落語とは、落とし話とも呼ばれる一人芸である。そこに見え隠れする人間の業を肯定するもの。知っての通り、酔った客にどんでん返しを咬まし、それを以て話のサゲとする伝統芸能。
おっさんが立っている。いかにもその白い壁面に吸い付くように。その佇まいは、云うまでもなくシャッターを切った本人を信頼しきっている。
女の下着姿は首から上がフレームに収まっていない。この写真は、どこで誰が撮影したものかは定かではない。
この二枚の写真を皮切りに、映像は流れゆく。
箸と茶碗を出囃子に見立て、ワンマンショーが始まる。
神戸の風景と鏡に写った私の顔に『あほ上手』といったテロップが流れ、いざ本番。
第一の演目は、「寿限無」。開口一番とも謂われるこの演目は、長い名前をつけられた子供の話である。そこに一切、寿限無は登場しない。ただ寿限無の周りの人間がオロオロするばかり。当の本人は、部屋に閉じ籠り、出てこない。
長雨の降りしきる中、続いての演目は「奈良の柴漬け」という創作落語。御隠居に飯を食わせてくれと、嘆願にいった喜六が、御隠居との遣り取りの中で、高級キャビアの味を口で表現してくれと申し出る。そこで御隠居の口をついて出た言葉とは?
「今度は熱ぅ~い……」
紅葉が咲きほころぶ中、続いての演目は「愛宕山」。
山登りをして神社にお供えものをしようとする二人の男が、二十両という大金を崖から落としてしまう。するりするりとロープを下ろし、男が二十両を拾いに行く。果たして、この男の運命とは?
「わ、わ、忘れてきた」
熊の鮭取りの映像が流れ、続いて、「雁風呂」。
宿屋で道中師の二人連れが、竹の下に松の葉が落ちている屏風の絵を見る。不思議そうに見ていると、そこへやって来た別の二人連れ。この屏風の絵解きを始める。将軍様に借金があった時代の話。
「あ~れ~金たまどこへやったかなぁ?」
渡り鳥が湖の上を飛びながら、最後の演目は「木乃伊取り」。
女郎屋に通い、帰ってこなくなった若旦那を連れ戻すために次々と店の者が、そこに足を運ぶ。定吉が行き、番頭が行き、女将が行き、最後は婆さんまでもがしゃしゃり出る。最後に待っていた結末やいかに!?
「シューッと布団をめくりますというとぉ~ぉ、旦那も雪駄履いて寝とりました」
アパートの映像が映り、桜の木の枝が映し出された頃に、映し出された人物こそ、名前こそ明かせないが、名こそ流れて名を聞こえけれ。