インディーズバトルマガジン QBOOKS

第7回1000字小説バトル
Entry8

かなぶんぶん

作者 : dipsy
Website : http://member.nifty.ne.jp/Colours/
文字数 : 1000
「よしくーん。こっちの木を見てごらんよ!カブトムシのメスがい
るよ!早くおいでったら」

啓太君に呼ばれて良夫君は、眠い目を擦りながら、その木の側へと
ぼりとぼりと近づいて行きました。そして啓太君の指差す昆虫を見
て、飽きれるようにこう言いました。

「啓太君。これはカブトムシのメスじゃないよ。コガネムシ科の昆
虫でかなぶんって言うんだよ。大きさが全然違うでしょう? そん
な事も知らないの?」

すると啓太君は、すごく申し分けなさそうに、こう言いました。

「ごめん…。じゃあこれは捕まえないで良いかな?」
「ああ、いいよ逃がして上げなよ…。」


「ああ、君はあの時のかなぶんか。」
「そうです。思い出して頂けましたか? 私が人間にそのように呼
ばれているとは、もちろん知りませんでしたが、私があの時のかな
ぶん。またの名をかなぶんぶんと申します。」

夏休みの宿題を、いっぱいに広げてある良夫君の勉強机の上には、
自称コガネムシ科のかなぶんぶんが朝の恩返しに遣ってきていたの
でした。

「うん。一応思い出したけどさ、恩返しなんてしなくて良いよ。そ
れよりも僕は、宿題がやりたいんだけど。」

良夫君の返事に驚いたのか、ぶんぶんは頭からニョッキっと飛び出
た、体よりも長い触覚を小刻みに動かしました。

「これはなんて謙虚な方なんでしょう。私はますますあなたの事が
気に入りました。そんな事言わずに、恩返しとして、願いを一つだ
け叶えさせて下さい。」

「そんなのいいってば、あの時の会話を聞いてたでしょう?別に助
けて上げようと思ったんじゃなくてさ、カブトムシじゃなかったか
ら、いらなかっただけなんだよ。まあ僕はカブトムシにも興味はな
いんだけどさ。」

するとぶんぶんは、嬉しさのあまり真っ黒に輝くぬめぬめとした体
で、真っ白なノートの上をかなぶんとは思えない速さで走り回りま
した。

「なんということでしょう!カブトムシにも興味が無いなんて、な
んて素晴らしい心の持ち主でしょう。あなたは全昆虫の味方です。
ぜひとも願いを叶えさせて下さい。この私に!このコガネムシ科の
かなぶんぶんに!」

それを聞いた良夫君は、自称かなぶんぶんにこう言いました。

「あのさ。朝見た時は、まだ暗くてよく見えなくて、君の事をかな
ぶんなんて呼んじゃったけどさ、蛍光燈の下で見る君はかなぶんじ
ゃないよ。」

「え!私がかなぶんではない?では私は一体何者なんでしょう?」
「君は皆の嫌われ者。ごきぶりだよ」
「ドキィ!」






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