいけないんだ。」
「とにかく・・・。もう少しでサミットが開かれるのだ。そうすれば焦らなくても
良い案がでるさ。心配するなって。」
「市長っ。」
僕の声はむなしくもかき消せれた。
「毎日、毎日ご苦労様ですね。あのかたも。」
若い女の声がする。余計な御世話だ。振り向きもせずに、僕はその場を立ち去ろうとした。
「ちょっと。帰るの?この問題がどうなってるか知りたくないの?」
と、声がした。僕は満面の笑みを浮かべて(嘘だけど。多分それくらいは笑ったと思う。)
「どういう意味ですか?それより、あなただれですか?」
と聞く。ここ毎日、役所に通ってるけどこんな人みたことがない。もしかしたら、馬鹿にされてるだけかも。と思ったのだ。
  「あら?信じてないみたいね。そのままの意味なんだけど・・・。あたしは、この町の市長代理で、蓮といいます。あなたのことは聞いてるわよ。毎日毎日懲りずにやってくる少年がいるって。」・・・・・。僕はしばらく立ちつくしていた。
この人、本物かもしれない。信じてみよう。とりあえず、僕は彼女に
「教えて下さい」とだけ言った。
「ついてきなさい。」彼女はそう言ったので、僕は彼女の後をついていくことにした。しばらく、役所を歩いて、大きな歩道にでた。かといって、何かがあるわけではない。ただ、道が続いているだけである。昔はあったハンバーガー店も、僕の大好物だったアイスクリーム店も、今はもう無い。建物が、まるで博物館の模型みたいに並んでいるだけ。僕は、この道が大好きだった。母さんとよく散歩に来た。
でも、今はそんな余裕はない。この国にはもう食糧がない。国と国の喧嘩。すなわち戦争のせいだ。ぼくたちの、国は負けたのだ。母さんも妹もこの国にはもういない。違う国で暮らしている。僕を残して、家族は逃げた。だから、僕は母さんがにくい。そんなことを、考えている間に
「到着。入りなさい。」と言われた。中にはいると、大きなパソコンと、実験器具の山しかなかったが、懐かしい、インスタント食品のからがあちこちに散らばっていた。彼女はそれらを片づけるとこういった。
「あんたは、何で食糧が消えたか知ってる?」
「・・・。戦争に負けたから。」
そう言うと彼女は鼻で笑いながら、
「違うね。戦争で負けただけじゃ、ここから食糧は無くならない。他の国からたくさん 食糧物資がきてんのさ。それをここでため込んで、高いお金で売りさばいて、
あくどいことをしてるのよ。ちなみに市長もぐる」
もうたくさんだった。市長は味方だと思っていたのに。僕は涙が出てきた。
「泣くくらいなら、こういうことしないほうがいいよ。あんた、賞金首になってんだから。」そう言った。でも、もう耳には入らなかった。
その後、彼女は
「もう一つ、教えてあげる。ここはねえ、今日爆破なんだ。足がつく前に壊しちゃうの。だから、こんな企業秘密教えてあげたの。天国でお母さんたちと幸せに暮らしなさい。」
僕は、精一杯平気な振りをして、
「最初からこのつもりだったんですか?」ときいた。
返事は想像できた。
「当たり前でしょ」その答えを聞いたとき僕の全身の力が抜けていく感じがした。
騙された。ドーン。何も知らない誰かが、その基地を爆破した。
その後、この国の食糧危機がどうなったか、僕は知らない。
だけど、祈らずにはいられない。世界中から戦争が無くなるようにと。

作者注:追伸、この話を書いたのはたんに興味本位だけではありません。
世界中の色んな国で、食糧が無くて多くの人が餓死しています。
たまたま、今日本が平和だとしても将来どうなるか分かりません。
今日、学校の登校日で平和についての事をやりました。こんな事を、夏休み中にしているのは多分、うちの学校だけだと思います。
だから、このホームページに、この小説を載せました。
幾分わかりにくい文章ですけどよんで下さって有難うございました。





エントリ8  導なき道   佐々木洋美

「王…、王!」
 王は大臣に呼ばれ目を覚まし、豪華なベッドから身を起こした。
「いつまで寝ているのですか? 朝食のお時間です。会議もあるのですから早く着替えてください!」
 わりと若い大臣は、王の耳元に大きな声で怒鳴った。王は両手で耳を塞いだ。
「大臣…、口うるさいのもほどほどにしてくれぬか? 我はまだ眠いのだ…」
 王は片手を耳から離し、大きな欠伸をした。
「わがままなど言ってはおれません! まだ王は若いのですから、健康でいらっしゃらないと!」
「我が爺になっても同じ事を言うのであろう?それなら、今でなくてもよかろう…」
「とにかく! 国と自分と、どちらが大事か決めて下さい!」
「我だ。決まっておろう。」
「…」
 大臣は王をパジャマのまま、ベッドから引きずり出した。

「ところで息子よ。」
 席についた王が朝食を食べ始めると、王の父が王に話しかけてきた。
「なんでしょう?」
「そろそろ見合いをしても良い頃合いだと思うのだが…」
「何度も言っておりますが父上、私は子をつくりません。一生独身のまま、過ごしたいと思っております。」
「ふむ…、独身、のう…、しかしそろそろ跡継ぎを産まなければ、我が国は存続できなくなってしまう。魔物との戦いも…」
「前々から言っているでしょう。別に王位継承は王族でなくてもいいのです。王の血筋でなくとも有能な者はいます。そこから選べばよろしいと私は思いますよ父上。」
 言うと王はナイフとフォークを皿に置いた。
「我は毎日父上から同じ事を聞かされ疲れた。我が部屋で休ませてもらおうぞ。」
 と、大臣に小さな声で言った。

 王の部屋の外からバタバタと慌ただしい足音が響いた。その音はだんだん王の部屋へと近づいていき、そして部屋の扉が開かれた。その扉を開いたのは、一人の少女だった。
「王、その小娘を捕まえてください! 勝手に城へと入った不届き者です!」
 大臣はその少女を捕まえようとしているが、すばしっこくなかなか捕まらない。
「待つがいい大臣。我はこの娘と話したい。」
「なんですと?!」
 大臣は止まった。そして王は少し怖がっている少女の元へと近づいた。
「娘よ、我が子となり王位を継ぐつもりはないであろうか?」
 大臣は「本気ですか?!」と何度も言った。
「そんなことをしたら、前王が何というか…」
「我が言いくるめる。それならば、いいであろう?」
 王は若い大臣に向かって、ニッコリと笑いかけた。

「不吉な星が見える…、王よ、その娘を追放するのだ!」
 占いの得意な宰相が言った。しかし王は宰相の言葉を否定した。
「この娘は我が跡継ぎだ。手放すわけにはいくまい。」

「まおうさまー」
 まだ若い魔物が魔王を呼んだ。魔王は自室で読書をしていたが、その若い魔物の方を振り向いた。どうやらその若い魔物は、手に何か持っているようだ。
「おもしろいもの、みつけたー!」
 若い魔物は、手に持っているソレを持ち上げた。それは人間の少女だった。魔王はため息をついた。
「持ってきてはいけないものを…、どこに落ちていた。」
「わかんないー」
「捨てろ。」
「えー」
「いいから…」
 再び「捨てろ」と魔王が言おうとしたとき。
「可愛いーっ!」
 魔王の自室の扉を開けたメイドは、箒を手に言った。
「どこで拾ったの?! すっごく可愛い! これあたし飼う! 絶対飼う!」
「だ…」
「いいわよね?」
 なぜか魔王よりも強いメイドが、目を光らせた。魔王はOKを出した。

 魔王にとってメイドはとてつもなく相性が悪かった。魔王は常に血がなければ生きていけない。しかし吸血鬼ではない、そんな微妙な位置にいる。しかしメイドは、完璧な吸血鬼だ。メイドに血を吸われれば、魔王は一発で重傷に陥ってしまうだろう。
「父、上…?」
 少女が言った。
「何…?」
「父上に…雰囲気が似てる…」
 魔王と少女が二人きりになった部屋でのことだった。魔王は、少し顔を赤らめた。
「うっとおしい…。私から離れろ。」
 その時魔王は、少女を突き放していた。

「魔王ってさー、評判悪いよな。」
「ああ。どうしたらあんなひでぇ魔王になれるんだか。前の魔王の方がよかったぜ。」
 魔王は兵士達の悪口を聞いていた。しかし魔王は気にせずにいた。何度注意しても、何も発展しないと思ったからだ。
「まおうの悪口を言わないで!」
 あの日魔王の前に現れた少女だ。その少女は、兵士達に怒鳴った。
「まおうは何も悪くないよ! 何もしてないの!」
「な…、なんだコイツ。行っちまお…」
 兵士の顔が青ざめた。目の前に魔王がいたからだ。
「あ…、すいません!」
 と言って兵士は、走り去っていった。
「別に…、嬉しくなんかなかったぞ! 嬉しくなんか…」
 魔王は、少女に背を向けて言った。

「まおうー!」
 魔王の自室に少女が立ち入った。
「これ、まおうにあげる!」
 それは花冠だった。
「…」
「頑張って作ったんだよ!」
「…」
「ま…おう?」
 魔王は、大粒の涙を流していた。
「どうしたの? どこか痛いの?」
「痛くない…、痛くないんだ…」
 魔王は少女を強く抱きしめた。
「父上と…呼んでいい。私が許そう…」
 少女はキョトンとしていた。そして小さな声で言った。
「ちち、うえ…」

 人間と魔物との戦争。それは行われた。
 激しいものだった。双方とも、互角に戦っていた。そして…、魔王と王は、対峙した。
「魔王よ…、お前は我が討つ。」
「…向かってくるのはいいだろう。しかし私が返り討ちにしてくれよう。」
「まって!」
 少女は、王と魔王の間に入った。
「戦わないで、父上!どっちもわたしにとってすごく大切なの!」
「お前、今までどこに…」
「…」
 最初に言ったのが王、次が魔王だ。
「死なないで!どっちも、生きて…」
 少女の言葉は、そこで途切れた。背中には矢が刺さっていた。王と魔王は、少女の倒れる早さがスローモーションに見えた。矢を放ったのは…、人間の兵士だった。王と魔王の二人は、矢を放った人間を悲しそうな、しかし怒りの目で見つめた。矢を放った兵士は震えていた。
「さ、さいしょぉ…」
 ガタガタと震えながら言った人間の兵士の言葉は、それだった。
「宰相が…、命令したのか…?」
「おうさま…、す、すみま…せ…ん…、さいしょぉに…、妻を人質に…」
 人間の兵士は泣きながら言った。兵士は弓を落とすと、叫びながら逃げていった。
「…。あいつは…、私を父と…」
 魔王はブツブツと呟いていた。そして、涙がこぼれていた。王も、涙を出したくなった。しかし、それどころではなくなった。
「宰相を…、ツブス。」
 王は、決心した。

「宰相…、どうしてあの娘を殺した。」
「王ですか。あの娘は不吉を呼ぶからですよ。」
 宰相はニタリと笑った。王はそれを不気味なものだと思った。
「不吉を呼んでもいい。あれは我が娘、王位継承者だ。お前はそれを殺した。これは完全に謀反だ!」
 王は半分泣きながら怒鳴った。しかし宰相は笑った。
「私の占いはよく当たる、そうでしょう?今までだって私の占いに助けられたことがあった。今更何を…、あなたは自己中心的すぎる。」
 完璧にキレた王は、宰相を剣で斬りつけていた。
「我が悪口を言われるのは、嫌いだ…」

 王が後に聞いた話…、宰相は王位を乗っ取ろうとしていたようだ。戦争を利用し王に矢を放ち、事故として片づけるつもりだった。
 そして王と魔王は戦争後…、友好条約を結び、和平を結んだ少女を忘れず…、過ごしていったという。





エントリ9  Friendship of Two peopie   妃華寒水

「はぁー!」
「うぉー!」
「うけてみよ、瞬迅剣!!」
「くらえ、風花迅!!」
カキン、カキン
「おぬし、やるな」
「お前もな」
「なにやってんねん!!」
スペペン
「いってー!!」
「でた!! ハリセン攻撃!!」
「まったく! うるさいと思って来てみれば、チャンバラなんかやって! お前らはお子ちゃまかい!!」
「「お子ちゃまでーす」」
「もう一発おみまいじゃー!」
「「ギャー逃げろー」」
そんなにぎやかな(えっ!? 殺気ただよってんのにそれで済ます!?)午後の風景。

「くそーハリセンなんか土産に持ってくるんじゃなかった」
 私一ノ谷楓は『純愛一路』と書かれたハリセンをお土産として持ってきたことを少し後悔した。
「でも、ま、たたかれるのも遊びの一部とでも思って」
私の友人ヘンリー=マクミランは言う。
「そうだね。おもしろいからいいっか」
おもしろいんだ!?(by寒水)
「それじゃ、いたずら大作戦を考えるか」
「そうだね」
私たちは作戦立てにかかった。

 私とヘンリーは海外文通で知り合あったペンフレンド。何回か手紙を交換しているうちに、私たちが性別が違えど、とてもとてもとても気の合うことがわかったの。それで、ペンフレンドになってから二年後、私はヘンリーの家に招かれ、こうして毎日気の合い度100%を炸裂しているのです。
 そして今、私たちは十月十一日にやるポッキーパーティーで、どんないたずらを仕掛けるか考えていたのだけれど、ネタにつまって気晴らしにチャンバラをやっていたというわけ。(もちろん、私が買ってきたお土産、つらぬき丸とかがみ丸でね)そこをヘンリーのお母さんにみつかり怒られ今に至る。
「ねーこれどう?この前テレビでやってたんだけど、ケーキに見えるがケーキじゃない。名づけて……だましお菓子ー!!」
「いや、なんじゃそりゃ!?」
「だからー、生クリームのかわりに卵の白身を使うとか、本物のイチゴじゃなくて偽者のイチゴを使うとかってやつよ!」
「いかす!! さすが俺のマブダチ!!」
「まーねー。(マブダチは関係あるかどうかわからないけど)」
二人して怪しい笑みをたたえ、親指をグッと立てた。
「それじゃ、さっそくどういうの作るか決めようぜ!!」

 十一月十一日。ついにこの日がやってきた。
 近所の方とヘンリーの友達を呼んで開いたパーティー。
 十一人目のお客さん(ちなみに最後のお客さん)にはクラッカーをならし、
「おめでとうございまーす。あなたは最後におこしになったお客様でございまーす。記念としてポッキー十本さしあげまーす」
と有無も言わさずポッキーをさしあげた。
 ご近所さんはヘンリーのお母さんとおしゃべりをしていた。
 ヘンリーの友達はこれから私たちの『えじき』(被害者ともいう)にするべく呼び集めた。
「これ、俺たちが作ったんだ。ぜひ食べてくれ」
「えーすごいじゃん」
「うふふ。とってもがんばっちゃった」
テーブルの上に並べられているのは小さなカップケーキ(生クリームのかわりに白身をつかって)チョコレートポッキー(ソーセージを細かくしたものをねりあわせてチョコレートをかけて)マシュマロ(にみせかけたトウフ)それからクッキー(砂糖のかわりに塩をたっぷりいれた生地で焼いたもの)である。
「少しだけど全部食べてね」
本当に少しだけだった。ケーキもポッキーもどれも一人一個だけの数しかない。
「これ、一個ずつもらっていいの?」
「「うん」」
「じゃ、俺はケーキからいただこう」
「私はマシュマロを」
「クッキーもらうね」
「俺はクッキーとポッキーから」
「それじゃ」
「「「いただきまーす!!」」」
ニヤリ
「ぐはっ、まじぃいぃいーー!! なんだこりゃーー!!生クリームじゃねーー!!」
「これトウフじゃん!!」
「しょっぺーーー!!」
「がは、まっっずーーーー!!ソーセージにチョコかけんなーーー!!」
「「ワーハハハハ!!いたずら大成功!!」」
私とヘンリーはパチンと手を合わせるとピカーンと決めポーズをとった。
「な、なんなんだまえらー(ポーズすんなー)!」
「私たちまさか……」
「いたずらのターゲットにされたの!?」
「「ってかえじき」」
「えっえじ……!!」
「ふっふっふ。なんたってうちらは」
「「ハリポタ親世代でいうなれば」」
「ジェーム=ポッターと」
「シリウス=ブラックであり、子世代でいうと」
「フレッド=ウィズリーと」
「ジョージ=ウィズリーなみの気の合う友人同士なのだー!!」
し〜ん
(ヘンリーまずい。しらけた!!)
(こうなりゃ強制的に盛り上げろ!!)
と、クラッカーを三、四個一気にならし
「イエーイ、つまり俺らはいたずら仕掛け人三代目ってわけだ!!」
などと言って盛り上げてみた。
「さぁー安心して。ちゃんとしたお菓子も作ってあるから」
と言ってもみんなの目は疑いのまなざしだ。
「本当よ。だからいたずら物はそれだけだったのよ」
台所からヘンリーが今度はちゃんとしたカップケーキ、ポッキー、マシュマロ、クッキー、ポテチをもってきた。でもみんなの目は半信半疑そのもの。
「わかったわ。そんなに疑うなら私が食べるわ」
私がどれも一個づつ食べてみせると、みんなも食べ始めた。量もたくさんある。
「ねーカエデ」
「なーに?」
片手にジュースのはいったグラスをもち、もう片方に五本ポッキーをもち、なおかつ一本口にくわえて聞き返す私に、呆れながらもヘンリーの友人は言った。
「ヘンリーとつき合ってないって本当?」
予想もしなかった質問に飲んでいたジュースを吐き出さまいと必死にこらえながら(その結果へんなとこに入ってしまった)私は答えた。
「ケホ、コホ、う、うん。私たちつき合ってないよ」
「あんなに気が合って仲良しなのに?」
「うん。だって私たち、好きな人いるし」
「うそ、だれ!?」
「おしえないプー」
「えーおしえてよ」
「やだー」
「ヘンリーにはおしえたんでしょ」
「あったぼーよ。マブダチだもの。それに、彼の好きな人もおしえてもらったしね。あなたの好きな人をおしえてくれるっていうんなら、おしえないこともないけど」
「う、そりは言えない」
「じゃ、私も言わなーい」
「くっそーぅ」
アハハーと笑いながら私はポテチへと手をのばした。

 ヘンリーと私はとてもとてもとても気の合う友人同士だ。
 それでも恋人というわけではない。
 お互いに好きな人がいる。
 でも、だからといって
 ただの友人ではない。
 友達以上恋人未満。
 今のこの仲が
 私は好きだ。







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