「いつまでたらすこいとんねん!」
その産声と共に、出産した。出生児の体重は500グラム。ペットボトルのジュース一本分の重さである。
「そこ! 人が入れるスペースにして置いて!」
産声の次に、立ち会った父に指示を飛ばした。寝台用のベッドに運ばれる際に、看護師にしたり顔で、
「ええもん見張りましたなぁ。」
と言っては、彼の困り顔を楽しんだ。
「ようは水でっせ。」
哺乳瓶を口に毒づいてはみたものの、看護師は、素知らぬ顔をしているので、もう一度、念を押しておいた。
「194785。これが俺の番号や。」
後に、私の自転車の防犯番号になる数字である。
「ええか。よう覚えや。人間、楽しようと思ってしまった時点から人生下り坂や。苦労して苦労して、行き着いた先に苦労が待っとる。これが人生や。わかるか!?」
空っぽになった哺乳瓶を片手に、ざるうどんを注文したが、無駄骨だった。
「じゃ、手ごねで……。」
ハンバーグを注文したつもりが、アイスコーヒーが出てきたので、激怒した。
0歳の時の記憶である。
「まぁ、お代がお代だけに無茶もよう言わん。」
「す、すみません。すぐに用意させますので。」
看護師は、ようやく口を開いた。こわごわといった感じで、すぐにハンバーグステーキが用意された。
「普通は、ミディアムレアを出してくるもんやけどな。まぁ、許したるわ。おのれが百になるまでこき使ぅたる。」
そう言って、ナイフとナイフを両手に持った。
「フォークわい! そんな遊び心いらんねん。」
「た、大変な失礼をお許しください。」
「も!」
「えっ!? 何でしょうか?」
「も、や! わからんのか。下げろゆうとんねん。相手の意思を汲み取らんかい!」
「お口に合いませんでしたか?」
「下げろ言うとんじゃ! わしが立ち歩きする頃には、この店ぶち壊したんぞ、こらいてまうどボケぇ。」
看護師は、渋々、残ったハンバーグの乗っかった皿を運んで下げて、去って行った。
「わぁ、小っちゃい手。」
「この指が、人差し指。こっちが薬指。で、中指。」
母に向かって、中指を立てると、母は驚く様子も見せずに、手を叩いた。
「わっ、この子喋った! 天才児に育つかもわからんわ。お父さん、喜んで!」
父は、言った。
「黙れガキ。肛門ボコボコにしたろか。調子乗っとったら首の骨へし折ったんど。ファンタグレープがサンシャイン出たくらいで、ええ気になんな。」
そうして、一歳になる誕生日の前々日から、私は、口を聞けなくなった。