ノックの音がした。
「メリークリスマス、サンタクロースじゃ。いや決して怪しい者じゃなくて、その、プレゼントを配ろうと思ったんじゃが、煙突が無いもんで、開けてもらえますかな」
家のドアが勢いよく開かれた。満面の笑みで家族らが叫ぶ。
「サンタ、サンタだ!」
「わあ本物だ。どうぞお入りください」
「……かたじけない!」
サンタも嬉しかった。これがもし星新一の小説なら、泥棒として銃を向けたり向けられたりという展開にもなりかねない導入部である。
「はいプレゼント。はいキミにも。それじゃ来年も良い子にしてるんじゃよ。さらばじゃ」
「ちょっと待って」
父親がサンタの袖を掴んだ。
「まだ子供がいるんで。もっとプレゼントください」
「ああ、赤ちゃんとか」
「いや、本国に十八人ほど」
「はあ?」
サンタでさえ初耳の妙な名前の国に残した愛児について父親は熱弁し、母親はただ微笑んだ。そしてサンタはやむなく定形句を読みあげるのだった。
「プレゼントの対象は同居で生計を共にする無所得のご子息に限定し」
「訳あって部屋から出ないけどFXで大損した32歳の息子がいます。プレゼントを」
「さよなら」
父親はキレた。家族がキレた。
「いいからプレゼント出せ」
「聖人のくせに屁理屈こねるな」
「わあ」
サンタは堪らず家から飛び出した。だが無料の匂いを嗅ぎつけた近隣の貧民たちが続々現れた。
「サンタだあ」
「全員プレゼントだって?」
「とにかく何でも貰え」
サンタは叫ぶ。
「全員とか無理じゃ! プレゼントだって金かかるんじゃ。その予算をどこから」
「金持ちから盗れよ! それでも義賊か」
「誰が泥棒じゃ!」
「結局金持ちの味方か。もう投票せんぞ!」
「サンタだってば!」
サンタはトナカイを呼ぶ通信機を出した。
「こちらサンタ。オーロラ号応答せよ、すぐに来い」
オーロラ号は来なかった。不吉な予感と共に自ら走ったサンタが見たのは、解体され焚火にされたソリと、その上に煮えるトナカイ鍋を囲む住民達の笑顔であった。
「もるすぁ――!」
恐慌の中でサンタは逃げた。泣きながら誓った。愚劣低俗の野蛮人め、関わったワシが悪かった。これからは文化的な上流家庭だけ相手にするわい……
「今晩は、サンタですじゃ。煙突から突然すみません」
「動くな。動くとうつぞ。泥棒だな」
迎えたのは猟銃を構えた父親と息子だった。
「パパ、まず足に一発ぶちこんで、逃げないようにしたほうがいいかもしれないよ」