インディーズバトルマガジン QBOOKS

第17回1000字小説バトル
Entry19

怪獣啄木

作者 : 蛮人S
Website : http://www.geocities.co.jp/Technopolis/3057/
文字数 : 1000
腕組みて
このごろ思う
大いなる敵の前に躍り出でたや

 すこぶる悲しい日々である。というのも、自分は身長50メート
ルの頭から尻尾まで、闘争本能に満ち満ちた身にもかかわらず、こ
の狭い南の島には、もはや自分に歯向かうような怪獣など一頭もな
かったのである。それでも自分は闘争本能に満ち満ちた身ゆえ戦い
を挑まざるを得ないのであるが、近頃ではどの怪獣もまるで手応え
がなく、そういう悲しい日々なのだ。

南海の孤島の磯の白砂に
われ泣きながら
海老の腕もぐ

戯れに翼竜を背負いて
そのあまり軽きに嘆き
投げて一本

 遺伝子の言に従うならば、こんなとき怪獣は東京に上らねばなら
ない。それはこの身に満ち満ちた帰巣本能というものであり、すな
わちそれは成城という所に待つキャメラであり、魔術師のオヤジさ
んの遺言なのだ。自分は海に泳ぎ出た。

東京に出向きて一人
七八日
暴れなむとて島を出でガオ

 ただいきなり訪れるのも不躾というものであり、しかし自分は手
紙も書けず電話も使えぬ身であるゆえ、通りすがりの漁船なぞ引き
止めて漁師に伝言をお願いする。一人もあれば十分であろう。

おそるべき顔あり口をあけたです
とも生き延びし
人は語るか

 海岸に近づいたのは夕刻近くの事だった。漁師の語りは上手だっ
たらしく、歓迎は盛大であった。自分も歓声をあげてこたえた。

心地よく
我に撃ちつく砲火あれ
それを仕留めて行かむと思う

 目の前をやたら繋がって走り抜けようとする長い箱があったので、
ひょいと覗いて見たら人がいた。妙に可笑しい。

混み合える夕べの電車
掴み上げ
ちぢこまる人を愛しく見ゆ

 東京の町は何もかも珍しく、華やかで、刺激的だ。足を踏み鳴ら
しては気炎を上げる自分の姿は、まさにオノボリさんの風情だろう、
が、そんな事を気にする暇すらない。実に東京という町の通りには、
角ごとに戦車がいて盛んに驚かしてくれるのだ。実に、驚くなどと
いう感情は幾年ぶりのことだろうか!

東京の夜のにぎわいに
まぎれ入り
まぎれ出で来し勇ましき尾

目の前のビルヂングの
かりかりと噛み砕きたき
美しさかな

まれにある
この陽気なる心には
時計塔の鳴るも嬉しき

 ああ楽しかった、何のオチもないが楽しかった、そして自分は海
に戻るのであった。それが怪獣の本能だからである。
 大勢の人が自分を見送っている。
 また、来るぞ!

飄然と都に上りて
飄然と帰りし夜よ
焦げる空

    *

くだらない小説を書きてよろこべる
男憐れなり
初秋の風(啄木)






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