インディーズバトルマガジン QBOOKS

第7回1000字小説バトル
Entry18

誰?

作者 : zzz
Website :
文字数 :
  3ヵ月程前から急に太く歪になりだした右腕が、今僕にこう尋ね
ました。
「君、誰?」
そんな所にあるはずも無い口が一滴の血もこぼさずに半開きのまま
です。相手も唖然としている様子ですが、僕はもっと・・・言葉に
なりません。
「君、何?  どういう事?」
そいつは少し口を歪めると、
「だから・・君、誰?  頭?  目?  耳?  それとも眉毛?」
「僕は・・僕だけど・・」
僕がそう答えると、そいつは口をへの字にしてしまいました。
  そう、僕って誰?  頭でもないし胴でもないし、ましてや手や足
でもありません。身体全体?  いやいや違います。脳ですか?  否、
心?  脳と心ってどう違うのですか?  多分人に同じ質問されても
ただ「さぁー、何だろうね。」と答えるだけでしょうけれど、自分
の身体の一部にそんな事聞かれると・・何か自分自身の身体が自分
の物でない様な気がしてきて・・うーん。
「君、知らないの?」
知らないの?と言われても、その右腕は僕の物だと思っていました
し、まさか僕がこの身体の一部分だけとも思えませんし。でもパッ
と閃きました。
「大体君のその口は君自身の物なの?」
右腕の筋肉がピッと張ると
「そんな事考えた事も無かった」
そいつは驚いた様に言いました。そして暫くの間お互いに悩みまし
た。僕達って一体何者なのでしょうか?  
  カッカカッカと照りつける太陽の下、うっすらと汗をかき始めた
そいつは言いました。
「君の右腕は君の物じゃないし、僕のこの口も僕の物じゃないと思
う。そうすると自分の物と思っていた他の残りの部分も実は自分の
物ではないかも知れない。そう?」
「うん」
「つまり・・僕達は僕達であって他の何でもない。君が最初に言っ
た通りだよ」
ふむ。僕が最初になんとなく言ったあの通りですか。するとそれを
遮る様に僕の身体の何処からか叫び声が聞こえました。
「おいおいおい!  いい加減暑いんだから日影でも入ろうや」
僕はビックリして尋ねました。
「今の、誰?」
その声の主は言いました。
「さぁ、俺が誰なんてぇのは俺も知らねぇけどよ、周りからは ”気
が短けぇ” だの ”涙脆い” だの言われてるぜ」
それを聞いた僕と右腕のそいつは暫く向き合った後、大声を出して
笑いました。






インディーズバトルマガジン QBOOKS
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。