第7回1000字小説バトル
Entry15
『157匹のナメクジが洋服をとかし胸に舌を這わせようとしてる』 それが私が受けた恐怖のイメージ。 「この歳になっても男が怖い、だけどこの歳になってもまだという のはつらい」 女医は「あなたの歳でそんな人珍しくないわよ」と微笑んでみせ た。クソッ、お前のまわりに第三者が知ったら目をむくような体験 をした女がいるのかよ。 「理想が高いからなんていう、お花畑の少女みたいな理由じゃない。 私のなかであの日の恐怖がとぐろ巻いているって何度も言ってる」 アイツの視点の定まらない落ちくぼんだ目。痩せた親指が唇をな ぞった。刃物を捜す手は虚をつかんで。誰か声の出し方を教えてよ。 あのときベルが鳴らなかったら私は。 「私のような理由の人はそうはいないでしょう」 女医は震えが止まらない経験をしたこともないのに「そうね」と 微笑んでいらっしゃる。クソッ、涙の固まりが胃袋と一緒に出てき そうだ。 「この歳でセックスが語れない自分が馬鹿みたいでどこにも行けな い。どうすれば普通の女になれるんですか」 女医は「あなたは未遂で済んだのだから、誰とでもやれないこと ないでしょう」とヒザの上で重ねられた薬指のリング。 なんのために精神科なんかに来たんだろう。全然ダメじゃん。こ の役立たずに本棚のこけし突っ込んでやろうか。
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