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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage3
第23回バトル 作品

参加作品一覧

(2011年 6月)
文字数
1
(本作品は掲載を終了しました)
ウーティスさん
2
ごんぱち
1000
3
小笠原寿夫
1001
4
石川順一
1020
5
果物
704

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(本作品は掲載を終了しました)

パンなぞリターンズ
ごんぱち

「トシくん、なぞなぞね! パンはパンでも食べられないパンって、なーんだ!」
「うーんと……わかった、ノリちゃん! ジーパンだ!」
「正解! それじゃあ、ごはんはごはんでも食べられないごはんって、なーんだ!」
「孫悟飯!」
「……ねえねえ、ちょっと。あのさ、なにそれ。おかしくない? ありえなくない? ほんのちょっぴりでも頭使ってみてよ。元々そのキャラ名ってのはさ、父親であるところの悟空っていう名前の一字を取って、しかも意味のある言葉にする事によってギャグマンガ的おかしさを出したもので、既にして食べる方のごはんって意味でごはんなんじゃん。それじゃあダメなの、最初から意味が一緒なの。あんた、それで良いと思ってんの? あんたのそれはさ、最初のパンのなぞなぞで、『パンって名前を付けた犬!』とか『パンって名前の付いた本』とか言うのと同じなの。答えじゃないの。意味がないの。NGワードに近いの」
「じゃあ、救護班」
「できるじゃない! できたじゃない、トシくん! できる事をどうして最初からやらないの。注意されてから正しい答えに辿り着くなんて、あんたクレームが来るまで何も正そうとしない外国のホテルか何か? まず自分で考え付く最高の答えを何とかして捻り出してからようやく答える、そういうものでしょう? さもないと、例えばあたしがさっきの答えに呆れてどっか行っちゃったらどうするの? あんたは巻き返しの機会もないまま、あたしはあんたが滑った答えしか言えない男だって思ったままになっちゃうのよ! それでいいの!?」
「うふふっ、だって、ノリちゃん、ぼくの直すのきかないでどっか行っちゃっうなんてこと、ゼッタイないじゃない」
「い、いつまでもそう思わないでってこと! 今まではたまたまどっか行かなかっただけよ、たまたまなんだからね!」
「うんっ」
「おこってんのよ! なにニヤニヤしてんのよ!」
「なーんにもっ」
「なぞなぞあきたわ! 別なのするわよ! 面白いの考えなさい!」
「こまったなぁ、ぼく、ノリちゃんといっしょだと、みんな楽しいよ?」
「ば、ばばっ、ばかじゃない! もういいわよ! すべり台やるわよ! すべり台!」

「おい、四谷。見たか、今の公園、幼児がキャッキャウフフしてたな」
「見たよ、蒲田……ああ、へべれけになるまで飲みてぇなあ! そして何もかもぶち壊してみてぇなぁ」
「へべれけになって暴れられてたまるか。仕事をどうするよ」
パンなぞリターンズ ごんぱち

答え
小笠原寿夫

男は飛びつくようにその話に入ってきた。
「うん。うん。うん。それで? うん」
度々頷く、その姿勢に圧倒されてか、飄々とした男とぽっちゃりした男の二人は彼の方に目を向ける。
「いや、だからその話終わってるって」
二人の内の飄々とした片割れが答える。それから依然として頷くばかりのその男はまるで金縛りにでもあったかのように口を閉ざす。
「ま、大体の事は分かりましたよ」
ぽっちゃりした片割れは、その男に敬語を使って答える。
「つまりこういうことでしょう。あなたの野球勘なるものがもし仮に存在するとして、現にあなたは野球を観ている。それを横目で聞いていて何にも起こらない方が可笑しい。そうおっしゃりたいのでしょう」
口を固く結んだ男が早口で捲し立て、それでも尚、プロ野球の話から別の話を切り出そうとしない二人の男の飄々とした片割れは、その話をジッと聞いている。
「ま、何をおっしゃりたいのかはおおよそ検討がつきますがね」
「そうですか」
と、その男はファミレスのテーブルに目を落とす。
「あっ」
いきなりその男が視線を逸らす。そこにはロールシャッハにも似た模様が染み付いている。
「これ、何に見えますか?」
「シミ」
二人の男は、同時に答える。
「そうでしょう? どんな形をしていようがシミはシミなんですよ。そう、それが答えだ」
犯罪捜査の一貫として、精神鑑定にも使われているロールシャッハ。
ここで、二人はそれを「シミ」としか認識しなかった。そう、それが答えなのだ。動機付け、意思の疎通、言葉の意味の理解力。それらはすべて形から音への日本語を媒体とした変換という単なる記号に過ぎない。
「ならば、私が野球狂だとしても納得がいくでしょう」
男は横柄な態度で身を反らせる。背凭れの長い椅子に吸い付くようにその男の背中は、ふんぞり返っていた。突然、バシッという音が聞こえたかと思うと、ファミレスの音楽は三人の耳から遠ざかった。
騒然とした店内は、もうその一点に集中していた。照明のひとつがフロアに落ちたのである。
「すみません!」
アルバイトと見られる店員が慌てて、フロアに散らかったガラスの破片を掃除し始める。
「気を付けろ。見られている危険性がある」
男はそう述べると、金を置いて、さっさとファミレスを後にした。さらさらとガラスの破片を拾い集める店員を横目にガラス扉が開く。
「そう、それが答えだ」
残された二人の耳にその言葉だけがやけに媚びりついていた。
答え 小笠原寿夫

神の鳥
石川順一

 「で、カルパッチョさん、結局のところ神の鳥は助かるのでしょうか。このさい癌の特効薬とかはどうでもいいですから」
 「ナニ?、どうでもよく無いでしょう。人命ならいざ知らず、ここ、国立鳥獣センターは人類の医学に貢献しない様な案件は初めから却下される事になって居るんですよ。神の鳥だけ特別扱いする訳にはいきません」
 「しかしこの神の鳥は・・・」
 「分かって居ます。あなたの言いたい事は。死んでしまっては癌の特効薬も出来なくなってしまう。癌の特効薬をとる為にも神の鳥を死なせてはいけないではないかとそう言いたいのでしょう。実は神の鳥は死んでも癌の特効薬につながる腸内物質を分泌し続ける性質を持っているのです。これはあまり大きな声では言えませんが、むしろ神の鳥は死んだ後の方が癌の特効薬につながる腸内物質をより多くより良質なものを出すようなのです。あくまで噂ですが。しかしこの噂はただのちまたの噂では無くて、かなり信憑性の高い噂でして。つまり国連癌研究センター動物部門鳥類専従教室が出所なのですよ」
 「それでは神の鳥の命は保証できないと言うのですか。むしろ亡くなったほうが人類に貢献するとでも」
 「そこまでは言って無いでしょう。あくまで癌の特効薬に限った噂です。あなたは何故その鳥が神の鳥と言うか知って居ますか。人類への貢献度が著しく高いからなんですよ。当然癌の特効薬以外にも貢献するのです。ですから癌の特効薬の場合は確かに死んでしまった方が貢献するかもしれませんが、それでは他の貢献領域を駄目にしてしまうからトータルで駄目でしょう。それにたとえ確度の高い噂とは言えあくまで噂なんですから。そんなのに振り回されてほとんど手つかずの素晴らしい領域を駄目にしてどうするんですか。勿論私が癌の特効薬に拘って見せたのは軽い冗談みたいなものです。あなたがたが本気でこの神の鳥を助ける気があるのか試した様な物ですよ。と言うのはこの鳥の掛かって居るゲルググ病は治療者だけが頑張ってもとても治らないのです。あなたがた付添者の協力が不可欠なのです。」
 「しかし我々に何をしろと。私は加持祈祷しか出来ないし。ゴローは車の運転しか出来ないし」
 「あなたがたの社会的身分は関係ありません。しかしあなた方の協力が不可欠なのです。絶対に必要なのです」
 「じらさないで教えてください」
 「分かりました。あなたのこの神の鳥を思う気持ちが本気だと分かったのでお教えしましょう」(続く)
神の鳥 石川順一

果物

 私は朝、庭でトカゲを見つけた。昼にも、見つけた。そして今、また見つけた。
 トカゲは雑草の生い茂る草むらから、こずるく顔を覗かせて私をジトッと見た。その尖った眼差しは、私を釘で刺したように、立ち止まらせた。トカゲの眼球は、潤った表面が煌めいて、天の川のように輪を走らせ、瞳の中には小宇宙が閉じ込められていた。顔の鱗がそれに呼応して、ふるえだしそうであった。私は体が強張った。そうして、トカゲと私の視線は、目に見えない透明な結合をつくりはじめた。空の茜色が庭にただよっていて、時間がよじれた。
 私は瞬きをしていなかった。ふと、気が付くと、私はトカゲの瞳の中にいた。小宇宙のなかにいたのだ。私はちょうど、夜に空を仰ぎ見て、小さな星々を眼の中に落とし入れるようにして、目を凝らした。輝く銀河で出来た天の川が広がっていた。
「ああ、なんて美しいのだ」と私は呟いた。すると「ええ、ええ、そうでしょう。朝、あなたに御会いした時からずっと御見せしたかったのです!」と、トカゲの返事が聞こえた。いや、聞こえたという、表現は可笑しいかもしれない。言葉を聞いたというよりも概念的なもので、ある種のテレパシーじみたものだった。
 私は嬉しいのと同時に、不思議に思った。そして「朝と昼にいたのも、あなただったのですね。嬉しいです。とても心地いいです。」と答えた。もう一度トカゲがやさしく何か言った。しかし、煙のようにすうっと消えてしまって、私には何と言ったのか分からなかった。
「なんですか。なんと、おっしゃいましたか?」と私は言ったが、既に、元の庭に戻っていた。茜色の空に鳩の声が響きはじめた。私の眼にはまだ、天の川が残っていた。