| エントリ1 疑似恋愛。 桜也乃
「いやあ。参ったよ。」
電話越しに聞こえる、情けない声。
「なんで、傘持ってないの?朝から、雨降ってたじゃない。」
本当にこんな男と結婚して良いのだろうか。
情けない声を発しているのは、透子が初めて、結婚を考えた男だ。
何事にも真面目で、熱心で。仕事も出来るし、顔もいいし。
その上、何より透子のことを誰よりも愛してくれていた。
「いやあ。誰かに、間違えられて。」
「それなら、残っている傘何でもいいから、差して帰ってきなさいよ。」
「・・・・そうするよ。」
それでも、まだどうするか悩んでいる頃だろう。
同棲し始めて2ヶ月。
透子には彼の好きだったところが嫌になり始めていた。
でも、彼はいつも透子のことを、考えてくれた。
今まで、つきあった男達よりずっと・・・。
「ただいま。」
彼だ。透子が玄関に出迎えに行くと、そこにはびしょ濡れの
彼がいた。
「何してるの?傘、差して帰ってこなかったの?」
「俺が持っていったら、困る人がいるかなっておもって。」
「真面目なのはいいけど・・・。少しくらい自分のこと考えなさいよ。
壊れたら、どうするつもり?」
「はは。でも透子が作り直してくれるんじゃないの?」
「それはいいけど・・・。家族にあいに行くとき、性格が変わってたら変じゃない。こっちが困るんだからね。」
「以後。気を付けます。」
透子は彼が好きだ。だって誰よりも透子のことを分かってくれるから。
パソコンに光る、彼のデータが、いつもより輝いて見えた。
エントリ2
シツレンオンナ 暇 唯人 (いとま ただひと)
「 あーぁ…… センパイに彼女がいたなんて…… 」
ここはある夕闇が入り混じる教室の一角。
イスに座って机に突っ伏している女の子、リサは失恋をしていた。
先輩はサッカー部で、銀髪というスタイルでやっぱりファンも多い。
その憬れていた先輩に彼女がいたのだ。 先輩は嬉しそうに笑っていた、かなり。
先輩は私じゃあそこまで笑ってもらえないだろうな、きっと。
「 ハァ……… 」
ため息が漏れる。 悔しいのに、やるせないのに、哀しいのに、なぜか、涙はでない、 …でないはず。
そう、私はまだこの気持ちを捨てきれてない。
強い気持ちほど絶つのには強い意志がいるし、とてもつらい。
今、私の心の中はいろいろな物が交錯している。
センパイへの気持ち、彼女への嫉妬、自分の弱さへの嫌悪。
複雑に交錯しすぎて、私の力では持ちきれそうにない、
誰か、助けて!!
……。 自分の名前を呼ばれた。
突然、フッと持っていたものが軽くなった。
顔を上げて、呼ばれた方向へと目を向けた。
薄くなりつつある夕焼けに照らされた銀髪が、ゆっくりと、靡いていた。
私を助けてくれた、男性(ひと)。
エントリ3
死の授業 香月
「死の授業」って、あるんだって。友達が教えてくれた。
「今日は『人類の誕生の神秘』についてのビデオを見たいと思います。」
総合の時間、テレビの画面に映された子供の笑顔。「命は尊いものです」先生は言う。「だから、決して自ら命を絶とうなどと考えないでください。真っ直ぐ生きるのです。」と。
だけれど、私達にはわからない。一人の女子が静かに手を挙げ、発言した。
「死を考えることはいけないことなのですか・?」
先生は怪訝そうに顔を歪め、「そうよ」と言った。とたんに、生徒達が騒ぎ出した。
どうして考えてはならないのですか?死ぬことは罪なのですか?だとすれば、いつかは私達は必ず死ぬ、私達の「生」も罪なのですか?死ぬとどこへいくのですか?どこかへいくのですか?記憶は消えるのですか?みんな死んだ人を忘れてしまうのですか?
ならば、死んでしまったあの子は犯罪者ですか?
先生は、教室を出て行った。先生にも、本当のことなどわからないのだろう。だって、死を知っている人は、もう死んでしまっていないのだから。ならば、なぜ「わからない」と言わないのですか?どうして、死を否定なさるのですか?
私達は静かに席に着き、ぽつんと空いてしまったクラスメイトの席を見た。
どこかで行われているという、「死の授業」。どうか、ここでも。
答えなど、いりませんから。答えは、私達で作りますから。ただ、「死」を否定しないで。死も生も、同じものだから。
死の授業を、どうか。
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