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第36回1000字小説バトル Entry17

ハワイは本当に近くなった

 僕はABCストアのビニール袋を提げて、午後の成田空港に降り立った。
行きも帰りもおんなじGパンTシャツビーサンのいでたち。
ポケットにはパスポートとタオルと現金を押し込んで。
往きの所持金は3万円ちょっと。
さっきポケットを弄ってみると、1万円ちょっと残っていたから、
2万円も使っていないのは、小学生でもよくわかる。
往復の運賃とホテル代は4万円を切ったお値打ちプライス。
これは行くまえに銀行で振込済み。
それにしてもハワイ旅行もお手軽になったものだ。
その昔、ハワイといやあ、庶民の憧れで、TV番組の花形賞品だったんですよ。
飛行機がまだ神懸りな乗り物で、ジェット機なんてまだ見たこともなく、
プロペラが停止せず無事現地まで辿り着くことができるやら。
それでも爺さん婆さんは死んでも良いからと、冥土の土産にハワイ旅行を、
TV番組宛てにせっせと懸賞葉書を投函したのでございました。
そんな時代はとうの昔。
旅行雑誌で格安旅行をみつけて、
それがたまたま知人のエージェントだったので、
交渉の末さらに負けてもらって、着の身着のまま出発したのが月曜日だった。
それから昨日まで、ビーチに寝転んで本を読んだり、
ハンバーガー屋のおばんを軟派して、家庭料理の夕食をごちそうしてもらったり。
このおばんがとても親切で、ココナッツミルクの何やかや、
やぎのお尻の肉などの地元の料理をたんまりと。
ロビンソン=クルーソーの食い物かと思ったが、
「Goo!」と親指を立てる
There is no comparison.
僕は世渡り上手なお調子者。
お天気の方はあんまり芳しくなく、お日様が出たり入ったり、たまにおもらしをしたりと、
生憎ではあったけど。
それでも、なあんにもしないこの過日、日本語は全く話さないこの数日。
とても贅沢な休日を味わった。
おかげさまで非常識な人間にさらに拍車がかかり、
羽田空港では怪訝な目で見られるはめに。
違法物を持ち込んだわけでもないのだけど、
不精髭の三十男がビニール袋(スーパーでもらえるあれですよ、あれっ)をぶら提げて、
通関しようとしているのですから。
荷物は本当にこれだけ。
トラベルケースもマカデミアのお土産も一切なし。
これじゃあ、検察官も不信に思うはず。
中には濡れた海パンとゴーグルと下着が1セット、お行儀悪く入っているのですから、
中身を問い詰めれれた日にゃ、ちょっと抵抗はしますよね。
近くにお買い物にいくように、気軽にハワイ。

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