インディーズバトルマガジン QBOOKS

第7回1000字小説バトル
Entry3

生きる術

作者 : 岡嶋一人
Website : http://www.geocities.co.jp/Hollywood/8616/
文字数 : 934
 別に誰も恨んじゃあいないよ。物心付いたときには既に一人ぼっ
ちだったしね。生きていく術は何となく覚えたね。この土地じゃあ
なくたって、生きては行けると思うよ。特別ここが好きって訳でも
ないしね。ただ他の土地に移ったところで、今とたいして変わると
は思えないし、それに見ず知らずの所へ行って、また一からやり直
すなんて、面倒以外の何物でもないよ。

 ほらいつだったか、隣町から来たってやつがいたじゃないか。な
じめないとか言って、またどこかへ行っちゃったらしいけど、一度
動くと、結局動き続けるようになっちゃうのかもね。逃げなのかね。

 俺は逃げないね。第一、逃げる必要がないもの。そりゃあ、すべ
てにおいて、清廉潔白とは言わないよ。多少は悪いこともしたよ。
でもそれは、生きていくための手段としてやったことだから、俺自
身はそんなに後悔してないし、向こうだって、そういつまでも小さ
いことを覚えちゃあいないと思うよ。

 いやなやつ? いることはいるよ。そんな誰でも彼でも良いやつ
ばかりだなんて、かえって気持ち悪いじゃないか。でもね、近づか
なきゃあ良いのよ。要するに。いやだったら顔を合わせないことだ
ね。知らん顔しとくの。

 ギブアンドテイクだと。冗談じゃあないね。俺はギブアンドギブ
だね。そりゃあね、多少は媚びる事もあるさ。生きてくためのテク
ニックも必要だもの。何でもかんでも、敵対心むき出しにしてちゃ
自分を苦しめるだけだもの。だからって、べったりっていう気には
なれないね。なかにはいるよ。そうやって、ずっとおべっか使って
生きてるやつも。いつも身奇麗にして相手の顔色伺いながら、旨く
取り入ってるやつがさ。俺はいやだね。

 負け惜しみに聞こえるって? まさか、やめてくれよ。俺はね、
もうこういう生き方が身体の芯にまで染み込んじまってるからさ。
誰が何と言おうと変えるつもりはないね。

 寂しくないかって? 今更考えたくもないね。突っ張ってるわけ
じゃないよ。そんなこと考えたってどうにもならないって事だよ。

 おっと、話し込んでて大事なカモを見過ごすとこだった。ほら、
今あそこを通ってるやつ、あいつ。気の良いやつでさ。時々世話に
なってる訳よ。あいつ、なんか持ってるだろ。

 ちょっと、行ってくるわ。

 ニャーオー






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