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第10回中高生500字小説バトル

エントリ 作品 作者 文字数
1名前サユキアヤコ496
2トイレチュウ歌羽深空500
3有と無姿森 瞳也506


バトル開始後の訂正・修正は受け付けません。

バトル結果







エントリ1  名前     サユキアヤコ


走っていた。
背中に背負った二つのランドセルがグラングラン揺れる。

双子の弟の翠がいない。

翠は僕が掃除から帰ってきたらもういなかった。


「ただいま。」
「おかえりなさい。」
「翠、もう帰って来てる?」
「まだよ。」

「そっか。」
僕は翠が学校で行方不明だった事は言わなかった。
何だかよくない気が頭のすみっこでしたからだ。

あと母さんが元気が無いように見えたから。


夕方になっても翠は帰ってこなかった。
僕は母さんに言った。

「ねぇ。翠、まだ帰ってこないよ。」
「そうね。」
「探しに行こうよ。」
「・・・もうやめなさい。」
「何で?」
「やめなさいって言ってるの。」

僕は悲しくて泣きたくなった。


何か悪いこと言ったのかな。

翠が心配なだけなのに。

夜になった。
一人きりで眠るのは寂しかった。

いつもいつも。


「先生、翠はどうなんですか。」

「翠君は、自分を亡くなった塁君だと思い込んでいます。事実を受け入れる事ができずに、塁君の事を翠君に置き換えて探しているのです。」


診察室に呼ばれた。
「名前を教えてくれるかな。」

僕は答えた。
「長谷川塁です。」

「じゃあ翠君は君の弟さんだね。」

「はい。でも今は何処にいるのかわからないんです。」


僕は泣いた。








エントリ2  トイレチュウ     歌羽深空


……何故此処にいなきゃならないんだ。

現在、某有名レストランのトイレにて、俺は立てこもりを決め込んでいる。そしてトイレにあった紙を俺は全て使い果て、しかしなおも出る状態。ぼさぼさの髪の毛、このレストランに似つかわしくない風貌に反して、意外に繊細な俺はたとえ若干でも腹の痛いまま出て、食事などしたくなかったのである。

高級レストランとは便利なもので、トイレにまで無線装置がついている。さっき俺はそれを使い、紙を持ってきてくれ、と頼んだ。いや、もしかしたらこの状態の俺にとって、この紙は神なのかもしれない!俺は神を待っているのだ。



突然響くノックの音。



「すみません、紙をお持ちしました。」


そう言って従業員は出来るだけ俺の方を見ないように紙を差し出した。そりゃそうだ。誰だってこんなの、見たくない。

あぁ、こんな事ならお造りなんて食べるんじゃなかった。牡蠣なんて食べるんじゃなかった。それから……
あぁ!とにかくこうじゃなかったら!


またノックの音。


そして、今度は貫禄のある支配人の声。

「そろそろ閉店になりますので、気分が優れましたら10万5400円、お会計お願いします。」

……こんな店、たやすく食い逃げできたろうに。








エントリ3  有と無     姿森 瞳也


全てのものはこの世に有る。
この体も、心も。


お年寄りに席を譲ってみた。
親切心のつもりだった。
怒られた。
年寄り扱いは嫌だったらしい。

恋人にプレゼントを贈ってみた。
やっぱり親切心のつもりだった。
そして怒られた。
どうやら気に入らなかったらしい。

ふと、おかしいことに気付いた。
僕が抱いた親切心は、届かなかった。
それなら、その心は何処に行ったのだろう。
きっと、消えてしまったんだ。
有ったはずのものが、消えた。


英語の授業、先生の後に続いて発音をした。
当たり前のことだと思っていた。
なのに、先生には感謝された。
皆は復唱をしなかったから。

恋人の肩を抱いて傍にいた。
いたかったから。
なのに、ありがとうと言われた。
ただいただけなのに。

ふと、おかしいことに気付いた。
僕は、お礼を言われるようなことはしていない。
それなら、その心は何処から来たのだろう。
きっと、新しく生まれたんだ。
無かったはずのものが、できた。


つまり、この世に有る全てのものは、無い。
この世に無い全てのものは、有る。
そういうことらしい。

有と無は紙一重。
僕たちは、
有を無にして
無を有にして
生きていくんだと
そう思う。

だってほら、全てのものが有るなら、
無いものが無いじゃないか。











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