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第7回1000字小説バトル
Entry37

コアラの電話

作者 : 夜啼き鳥
Website :
文字数 : 992
私がまだプー太郎だった時の話です。
暑いし何もすることがなくてぶらりと近所の公園に行きました。ベ
ンチに、どてーっと、座り込んでいました。なんぴとたりとも、わ
しをどかすことはでけへんで、てなもんです。ユーカリの高い木々
が並び、木漏れ日がチラチラ瞬いて、それはもう至福の時でした。
ふと見ると、人がとうてい届かない枝のところに電話があるのです。
近づいてよく見てみると、最近見かけないジーコジーコのダイヤル
式でした。ご丁寧にモスグリーンのやつです。不思議な光景で見入
ってしまいました。針金かなにかでくくりつけられているようで、
引っ掛かっている風ではありません。誰が何のために……。疑問は
つのるばかりです。オブジェ? 前衛芸術? だとしたら、一体何
を主張しているのだろう。私は暇に任せてとことん考えてみること
にしました。
あ、ユーカリだけに、コアラ? そう言われてみれば、(誰も言っ
てないっつうの)耳と口を当てるところが、コアラの耳に似ていな
いこともない。あるいは、現代の電話はコアラの如きであるという
象徴なのかもしれない。電線で繋がった相手とでないとなにもコミ
ュニケーションをとれない現代人。その道具としての電話。あー嘆
かわしき現代人よ、いずこへ。くーっ、渋いね、あたしって。
ここまでくると私はあぐらをかいて、草むらに座り込み、一人不気
味に笑っているのであった。(誰かが見てたら、さぞや恐かったで
あろう)
いや、もっと単純か? コアラのための電話。(だからきちっと受
話器が置かれているのだ)怠け者のコアラが電話を掛ける。
あのー、二丁目の公園のユーカリだけど、うん、そうそう。ピザを
ね、一人前。サクサク生地で、うん、アンチョビと赤ピーマンを、
そう、いつものように、うん、お願い。左から三番目、間違えない
ように。
私は寝そべり、腹を抱えて笑っている。コアラが片手で木に掴まり、
受話器を耳に当てているところを想像すると、それをおかずに一時
間は笑っていられる。
ふーっ、それにしても暑い。ずいぶん日に焼けちゃったよ、まった
く。なにをバカなことしてんだか。明日から仕事探そーっと。
私は立ち上がり、とぼとぼと家路にむかうのであった。






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