インディーズバトルマガジン QBOOKS

第8回1000字小説バトル
Entry7

もみじ君の冒険

作者 : DIPSY
Website : http://member.nifty.ne.jp/Colours/
文字数 : 998
 僕は椛。今までは楓の子だったけど、秋風さんの力を借りて、独
りで飛び立つ事が出来ました。これで僕も一人前です。僕は秋風さ
んと結婚して空中に舞い上がり、母さんを見上げながら
「さようなら」
を告げました。

 秋風さんとの生活はとても楽しく、色々なものを見ました。母さ
んがいたのは大きな公園の中で、近くには大きな池があり、側には
仲間の楓が何十本もいました。あれなら母さんから子供たちが全員
飛び立っても寂しくはないでしょう。
公園から出ると今まで見たことが無い物が見えてきました。
「秋風さんあの四角くて固そうなものはなんですか?」
しかし秋風さんも知らないのか、「ヒューヒュー」言うばかりで教
えてくれませんでした。
「はっはっは。そんな事も知らないのかい?あれはね人間が住んで
る家ってやつだよ」
上の方で声がしたので見てみると、そこには銀杏の子がいました。
「こんにちは銀杏さん。これからどこに行くんですか?」
「俺かい?俺にも分らないんだよ。行先は俺の秋風だけが知ってる
よ」
「ではどこから来たんですか?」
「遠くだよ。遠くの河の土手からやってきた」
それだけ言うと銀杏さんは、急に方向を変えてどこかへ飛んで行っ
てしまいました。
「僕は一体どこに行くんだろう?」

 しばらくすると秋風さんの声が聞こえなくなり、僕の体は真っ逆
さまに回転しながら落ちてしまいました。
「ここはどこだろう?」
辺りを見渡すと一面に芝生が敷き詰められ、後ろには土手が、前に
は大きな河が見えました。そして土手沿いの道と並行して銀杏の樹
が何本も立っていました。
「秋風さんお願いです。僕をあの銀杏の樹の側に連れて行ってもら
えませんか?」
すると「ヒューヒュー」という声と共に、僕の体はコロコロと転が
り、銀杏の樹の根本に運ばれました。
「こんにちは銀杏のお母さん」
「こんにちは椛さん。ここら辺では楓さんを見掛ないからずいぶん
遠くからやって来たんだろう?」
「どうだろう?僕には分らないよ。どこから来たかは秋風だけが知
ってるよ。」
「ふふふ。面白い子だねぇ。私の子供たちにそっくりだよ。どうだ
い、遠くから来たのなら疲れただろう?しばらくここで休んでいき
なさい」
「うん。なんか今日は疲れちゃったよ。しばらくお母さんの下で寝
てもいい?」
「いいよ。好きなだけ寝ていきなさい」

 その日僕は夢を見ました。僕が銀杏のお母さんの下で土さんと結
婚して、土さんと一緒にお母さんの中に入っていく夢です。






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