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第6回中高生3000字小説バトル Entry7

カウントダウンをしよう!

 私しかいない一軒家にあいつがやってきたのは、冬の寒さが厳しくなってきた季節の事だった。確かに私の家には私が一日では到底使いきれないほどの部屋が余っているから、食費を誰かが出すといえば居候なんか私としてはOKだった。
 しかし田舎である私の町に誰か居候したいなどと思うだろうか。
 別に、田舎が悪い。などとは思っていない。
 私には、三つ違う兄と五つ違う姉が居る。しかし兄も姉も今年の紅白歌合戦をこたつでみかんでも食べながら見る事は出来なかった。つまり、この田舎には帰ってこなかったと言う事だ。
 カウントダウンすらやっていない。ひとりで騒ぎ気がしなかったからだ。
 私は、居候したいなどと言う人などいないと思っていた。
 しかし、いた。新学期が始まって私が早く家に帰ってこたつで温まろうと思って家に帰るとあいつが私のお気に入りの場所に抜けぬけと座っていたのだ。

 そういえば、確かに親戚のおばさんから電話があったのを覚えている。
「今週一週間だけ、そちらで居候させてもらえない?」などと言っていた。もちろん、私は「別に、構わないですけど」なんて言った。
 他人が、自分の家にくる事なんてなんか不愉快な気分にもなったのだが、特にこれと言って断る理由もない。ただ…、こんな田舎に本当に居候させていいのか?なんて思ってしまう。
 後で文句言われても「田舎だしね」なんて言う情けない返事しか知らない。

「あんたが、おばさんのなんとかさん」
 私は、知らなかったからそう言った。たしかおばさんからの電話で名前を聞いたような気がしたが、おばさんの声は電話の受話器で一段と聞きにくくなっていた。
 それで「もう一回言って下さい」などと連発すると、機嫌を損ねる事など知っていたから、一回聞いただけではっきりとはきこうとはしなかった。
 大体、母方のどう言う親戚のおばさんなのか知らない私にとっては、私の家に居候する人がそのおばさんのどういう人にあたるかなんて知る訳がない。
「そう、なんとかさん。じゃなくてさ、悟っていう名前があるんですけど」
「そうそう、悟だ。確か、鈴木だったかそんなんに似た名字だったよね?」
「そう、鈴木。じゃなくてさぁ、佐藤だよ。佐藤 悟」
 そういえばそんな名前だった気がする。なんて曖昧な記憶なんだろうと自分自身で笑って見る。でも、実際そうでそれを情けねぇ…とまでは思わない。
「そうそう、佐藤君。じゃあ、私の名前は田中 由紀って言うの。まあよろしく」
 あいつは、「よろしく」と言い添えてまだ私のお気に入りの場所に居続けていた。去年送られてきた蜜柑の箱から、六つ蜜柑を取り出して私はそれを両手いっぱいに抱えてこたつのところまで行った。
 そして、私はあいつに足で「どけ」と唸った。あいつは渋々と横にずれた。
『――当然だ』と私は不適な笑みを浮かべた。
 次に私は、持ってきた蜜柑をあいつに三つ分けた。それをまじまじと見ているもんだから。
「蜜柑が嫌いなの?」
 なんて言うと、あいつは困ったように笑った。
「いいや、好きだよ」
 そう言って蜜柑をむき始めた。
 あいつは見かけに寄らず、物凄く几帳面らしくあの蜜柑の白い筋を丁寧に除いていた。
「几帳面だねえ、そんなのをのぞいているなんて」
「じゃあ、由紀は除かないのかよ」
 というと、「そうね」と頷いた。
 私は、蜜柑は皮を剥いただけですぐに食べる傾向が強い。なんて、ただめんどいからだ。
 『由紀』と呼ばれてはっとした。なんで今日初めて会った人に呼び捨てにされなきゃならないんだ!と思ったけど、でも…嫌じゃない。
 蜜柑を食べた後で、私はせっせと夕食の準備をしようとしていた。
 その役目はこの家の住むのならば、居候であると言うのは関係ない。
 と言う訳で、一応あいつにも手伝ってもらう事にした。

「んな、そんな細かい所までやんなくて良いの!」
「でもさあ、由紀のは超大雑把じゃんかよ。このにんじんまだ皮残ってる…」
「皮なんて、食べれば一緒でしょ?」
「あー――!この煮物もアクとってないし」
「いいじゃん、良いダシになるって」
「なるかー――!アクとらなかったら、苦味が生まれるんだぞ!」
「なんでさぁ、悟ってこんなにもさぁ料理に詳しいわけ?」
「基本知識だろう?」
「いや…、違うんじゃないの?」

 夕食も終えて、食器も洗い終えて、一息ついた。
 思えば、なんであいつは一週間私の家に来る事になったんだろう?
 という事を、率直にあいつに聞くと当の本人はけろりと答えた。
「人殴って、停学処分になったから」
 なんていうから、少し後退りした。それでもこいつで悪人には見えないし、悪人に仕立てようとしても無理だ。
「そっちこそ、なんでこの広い家に由紀ひとりしか住んでいないんだ?」
「ああ、その事か」
 やっぱり来たか。と私は思った。
「父さんも母さんも、お仕事で外国にいる。姉さんや兄さんは都会での仕事が忙しいから、っていうか田舎が嫌いだから今年も帰ってこない。それだけ」
「じゃあ、カウントダウンは?」
「はぃ?」
 その質問に、気が抜けた。普通、こんな暗そうな話からどうして“カウントダウン”が出てくるんだ?
「2002年のカウントダウンは?」
「してない」
 と呟くように言うと、急にあいつは立ちあがって「やろう!」と意気込んだ。2002年のカウントダウンなんて遡る事一週間に終わっているはずだ。
「どうやって?」
 私は立ちあがったあいつを見上げて尋ねた。あいつは私を見下ろしたかと思うと次は私の手を引っ張って立ちあがらせた。
「やるんだ!」
「いいか、今あと60秒で2002年が来る。2001年はどうだった?楽しかった?淋しかった?でも、来年は、きっとどうしようもないほどの良いことがある筈に違いないんだ」
「どうしてそんな事が言い切れるのよ?」
「この俺がそう言っているんだから、そうなんだよ」
 強引過ぎて、ちょっと理解できない。それでも、大きな手が私の手を包んでカウントダウンは始まった。あいつが、時計の針を12時に合わしていたから本当にカウントダウンをしているんだ!という臨場感があった。
「5!4!3!2!1!0!」
 って、家中に響き渡るぐらいに大声で叫んであいつと抱き合って一週間ぐらい遅れて新年を祝った。

 それからの一週間はあっという間に過ぎ去って、あいつの停学が解ける頃にはきっと私はこんな田舎に来てくれたあいつに感謝すら感じていた。
 私の町には、唯一県庁所在地でもないのに飛行場がある。私はそこまであいつを見送りに行った。
「何故俺が人殴ったか、どうして聞かなかったんだ?」
 と尋ねて来るから、私は特に考えることなくこう言った。
「それは、悟の家でじっくり聞かせてもらうよ」
 ぽんぽんと、あいつの肩を叩いた。
「本当は、泣きたいんじゃないのか」
 と言われると「どうだろ?」と言って言葉を濁した。
 大きくてを振った後で、あいつに『絶対に振りかえらないでね』と念を押した。
「泣くんだ?」
「泣くね、絶対に」
 そう言って笑った。あいつも困ったように笑った後で私を抱き締めた。
 あいつの姿が消える。あいつは私との約束をちゃんと守って一回も振りかえらなかった。
 ぼろぼろと、案外私もこんなにも泣けるんだな。って言うことが分かった。
 しばらくは、まだ私は切なくてその場所から動けなかった。
 
 …カウントダウンをしようか。
 今度あいつに会えるその日まで。

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