「あの、すいません」
友人との待ち合わせ場所へ向かう途中、信号待ちをしていると、そう声を掛けられた。
振り向くと、見たことのない大柄の男性だった。
「はい?」私はそう答えた。
「あの、僕、同じ大学の者なんですけど……片瀬さんですよね?」
少し挙動不審気味にその男性が言った。
「あっはい、そうですけど。あの、お名前は?」
「あっ申し遅れました。僕、中田サトシっていいます」
中田など聞いたことがない。
まぁ、大学なんて何百人も学生がいるわけだから当然の事だが。
そうしている間に信号が青になり、私と中田サトシは歩きながら話した。
「あの、僕、前から片瀬さんと色々お話してみたいなーと思ってて、それであの、メールアドレス教えてもらえませんか?」
「あーあの、私急いでるんで、すいません」
「あっすいません。でも、お願いします」
中田サトシに何度も頭を下げられ困惑したが、とにかく急いでいたので諦めて教えることにした。
初対面の男性に教えていいものか迷ったが。
私達はアドレスを交換した。
「はい、どうもありがとうございました。忙しいのにすいません」
そう言って中田サトシは頭を下げ、去って行った。
何の疑いもなく教えてしまったが、よかったのだろうか。
何だかドッと疲れたが、急いで待ち合わせ場所へ向かった。
待ち合わせ場所へ着くと、同じ大学の友人の由香が待ちくたびれた顔をして立っていた。
「ごめんね。ちょっと色々あって」
「えー何かあったの?」
由香が興味津々で聞いてきたので、私は何とか濁して、近くのカフェに入ろうと言った。
私達は窓側の四人掛けの席に座った。
平日の昼間は人が少ない。
私はイチゴパフェを注文し、由香はアイスカフェオレを注文した。
「で、何があったの?」由香が改まって聞いた。
「えっあっえーっと……」
私は先程の一件を話した。
「えぇ~!?」由香の声は店内に響いた。
私は口の前に指を立て、シーッと言った。
「あら~そう……。まぁ、私なら教えないかな」
「えぇ~そうなの!?」
「だってそりゃそうでしょ。初対面の男に教えないよ、普通の女は」
何だか無性に不安にかられた。
「まぁ、教えちゃったものはしょうがないよ。結末がどうなるか、見守ってるよ」
そう言って由香はストローに口をつけた。
恋愛経験も殆どないし、そういう時どうしていいかわからなくて。
気が付くとイチゴパフェのソフトクリームが溶けて流れ出していた。
カフェを出て、由香と別れた。
夜六時を回り、辺りは薄暗くなっていた。
いつものように電車に乗り帰路につく。
この時間帯、車内は空いている。
向かい合わせの四人掛けシートに一人座り、窓に映った自分の顔を眺めた。
先程の由香の言葉を思い出していた。
(結末がどうなるか、見守ってるよ)
その時、カバンの中でケータイのバイブが鳴った。
見ると、中田サトシからだった。
(どうもこんばんは。中田サトシです。突然あんな風に声掛けてしまってすいません。前から片瀬さんと色々話してみたいと思っていたので。あの、ところで片瀬さんは○○は好きですか?)
突然のメールに驚いたが、何故か笑みがこぼれた。
気が付くと、返信キーに指をかけていた。