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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage3
第21回バトル 作品

参加作品一覧

(2011年 4月)
文字数
1
小笠原寿夫
1000
2
(本作品は掲載を終了しました)
ウーティスさん
3
石川順一
1021
4
重宗 三郎
1000
5
ごんぱち
1000

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自信家AV女優
小笠原寿夫

「揉みたければ揉みなさい」
やかんの湯が沸点を通り越した頃、大きな目をした黒髪の女優が、そう言い放つと金の玉を三本の指で触り始めた。牛乳を飲み干しみるみる勃起してゆく私の股間は、赤く腫れ上がり大きな木の棒になっていった。
「足を拡げましょうか?」
どちらともなく、そう言うと、見事な裸体が二人を交錯し始めた。示唆するものは何もなく、それだけが私を冷まし続けた。寧ろ、醒まし続けた。
「いいわね、私の言う通りにするの。もっと下。そうよ、そこがクリトリス。覚えたわね」
グリングロスで磨く私と、スパラで吸う女優。国会議事堂前で屯座する若者たちには、何のことだかさっぱりわからない。股をまさぐり、父に溺れながら、木の棒になった私の股間は、その穴に吸い込まれてゆく。
 ブラックホールにも似たその穴は、ぎゅうぎゅうと私を締め付け、そうして私をさらに固くした。
 ゼリーと蒟蒻を食べた私は、次に照り焼きチキンバーガーを欲した。
「あぁ、素敵よ」
そんなことを叫ぶ女優を抱き締め、こんなことを思う。
「アカン、ごっつ気持ちエエわ」
前戯を終え、ペッティングを済ませた後、屁を噛まし、ティッシュに手を遣り、コンドームをつける。中に溢れ出すザーメン。それを感じる女優の体。快感が恋へと変わり、やがて、ひとつの宝が出来る。逸物である。
「さぁ、何が食べたい?」
私は、野菜ジュースを欲した。スーパーの袋を重たげに抱えながら、私は、小さな子供のように、それをぶら下げて帰ってきた。
「いい? 私、出来ちゃったみたいなの」
私には、何のことやらさっぱりわからなかったが、私は私の化身となった。
「あなたの息子は、とっても賢い子よ」
訳がわかったようなわからぬ様なまま、私は野菜ジュースを飲んだ。ふらつく足で焼き肉を頬張ると、もう一度、サニーレタスを口に運んだ。その快感が、女優改め女房の快感に似ていると気付き、ふと父を思う。
――私の父もこの思いを持ったのだろうか――
嬉しさを通り越し、幸福の絶頂にまで達した頃に、私は私に萎れていくのが、みるみるうちにわかった。私の今は私の未来。密室に閉じ込められた私は、廊下を通り抜け、階段を降り、母を遠く思う。人間の真の姿が動物と然して変わらぬことを私の体が立証する。卵が先か、それとも鶏が先か。それに対する答えすら、私にとっては、まだ見ぬ境地。目の前で焼き肉を食べる女房を見ながら、私は、鯖の塩焼きを食べたいと思った。
自信家AV女優 小笠原寿夫

(本作品は掲載を終了しました)

会話
石川順一

 ウエンディーが電話を取るとあしながおじさんからだった。
 「至急お金が欲しいんだけど、お・か・ね、マネーね。ゲルト、マネーだよ」
 ふー、これで何度目か。ウエンディーの事をどうやら、OOディー・Oボットと勘違いして居るらしい事は別に腹が立たなかったが、普通あしながおじさんの方がお金くれなきゃね。
 「あのさー分かって居ると思うんだけど、普通、物語ではあしながおじさんの方が正体を隠してお金をくれる事になってるんだけど」
 「分かってる分かってる。でもこの役をやり始めて既にどれだけの月日が過ぎた事か、好い加減あきてきちゃって、て言うか実はそれは口実で、ただ単にお金が無いだけで。分かって下さい」
 と言ったかと思うとあしながおじさんは「涙で文字がにじんだなら分かって~~~下さい」と歌謡曲を歌い始めた。
 「困ったなあ、今父も母も出払って居ないんですよ。また後でかけて欲しい所ですが・・・・」
 「うーむ、ふむ、誰も居ない。君の後援者諸君が誰も居ないとは、こっちの方こそ困った」
 「あのーところで私の名前はウエンディーなんですけど。あのーつまりOOディー・Oボットでは無くてですね、実に単純な事実の問題だと思うんですけどあなたはつまり、そのー」
 「君はこの忙しい時に私にOOやOに入る文字を答えろと言うのかね、全く何で伏字にするのだ?恥ずかしい名前かね」
 「いえいえ、そういう問題では無くてですね、伏字にしたのは少し不味かったかも知れませんが、それはあなたがまさかそんな基本的な事も知らずとはとても思えず、勢い遠慮気味になって仕舞いまして、もし御承知であれば、こんな分かり切った事、何か失礼にあたる事もあろうかと思いまして」
 「そう言う君の方こそOOンディーだ。どうせO-ターOンとか言う物語のヒロイン気分なんだろう。私はそんな事に附き合っている暇は無いのだ」
 「あらあなたの方こそOOながOOさん中の主人公きどりでなくて?おまけに自分の都合のよい方に設定まで変えて」
 「分かりました。もう頼みません。私の頼みをあなたは伏字で返した。かくなる上はもう頼みません。ですがあなたはO-ターOンに出演できなくなりますよ。よござんすか」
 「よござんす、とは言えません。ですが何時の日かあなたにも栄光の時が来ますように陰ながら願って居ますわ」
 「ふん、願うぐらいネコでも出来るわ。しかし実現しないと意味が無いのです。あなたもしかとその意味を噛み締めて下さい」
会話 石川順一

佐藤夫妻の休日
重宗 三郎

 革靴に左足を入れた瞬間、違和感があったが、遅かった。親指に痛みを覚える。
 緊張が光の如く体を駆け巡るのを龍平は感じた。全身の筋肉が一気に硬くなり、肌は僅かな空気の流れさえも捉えようと敏感になった。目は足元を向いているが、聴覚と嗅覚が、ずっと遠くの様子も探ろうと働き出す。
 背後に人の気配と、自分にそそがれる視線を、はっきりと感じた。殺意も敵意も無い。ただ、龍平の様子をじっと観察している。指先の微かな震えも制限するように、その視線は龍平の全身に絡み、まとわりついた。硬直する。
 やがて、大きく息を吐き出す。緊張に代わり、疲れが体を襲った。視線を無視し、左側の革靴に手を突っ込み、入っていた画鋲を取り出す。シンプルな画鋲だ。金色をした、頭が平たい一般的な画鋲だった。
 何の感心も示さず、龍平は画鋲を靴箱の上に置いた。そして、さっさと靴を履き、家を飛び出した。駅を目指す。行動に数秒のずれが生じてしまった。苛立ちを抑えられず、龍平は舌打ちをした。

 夕方、帰宅すると妻の百合子が仁王立ちで待ち構えていた。表情が厳しい。原因は安易に予想できた。今朝のことだ。しかし、咎めたいのは龍平も同じだった。睨み返す。
「あなた」
 口火を切ったのは百合子だった。厳しい口調で龍平を非難する。
「もしあの画鋲に毒が塗られていたら、あなた、もう死んでいるわよ」
「百合子」
 続く小言を避けるため、手で制す。
「ああいう不意打ちは止めてくれ。俺達は今、平穏な生活を送っているんだ」
「甘えたことは言わないで」
 龍平の暢気な言葉に、百合子は怒りを表した。
「確かに、今は休職中よ。でも、いつ何に巻き込まれるか、分からないでしょう。あなたも私も。常に気を張っているべきだわ」
「分かっている。お前の考えも理解しているよ」
 深い溜息をつく。百合子は間違っていない。気の緩みは、龍平の命だけでなく、世界の平和を脅かす事態を招く。決して油断してはいけないのだ。
「今朝は確かに俺が油断していた。気を付けよう。ただな」
 二階に目を遣る。静かで、起きている気配はない。
「瞬には見られないよう、注意するんだ」
「まだ赤ん坊よ。分かっていないわ」
「覚えていて、大きくなってから真似されたらどうするんだ。悪質な悪戯になってしまう」
「分かったわ。気を付ける。だからあなたも気を緩めちゃ駄目よ」
「ああ、分かった」

 佐藤龍平と佐藤百合子。二人はベテランのスパイだった。
佐藤夫妻の休日 重宗 三郎

健康万歳
ごんぱち

「よっしゃー、昼休みだー」
 モニタの前に座っていた蒲田雅弘が、大きく伸びをしてから立ち上がる。
「四谷、飯行こうぜ」
「オレは今日はコレだ」
 隣の席の四谷京作は、机の引き出しからランチジャーを出す。
「珍しいな。んじゃ、ホモ弁にすっか。買いに行くの付き合え」
「おう」

 オフィスに戻って来た四谷と蒲田は、改めて席に戻る。
「喰うかー」
 蒲田は特製海苔弁の蓋を開ける。海苔と鮭の香りが、湯気と共にふわりと漂った。
「いただきまーす」
 四谷はランチジャーから、ケースを三つ出し、蓋を取る。
 ご飯、おかずと味噌汁。湯気が僅かに立っている。
「なんだそれ、四谷?」
 四谷の弁当を覗き込んで、蒲田は訝しげな顔をする。
「ふふふん、最近健康に気をつけててな」
 四谷は自慢気に笑い、蒲田におかずのケースを突き付ける。
「黒いものは身体に良い、もはやこれは常識!」
 ひじきの煮物、黒豆、塩昆布、ナスの黒ごま和え、イカスミスパゲッティ。ご飯は、黒米にごはんですよがぬりたくられている。
「徹底してるなあ」
「これでオレも健康になれる! 健康王に、オレは、なる!」
 四谷はスパゲッティをすする。
「どんな王だ……あ、でも」
 蒲田は鮭をかじる。
「なんだ」
 四谷の舌は既に黒く染まっている。
「その味噌汁は違うんだな? イカスミでも入れれば、黒くなったんじゃね?」
 蒲田の言う通り、味噌汁はワカメと油揚げと豆腐が見えるだけで、味噌の色も明るい黄土色をしている。
「いや、この味噌汁も、どうやら黒って事らしい」
 四谷はご飯を頬張る。
「らしい?」
「うむ」
 味噌汁のケースを手に取る。
「あのな、昨日、家に帰ったら、机の引き出しから何か知らんけど、いきなり青狸みたいなのが出て来たんだ。不吉な予言をしたり、餅を勝手に喰ったり何たりしてたんだけど、これが色々あって味噌をくれたんだ」
「青狸……?」
「なんでも黒味噌とかいうらしい。良さそうだろ?」
「青狸……黒味噌、黒……?」
「市販のパックじゃなくてカメに入ってるし、多分、かなりの高級品だぜ! タダで高級な味噌をくれるなんて本当立派な青狸がいたもんだなぁ! ウフフフフ!」
「味噌……黒」
 蒲田が考え込む間に、四谷は味噌汁に口を付けようとする。
「黒、黒味噌、くろみそ、くろ、くろ……青狸……くろう、くろうみそ……未来技術のくろうみそ……くろうみそテクノロジー、くろみそテクニック……喰うな、四谷ぁあああああああ!!」