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第6回1000字小説バトル
Entry64

発明・発見のひみつカスタム

作者 : ヒモロギ
Website : http://home4.highway.ne.jp/deadsoul/
文字数 : 997
「来週から冷蔵庫の下限保冷温は15℃となります。違反すると厳し
く罰せられますのでご注意下さい。繰り返します、来週から……」

 政府の広報車が流すアナウンスは道路から校庭を隔てた英一の教
室にも達し、生徒たちをどよめかせた。
「冷えたコーラとか飲めなくなっちゃうぞ」
「氷も作れなくなるね」
「あと、フルーチェも」
「そうか、フルーチェもだ。大変だ!」

「ハイハイみなさん静粛に。今のも発明放棄政策の一つです。私た
ち人間は発明に頼りすぎた結果、自然を傷つけ、人間自身をも傷つ
けてきました。ですから、これからは私たちの生活から発明を少し
ずつ取り除いていかなければなりません。自然に帰らなければなり
ません。わかりますね?」
「ハ――イ」
 皆が無邪気に声を揃えるなか、英一だけは一人うつむいて口を尖
らせていた。
「それでは授業に戻ります。さて、『二十世紀の発明三悪人』は誰
でしたっけ? さん、ハイ」
「エジソン、中松、アインシュタイン!」
 先生は聡明な教え子たちに目を細めた後、黙りこくった英一の陰
気な顔と彼の上履きのフライングシューズにそれぞれ一瞥をくれた。
英一は顔を真っ赤にしてますますうつむくしかなかった。


 英一は家に帰るなり冷蔵庫を物置に運び込み、なにやらいじくり
まわし始めた。不審に思った母親が物置を覗いた時、英一は既にチ
ルド室の中に閉じ篭ってしまっていた。青ざめた母親は学校や警察
に通報し、冷蔵庫のまわりは人だかりとなった。
「英一、開けなさい。なんで冷蔵庫の中なんかに?」
「これは僕の発明した簡易冷凍カプセルだよ、ママ。外からは開か
ないし、何をしても絶対壊れないよ」
「英一くん、これは立派な犯罪ですよ。発明罪なのですよ」
「うるさい! 発明ができない発明少年の気持ちは先生にはわから
ないよ! 僕はこの中で百年ほど冬眠するのさ。その頃には人間な
んかすっかり退化しておサルになっているだろうから、誰はばかる
ことなく発明を決めこめるのさ。ははははは」
 発明少年の冷たく乾いた笑い声はやがて凍りつき、あたりにはコ
ンプレッサーの重低音のみが響き渡る。


 しかし、ヴヴヴと唸る重低音も程なく止んだ。電源コードが引き
抜かれたのだ。


「どっちにしろ、その七年後には電力供給が完全にストップしたわ
けだけどね、へへへ」
 日なた水のように生ぬるいビールに酔うたび、英一は当時の話を
さも武勇伝の如く語り出す。
「キテレツな話だろ、へへへへへ」






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