←前 次→

第6回中高生3000字小説バトル Entry3

クリスマスイヴ・不思議な出会い

クリスマス・イヴ、街は華やかな熱気に満ちています。
お店のイルミネーションと人々の笑い声はとても綺麗なハーモニーを紡ぎだし、
天から舞い降りた雪たちはまるで天使のようなのです。
 モミの木は、そんな熱気の中心に居ました。その大きさと来たら、
街のまん真中にポセイドンが現れたかと思う程でした。
力強い根に、堂々とした葉。何一つ恥じる事無い木なのです。
しかし、モミはいつも淋しく背を丸めて立っているのでした。
(また人が僕の前を通り過ぎていく。でも、僕を気にかけてはくれないんだろうな。
僕に付けられた綺麗な飾りに心奪われても、こんな僕は見向きもされないんだ)
 モミは友達が欲しかったのです。沢山の友達と、思い切り語り合ってみたいのです。
でも、モミに友達は居ませんでした。モミの周りに色とりどりの花や、力強い木々達は誰一人として居なかったのです。
(昔は良かったなぁ、野原に集まったリス達と遊んだり、チューリップ達の美しい歌を聴いたり。
でも、皆いなくなってしまったんだ。突然現れた大きな鉄の塊が、僕を残して全部切り倒して行ってしまったんだ)
 モミの周りにあるのは、もうコンクリートのブロックや、厚いガラスの壁なのです。
そう思うと、モミは何だか悲しくなってきました。自分がこのまま一人ぼっちで枯れてしまうのが怖かったのかもしれません。
モミはただ通り過ぎていく人を見つめながら、ただ立っていました。
ずっとそうだったのです。そして、きっとこれからも。
 夜になってモミは変な音を聞きました。ガリガリという音です。とがった物が、コンクリートを引っ掻く音なのです。
モミは慌てて身体を起こしました。初めて会う「何か」に恥ずかしい姿は見せられないと思ったのです。
「何か」はゆっくりとコンクリートを掻きながら歩いてきて、やがてモミの広場へとやってきました。
「何か」とは、一匹のライオンでした。でも、モミの木はライオンを見たことが無かったので、
ライオンが恐ろしいものに見えてしょうがありませんでした。
ライオンはゆっくりとモミに近づいてくると、静かに口を開きました。
「やぁモミの木、君もひとりぼっちかい?僕もなんだ」
モミは驚いて葉を揺らしました。木々やリス以外に自分に話し掛けてくれる人が居ただなんて。
「そうなんだ」
モミは自分でも気がつかないうちに口を開いていました。
ライオンはそれを聞いてにこっと柔らかい笑みを浮かべました。
「君と話がしたいんだ。僕はそれを待っていたんだ」
モミはライオンの言っている意味がよくわかりませんでした。
でも、誰かと話したくてしょうがなかったモミはあわてて口を開きました。
「僕もそれを待ってた。風がそよぐ事や、太陽がさんさんと輝く事を誰かとたくさん話したかったんだ」
それを聞いて、ライオンはますます嬉しそうな顔をしました。
「そりゃあいい。僕も風がそよぐ事や、太陽がさんさんと輝く事を誰かとたくさん話したかったんだ」
 モミとライオンは沢山話をしました。この前気持ちいい風が吹いた事、この前太陽が一日中姿を見せなかったこと、 
星が信じられないくらいたくさん輝いたこと。とても楽しい時間でした。
 しばらくすると朝になってしまいました。すると、ライオンは悲しい顔をしたのです。
「僕はずっと動物園に居たんだ。ライオンは僕だけで、誰とも話せなかった。
 シマウマ達は僕が話そうと近寄っていくといつも逃げてしまうんだ。僕はただ話がしたいだけなのに」
モミは大きく頷きました。自分もまったく同じだったからです。
「僕もずっと誰も居ない所で立ってた。人間は僕の飾りを褒めるだけで、僕に語りかけてはくれないんだ。
 でも、もう大丈夫だよ。これからは毎日君と一緒に話して、木の葉の話や、綺麗な水の話ができるんだからね」
モミは嬉しそうに微笑みました。でも、ライオンはもっと悲しそうな顔をしたのです。
「どうしたんだい、ライオン。僕と話すのは嫌いかい?」
すると、ライオンは大きく首を振りました。
「そんな事はないよ。君と話すのは美味しいお肉を食べる事より、
 美味しい水を飲むより、ずっと楽しかった。でも・・・・・・」
 ライオンがそう言った途端、パーンという大きな音が辺りに響き渡りました。
モミはそれが「銃の音」だとはわからずに、びっくりして音がした方向を振り向きました。
そこに居たのは黒い服を着た男の人たちでした。男たちはモミに近づいてくると、ライオンの前に立ちました。
そして、それと同時にモミは目の前で起こった出来事を知らずにはいられませんでした。
「ライオン!」
ライオンはぐったりと倒れ、体から赤い水を次々と噴出していました。
「ライオン!どうしてしまったんだい!?」
モミはライオンを呼びつづけました。しかし、ライオンがまた元気な笑みを見せてくれる事はありませんでした。
男たちはライオンの前にかがみこむと、黒い箱で誰かと話しているようでした。
「ライオンを発見しました。ええ、街の中です。暴れまわったら大変でした。
 銃で殺しておきましたよ。じゃあ、今から連れて帰ります」
男は黒い箱をポケットにしまいこむと、遠くへと引きずっていってしまいました。
「ライオン・・・・・・」
モミは一人で泣き続けました。ただ、泣き続けました。
ライオンが居なくなってしまったことが、とても淋しかったのです。
 時間が経ち、しだいに街に活気が戻りはじめました。
今日もまたモミの寂しい一日が始まりました。

←前 次→

QBOOKS