第20回中高生3000字小説バトル

エントリ 作品 作者 文字数
プロジェクトA 花村 彩邪 3000
壇上の恋 香坂 理衣 2465
僕の音、貴方の声 香月 2825
無理はしない。 桜也乃 2710


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エントリ1  プロジェクトA 花村 彩邪


 僕はとうとう一大決心を決めた。彼女に告白すると!
 僕は相田善紀。顔も平凡だけど、中身もなかなかの平凡っぷりだ。そんな変哲も特徴もない僕が告白しようとしてるんだ。自信があるわけがない。今までだって何度言おうとして言えなかったことか。世間ではそんな奴のことを臆病者、だとかあるいは恥ずかしがりやみたいにあまり良いイメージを持たせてはくれなかった。そしてその中の一人である、僕、相田善紀は告白によってそのイメージをとっぱらおうなんて微塵も考えもせず、むしろその逆だった。そのイメージに便乗しての告白だった。

 「好きです。今、一番あなたに夢中だ。相田善紀」
告白の言葉は決まっていた。目を見て話すことの出来ない僕はラブレターを書くことも決まっていた。ただ、こんな情けない僕でもやっぱり告白には工夫が欲しいとこだわっていた。だって、そうだろう?ありきたりな文で、ありきたりな告白で、しかもそこら辺に転がっている様なありきたりな男からなら、まず殆どの人が「ごめんなさい」と言うだろう。
 僕はまず女心を理解しようとした。そこから女心を掴むヒントが出てくるのかもしれない、と。女友達の少ない僕は雑誌や、本、友達からのアドバイスといった類の中から数少ない女の情報を収集した。あぁ、こんなことなら女友達作っていればよかった。ひしひしとそう感じた。
 
 そしてやっと決まった!やっと、本当にやっと。考えるだけに1週間も費やしてしまった。これならありきたりな告白にはならないだろう。なんてったって「工夫」この2文字に拘ったんだ。僕が決めた作戦A(!)は次の通りだった。
「まず、諸君の中から誰かリサーチしてもらって、
彼女のメールアドレスを流してもらう。」
僕は昔映画で見たサングラスにスーツ(ここでは制服を代用して)、ネクタイをビシッと締め、安い小芝居をし始める。皆がプロジェクトAに興味を持ち耳を傾ける。
「そしてそのアドレスにさっきの言葉を1文字1文字添えて、送信する。
全部届いた頃には晴れて差出人の名前が分かるという仕組みだ。
もちろん、名前が出る前に告白はしているのだから相手は気になって、
気になって最後まで読むだろう。
 そして、名前が出る、ここに最大のからくりが潜んでいる。事前に
君達に僕の噂を流してもらう。そうだなあ、聞きこぼしがあったら
困るから大体僕らの学年全体に吹き込んでもらいたい。」
 それを聴いた瞬間、皆の中から人それぞれの深い溜息が漏れた。当たり前だ、呆れているんだろう。確かにこれは予期していた範囲内だ。しかし、ここが一番重要かつ肝心なんだ、人の心は噂と共に流れやすい、そこを狙うにはお前らの協力が必要だ。

お願いだ…!

「いいよ」目をギュッと瞑った瞬間、誰かの声が聞こえた。我が耳を疑ったが顔を上げるとみんながにっこりと笑っていた。
「お前はしょーもねぇ奴だからよぅ」
「ああ、俺らが助けてやんなきゃなぁ!」
「んで?具体的に俺らは何をしたらいい?どんな噂?」
「いや、むしろ告白の時向こうにも誰かいた方がよくねぇか?」
「ああ!その方が反応もリアルタイムで分かるな」
首謀者であるこの僕をはじいて、みんながあーでもない、こーでもないと話を進める。全く、頼もしい奴らだ。思わず口元がほころぶ。こんな便りにならない僕と、ずっと友達でいてくれる奴らが予想以上に多かったこの光景を見ると、やばいくらい感涙しそうになった。
 頭を上に上げ、涙をグッと堪え、右の拳をぶんっと上に振り上げ天にかざし、地球がぱっかり割れるくらい叫んでやった。
「よ――し、諸君!!絶対に成功するぞっ」

 そしていよいよ、決戦の日。全ての準備が整っていた。
1:噂を学年中に広めた。例えば相田善紀が今もてているとか、性格もいい
  奴だとか、実は宇宙人だとか…まあ、真偽は別にして。
2:アドレスをゲットした。これはもう、女の子に顔が利く村田さまさまの
  おかげで!!
3:告白の言葉はやっぱりこれ。「好きです。今一番あなたに夢中だ。ソウ
  ダヨシキ」シンプルかつ、ちょっと臭い位がちょうどいいらしい。  
  ちなみに三好が言うには僕の字は難しいから片仮名にした方が良いらし
  い。そんなに難しいか?
4:作り置き。直前になって打てなくなるかもしれないから事前に告白文を
  打っておいた。後は一文字ずつ送るのみ。
5:女エージェント。僕が実際メールを送ったときに、彼女の横に友達にも
  居てもらう(もちろん、その娘も共犯者だ)。彼女が、メールが送られて
  くる途中で悪戯だと思って削除するのを防ぐ為だ。
6:スタンバイ。そしてこの女エージェントにはもう1つ、重要な任務があ
  る。それは、告白が終わってしばらく経った後に彼女の反応を携帯電で
  僕に知らせる事だ。もし好感触ならすぐにでも彼女に電話して返事をも
  らい、もし駄目そうなら…その時はその時だ。今は考えたくない。

 以上がこれから遂行されるべく一大プロジェクトに関する内容だ。果たしてこんなんで成功するのであろうか。所詮、小心者の僕が考えた事だ、
どこかに穴があるかもしれない。だけど、ここまで来るのに多くの仲間が協力してくれたんだ。今さら背を向けるわけには行かない。深呼吸をしようとしたが、中々上手くいかない。手には汗が滲んでいる。足はガクガク震えて、立っているのもやっとだった。
 ひどく緊張しすぎて全身の血液が激動する中、一文字めを送信した。
「ピッ」
単調な機械音がその場に響いた。周りには多くの仲間がいるのに誰一人として声を出さない。辺りは不気味なまでに静寂さに包まれていた。その中、僕の手は着々と次のメール、次のメールへと等間隔で送信していった。
 そしてあと少しで一つの文として全てが完成されようとしたその時、僕の携帯電話がなった。メロディは佐助の「キセキ」だった。どうやら着信みたいだ。訝しげにその鳴り止まない電話をとる事にした。
「…もしもし?」
「あ、あたし田村だけど」彼女の友達からだった。
「ああ、どうしたの?」
「どうしたじゃないわよっ!最低!何?ドッキリだったわけ?人おちょくんのもいい加減にしてよっ」
電話の主は物凄く怒っていた。一体何が起こったのか分からなかった。
「ちょっと待って、話が見えないよ。ちゃんと話して。」
僕はとりあえず相手をなだめた。
「どーしたもこーしたも…いい?あんたが送ってきたメールを全部繫げると好きです。今一番あなたに夢中だ。ウソダヨ≠チて来たんだよ!
最低。紀子も泣いちゃってんだよ?!人を傷つけて…もう知らない!」
プツ・プー・プー・プー
電話は一方的に切られてしまった。…そんな馬鹿な!僕はちゃんと送ったはずだ!急いで送信済みメールを確認した。
「…あぁ!そんな…確かに順番通り送ったのに」
画面には確かにウソダヨの順番で送られたことになっていた。僕がもう終わった≠ニ諦めかけて呆然と立ち尽くしていたその時、バシッと後頭部を強く殴られ、地面に叩きつけられた。元晴だった。元晴はいつも正しいことを言う奴で、僕の兄貴的存在だ。その元晴が体いっぱいに空気を吸い込んで叫んだ。

「走れっっ」

それは今までに無い位の低い声で、かすれた声だった。僕はその一声で慌てて立ち上がり彼女の元へと走り出した。そうだ、まだ諦めちゃいけない。誤解を解かなくちゃ。早く、早く…後ろから聞こえていたみんなの声援がどんどん小さくなっていった。
後は自分一人。僕は彼女の所に向かってただ、ただ我武者羅に走り続ける。





エントリ2  壇上の恋 香坂 理衣


 あんなにも曖昧で青臭いものが私にとっての「恋」だったのなら、彼から私に囁かれた「愛というものは、どんなに重苦しく、はっきりとしていて、深いものなのだろうか。
 彼とは、クラスメイトだった。ただの、規則的に毎年構成され、時期を終えれば自然と消えてしまうような、ありふれた関係だったのだ。それなのに、ある日をきっかけとして、私は彼と仲良くなった。彼の言葉に見られるある特徴に、とてつもなく眼を引かれたのだ。
「笹山君、今日私達が日直だから、教材取りに行こう。」
私が日直の時よく相手の男子に言う台詞だ。この学校では、教材運びは日直の仕事となっているが、まず教材を必要とする教科が限られている。一日に一回あるかないか位だ。だから平等にしようと、大抵皆二人で教材を取りに行っている。そのせいかどうか解らないが、どのクラスでも男女間の壁はあまりないようだ。
「ああ、そうですね。行きましょうか。」
私は一時停止したらしかった。他の男子には見られない、高校生男子にはあまりにも似合わないその口調に、私は何だか抵抗を覚えて、素直に聞いた。
「笹山君って、同級生にも敬語使うの?」
「ええ、うちが厳しくて、昔からあまり目上の人意外と話す機会がなかったので、癖になってしまったようですね。」
私はあまり理由になっていないような気がしたのだが、他人の家や彼の敬語の使用理由等に干渉するつもりはなかったので、追求はしなかった。それを境に、私と彼はよく話すようになった。周囲は多少驚いていた。私はそれまで、彼と話した事もなかったのだから。
 ある日私は、明日提出になっている美術の課題を取りに美術室へ向かった。私も部活帰りだったので、誰も居ないだろうと思っていたのだが、そこには電気が付いていた。
「失礼します…。」
一応声をかけた後、私は美術室に入った。中は相変わらず絵の具と石膏の匂いが充満していたが、不快感を与えるものではなかった。私はまだ乾いていない作品を授業の終わりに置いて行く金網で造られた幾重にも重なっている棚に手を伸ばし、作品を取った。結局誰もいないようなのでおかしいと思っていると、美術準備室の方からシャッシャッという鉛筆の音が聞こえてきた。美術室から入って、準備室で作品を描いているようだ。そっと覗くと、私は驚いた。そこに「彼」が居たからだ。
 彼はデッサンをしているようだった。彼の作品は何だか美術館で見るエッチングのようにも見える細かい線から成されたもので、素人目に見ても上手いとしか言いようがなかった。そして、絵のいうものが敬語を使うせいかどうか解らないが上品に見えるような気がする彼には似合いすぎていた。私は自分の上品に対する偏見に、密かに苦笑した。彼は作品を見つめ続けていて、まだこちらには気付いていない。
「すごい。絵、上手いんだねえ。」
声をかけると、やっとこちらを振り向いて、「貴方だったんですね。」と言った。私はその言葉がやけに心地よくて、もう二、三度繰り返して欲しい気がした。
「美術部だったの?」
と聞くと、彼は「はい。」と答えた。部活の時間にしてはもう遅いと思うのだが、というような事を単刀直入に言うと、「練習です。」と簡潔に言われた。私は彼の返答がいつも物足りなく感じていた。彼の返答は簡潔すぎるか、答えになっていないかのどちらかしかない。それでも、私が彼の事を知りたいと思う気持ちには、何らかの意味があるのだと解っていたけれど、その「何らか」というところには、気付かないようにしていた。しかし、それももう出来なくなった。あまりにも展開が早く、全然彼を思う気持ちに意味もない恋だったけれど、私は間違いなく彼が好きなのだと思った。もしかしたら、彼の個性的な口調だけに惹かれていたのかもしれないが、恋である事は何となく自覚した。
 私は彼の携帯の番号を聞いてみた。またも簡潔に答えられたが、私はそれを悲しいとは思わなかった。そして、ついでに私の携帯の番号も教えてみた。彼は何とも思っていなさそうだったが、私は満足だった。
 家に帰ってから、彼の番号を知った嬉しさに途中まで番号を押していく。それはとても幼稚な行動だったが、意味もなく出会ってすぐに人を好きになった私にはお似合いな気がした。そして私は、思い切っていきなり携帯から携帯へと電話をかけた。
「…もしもし?相田さん?」
向こうから聞こえる彼の声は相変わらず律儀で、私は最初「もしもし」としか言えなかった。そして私は恋をしたその日に、間接的な告白をする。
「私の事、どう思う…?」
悲痛が混じっていた。彼が携帯の向こうで驚いているのが解った。彼はしばらくしてから、静かに言った。
「素敵な人だと思いますよ。」
丁寧な彼の言い方に、私は脱力した。こういう事を言う人は、褒めちぎった後に断るのが大半なのだと思ったからだ。
「…私、貴方の事がとても嫌いだわ。」
突然に出た一言。大人ぶった口調で、精一杯の私の抵抗をした。すると彼の口から、まったく逆の言葉が飛び出した。
「僕は好きですよ。」
そして私は、よくある友達への言葉だと思って、「嘘。どうせ意味が違うんでしょ。」とつっかかった。
「いいえ。僕は、『愛している』と言っているんですよ。」
私は涙が伝うのが解った。この人も、意味のない恋をしているのだろうか。彼の答えや告白はいつも通り簡潔で、痛いくらいだった。
「ただの明るい人だと思っていたんですけど。何故か意味もなく大切だと思ってしまいました。何だか、馬鹿みたいですね。」
彼の口から出た、初めての簡潔ではない言葉だった。私達は二人とも、盲目な恋をしている。それは切なさとは無縁で、いつ壊れるかも解らないところだけが無駄に繊細だ。
 私は静かに泣きながら、ゆっくりと「好きです。」と呟いて携帯を下ろした。この涙は言葉と共に届いただろうか。そのまま携帯を切って、私はがくりと膝をついた。自分がこんな静寂にまみれた孤独な恋をするなんて、思っても見なかったと感じながら。今まで自分が見ていた夢は、ただの夢だったのだと思った。

○作者附記:
デッサン…鉛筆だけで影等を付けながら表現する高度なスケッチ
エッチング…版画
あまりにも意味の解らない物語ですが、一つの恋愛小説の形としてみて頂けると嬉しいです。





エントリ3  僕の音、貴方の声 香月


八月。夏の日差しは容赦なく照らす。反射した楽器がキラキラと輝く。
七月末に行われたコンクールも地区敗退。たしかにこの地区は強豪揃いだが、決して勝てないものではないはずだった。油断した僕たちに県への道は閉ざされた。
何もない、空虚の日々。「生きがいが無くなった」などと部員が呟く。しだいに、部の雰囲気は淀み、出席率も悪くなっていく。
今日も、トランペットパートは僕と中田先輩しかいない。コンクール前は完璧な出席率で、六人全員が揃っていたというのに。
僕の位置から机二つ分右で、先輩はずっとロングトーンを吹いている。休むことなく、淡々と吹き続ける。僕の心の中に、不安と途方にくれる気持ちが生まれた。きっと中田先輩もみんなと同じで、そのうち来なくなるだろうと。
僕は先輩に聞いた。

「基礎練ばっかで、つまらなくないですか?」

先輩は「どうしてそんなこと聞くの?」と首をかしげ、そして笑った。

「楽しいよ。」

それは決して意地や強がりには聞こえず、先輩は本当に楽しそうに笑った。

「自分が上達するのがわかるから、すごく楽しい。
 昨日より、先週より、長くロングトーンが続いたらすごく嬉しい」

僕の眼を真っ直ぐ見て答える先輩は、ひどくかっこよかった。
僕はその日、先輩に恋をした。

九月。月末に文化祭を控え、夏に脱力した部員達も次第に活力を持ち出した。文化祭での曲も決まり、パート内でも曲ごとのパート決めが行われた。
僕は、「トランペットのためのマカレナ」という曲でソロパートを努めることになった。当たり前のように先輩がやると思っていたが、その先輩がなんと僕を指名した。
「練習がんばってるのしってるから。ちゃんと上達してるよ。」
そんなことを言われたら、意地でも失敗するわけにはいかない。その日から僕は、その曲ばかり練習するようになった。

今日は合奏。部員の前で僕のソロを初披露だ。だけれど、何度吹いても高音の部分が出ない。この曲は、ほとんどが僕のソロだ。僕が失敗すれば、曲は崩れる。どうにかして、出さなければ。焦れば焦るほど、僕の音は汚くなった。
重い足を無理やり動かし、昇降口へと歩いていく。頭の中はソロでいっぱいだ。どうすればいいのか、中田先輩に聞こうかとも思ったのだが、心の中で制御がかかった。先輩なのだから、質問する、教えてもらうのは当たり前なのだが、そうすることによってより、僕と先輩をはっきり区切られてしまう気がした。
二年生の下駄箱から聞こえた声、中田先輩だ。僕は挨拶をしようと、身を乗り出した。
「部活帰り?じゃあ一緒に駅まで行こうぜ」
見たことのある先輩だった。たしか、野球部の部長。野球応援に行ったとき、泣きながら「応援ありがとうございました」と挨拶に来たことを覚えている。
中田先輩は、笑っていた。僕に、楽器を吹く楽しさを教えてくれたときと同じように。

先輩は、トランペットと同じように、この人が好きなのだろうか。

僕の頭を巡るものは、またひとつ増え、深くなった。

翌日、パート練習はまた僕と先輩だけだった。僕は延々、ソロの練習を続けた。しかし、何度吹いても、むしろ吹けば吹くほどにできなくなっている気がして、また焦り、そしてまた失敗する。一度この悪循環にはまったら、簡単には抜け出せない。
そんな僕の様子を見てか、先輩が声をかけてきた。

「ソロ、たいへんそうだね」

僕に気を使っているのがわかった。そして余計に僕の神経はぴりぴりした。

「絶対、本番成功させますから。」

「・・・そんなに、思い詰めないで。」

その言葉で、溜まっていたものが溢れ出した。

「そんなこと言ったって、思い詰めるななんて、無理に決まってるじゃないです  か!このソロは、絶対失敗しちゃいけないんだ!」

「だけど、全然楽しそうじゃない」

僕の眼を見て言う。決して逸らさずに。

「楽しいとか、そういう問題じゃないでしょ?!これは技術なんだから!だから、 こうやって毎日練習してるんじゃないですか!」

「最近、曲練ばかりで全然基礎練してないね」

強い口調で言う。まるで僕を叱るように。
それがまた僕の心に針をさす。

「基礎練なんて・・そんなことやってる場合じゃないでしょう?!」

自分が何を言ってるのか、わからない。

「圭くんの音、まったく歌ってないよ」

僕は一体なんなんだ。「・僕は・・先輩みたいに、吹けません・・・」小さく呟いて教室を出た。
僕は何をしているんだ。先輩の言葉が頭をまわる。
『まったく歌ってない』
四月、パート練で教わったことを思い出す。僕は中二の時に一度部活をやめており、ブランクがあったせいで他の一年より技術が少し劣っていた。それを悩みはじめた僕に、先輩が言った。
「圭くんは、技術のほうはまだまだだけど、誰よりも曲を歌えてるよ」
それはパートのみんなも認めてくれた、僕の自慢。それすら、僕から無くなってしまった。
先輩の言うことはもっともだった。正しい、正しすぎるくらい。それが僕には嫌だった。先輩に何かを教えられるたび、僕が「後輩」だということを全身で感じる。それが嫌なのに、頼ってほしいのに、男として。後輩だなんて見てはほしくないのに、昨日の人みたいに、見て欲しいのに。
僕はどうしてこんなに子供なんだろう。先輩に八つ当たりまでして、最低だ。

あれから一週間、まともに先輩と会っていない。というか、避けている。このままじゃダメなのはわかっている。僕が先輩を会わずにいられるわけもない。だけどなんだか逃げてしまって、今日も大人になれはしない。
部室で先輩達が話しているのが聞こえてきた。どうやら、恋の話らしい。中田先輩がそこにいることもわかった。聞きたいが、怖い。でも、足はそこで止まっていた。
「そういえば、野球部の部長と付き合ってるって本当?」
血の気がひいた。聞きたくない。
「まさか〜」
胸をなでおろした。どうやらまだチャンスはあるかもしれない。
「でも、『ありがとう』や『ごめんなさい』を、照れも無く言える人はすごいと思 う。」
僕は、まだまだ子供だ。先輩のように、大人にはなれそうにないけれど、僕にだってできることがあることを、示したい。
教室で、先輩を待つ。廊下の先から、ペタペタと歩く音が近づいてくる。
僕は席を立って、一礼をする。
「この間はすみませんでした!」
驚いた表情で、先輩がこっちを見る。
「先輩の言うとおりでした。上手く、吹けなくて・・焦ってばかりいて・・。」

「誰だって焦っちゃうよ。」

「お願いします、僕にトランペット教えてください!」

先輩は笑った。改まって、というふうに。
そしていってくれた、「がんばって」と。
頑張らないわけにはいかない。

九月末。トランペットのソロは、完璧、というまではいかなかったが、今まででは一番のできだった。まだまだ、先輩には及ばない。当分後輩として、いろいろ教わっていくだろう。それでもいつか、先輩を追い抜く。男として、尊敬してもらう。

それまで、ロングトーンは毎日続ける。

楽器の楽しさは、決して失わない。 





エントリ4  無理はしない。 桜也乃


ああ、誰か私を救ってください。
午前10時30分。お決まりの時間、お決まりのゲーム。
こんなのおかしいとは分かっていても、誰も止めてはくれない。
次のターゲットが自分になるからだ。頭では理解できる。
でも、心では納得が出来ない。こんなわたしが、惨めで嫌だ。
別に、「いじめられること」に怒りなんかはないし、この環境から
でたいとも思わない。でも、「弱い私」をみられた気がして
不意に誰かに「助けて。」と、叫びたくなる。
でも、その声が誰かに、聞こえることはまず無い。
みんなの耳に私の声は聞こえないのだ。
分かっている・・・。でも・・・。
彼と出会ったのは、そんなときだった。
「あいつ、きもいよなー。」
大声で私に罵声を浴びせると、一気にそのゲームは始まる。
「悪口」そして、いつもの通り、クラス全員にまわる。
言えなければ負け。すなわち・・・。次のターゲットにされるということだ。
この、ゲームのせいで不登校になった子もいると聞く。
でも、先生は気づかない。ううん。気づかないふりをしてるだけ。
大人に期待するのはもうやめていた。
そして・・・。
彼のばん。
しかし、早坂君は黙っていた。
「おーい。お前もいじめられたいのか?」男子が言う。
やはり、何を言われても彼は黙っている。
「こいつ、やっぱりマゾじゃねーの?いじめられてーんだよ。」
「前から、気取っててやなやつだと思ってたんだよ。この際だから
いっしょにいじめちまおうぜ。」
「だよなー」
誰もやめようとは言わない。
そうして、早坂君もターゲットにされてしまった。
・・・・なんでなんだろう。もしかして私を助けてくれたのかな?
ううん。違うよね。
不思議な感覚を覚えながら、私は家に帰った。
「ただいまー。」
お帰り。なんて声は聞こえては来ない。
冷蔵庫をあさる。
「やば。何もないじゃん。買いに行かなきゃ。」
食卓の上に置いてあった、財布をとると私は大急ぎで走った。
私が、いじめられるようになった原因はこれなのだ。
母は、教育長。父は、外務省のお偉いサン。
私の上には、もう二十歳を超える兄と姉がいる。
兄と姉は十分に親の愛を受けて育ったけど
私は違う。何も知らない。
私が、生まれた頃から、両親は不仲になり、
今では、別居状態。
だから、いじめられても誰も気づかない。
そう思ったのだろう。
「いただきます。」
コンビニで買った、インスタントラーメンを、
悲しいくらいに大きくて豪華な食卓で
一人で食べる寂しさ。でも、もう諦めた。
この食卓で、誰かとご飯を食べること・・・。
気づいたら、眠ってしまっていたらしい。
目が覚めたときには、すでに10時を廻っていた。
「今から学校に行っても間に合わないよね。今日は休もうかな。」
そう思って、二階に上がった。
・・・・そういえば、私がいない学校ってどうなんだろう。
思ったら、妙に興味が湧いて私服のまま、
学校に様子を見に行くことにした。
そっと外から教室を覗いたら
いつも、私をいじめていた男子が
今日は、他の子をいじめていた。
「私じゃなくてもいいんだ。」
これまで我慢してきたのは、なんだったんだろうと思った。
馬鹿みたいとも・・。
そして思った。
わたしは、いじめから抜け出したかったのだと。
でも、その勇気がなかっただけだと。
こんな形で抜け出せても
全然嬉しくはなかった。
次の日、私は学校に行った。
誰よりも早い時間に。
の、はずだったのに。

教室には先客がいた。早坂君だ。
「おはよう。」
「・・・おはよう。」
「はやいね。いつもこの時間なんだ? 」
「・・・・。」
しばし、沈黙。
何か喋らなきゃ・・・。
先に口を開いたのは、早坂君だった。
「・・・勘違いすんなよな。別に助けた訳じゃないから。
俺がああいうの嫌いなだけで。自分なら良いけど。
ひとがされてんのは、みたくねーんだよ。」
「・・・。でも、お前なんか我慢してんだろ?」
「はは。何言って・・・。」
否定する前に涙がこぼれた。彼の一言で無理をしていた自分に気づいた。
本当は、この言葉を言って欲しかったのだ。
「・・・。やっぱり。話してみ?俺も俺のこと話すから。」

早坂君の話は、現実的すぎた。
両親の離婚で父子家庭とか。
小学校時代にひどいいじめをされたとか。
中学時代は、すごいあれたとか。
でも、早坂君のイメージにはそんなのなかった。
私も話した・・・。家のことも、いじめのことも・・・。
全部。そして、あの食卓のことも。
「なんなら、俺と食べるか?その机で。」
「へ?」
「嫌か?」
「いや、嫌ではないけど。」
「よし。じゃあ今夜。決定。」
なかば強制的に、決定してしまった。
でも、私は後悔していた。
「今って、家カップラーメンしかない。」
まあ、仕方ない・・・。
午前10時30分。
今度の悪口は、私に対してではなかった。
新しくターゲットになった子。
私よりも弱そうなタイプ。
クラスメートみんなが悪口を言う中で
私と早坂君だけが言わなかった。
その日は、委員会を決める日で
結局、早坂君とになった。
保険委員。
朝の健康観察は早坂君で
記録は、私。
うん。いいかんじ。
学校が終わるとすぐに、教室を飛び出して
スーパーに向かった。
久し振りにまともな食事を作ろう・・・。
だって、相手が早坂君だもん。
あれ?私なんか変。
熱でもあるのかな?
いやいや。そんなことより・・・。
私は遅れていた足を走らせ、
レジを済ませた。
午後8時。彼が来た。
「ウマそーなにおいじゃん。」
「まーね。」
彼は、机をみるやいなや
「でけー。」とさけんだ。そして
「これで一人は寂しいな」とも。
どうしてか、彼といると泣けてくる・・・。
きっと、同じような立場に立っているからだろう。
そう思っていた。
彼が、急に学校に来なくなった。
私は一人になった。
そして、2日後。
担任がぽつりと告げた。
「早坂君は、お父さんの都合で東京に引っ越すことになりました。
早坂君は、明日までこっちにいるそうだから。」
・・・東京なんて。
たまらなくなって、自転車をとばした。
唐突な、分かり方だった。
私は、彼が好きだ。
きっと、助けてくれたあのときから。
彼は、家の前に立っていた。
「早坂君。私・・・・」
「メールするから。たまに逢おうな。」
「・・・。うん」
彼は転校していった。
私は、まるで別人のようになり
いじめてた子に「やめなよ」
と言えるようになった。
もちろん、今はいじめなど無く
楽しい日々を過ごしている。
両親の、不仲は相変わらずだけど
連絡の付かなかった兄と姉が家に帰ってきて
あの、食卓は、にぎやかになった。
彼とは、その後カップルとまでは行かなかったけど
悩み事やなんかを相談しあっていた。
彼と逢ったときに
彼が驚くくらい、
いい女になっておこう。
そして、彼と初めてご飯を食べた
あの机で
一緒にご飯を食べたいと思う。
もう、無理はしないから。