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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage3
第38回バトル 作品

参加作品一覧

(2012年 9月)
文字数
1
小笠原寿夫
1000
2
早透ひかる
1000
3
石川順一
804
4
ごんぱち
1000
5
深神椥
420

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小笠原寿夫

「読んで欲しい小説があるんだ。」
言うともなく、言ったその背中の物憂げなことは、言うまでもなく、彼の人生すら物語っていた。過去形になってしまうのは、言わずもがな、彼は、ここには、居ないから。

永く永い小説だった。一頁捲るごとに、また、永い一頁が始まる。一文字を読むごとに、涙が滲む。そんな小説だった。

恐らく、彼の筆圧には、幾ばくもない、歴史と生け証人が居たからに他ならない。その小説の名を、

「遺書」

最期の言葉を締めくくる、最期の一頁だけを付記しようと思った。彼は、そこには、いないのだから。而して、彼の居ない世界にも、きっちりと笑いという文化は、存在するのだから。

(前略)
そういったこともあり、所有する財産を貴方に譲る。但し、今回の人生とやらのコントは良く出来ている。生けとし生けるものが、ちゃんと生きているし、死ぬべきものだけが、ちゃんと死んでいる。だから、私は、ここには、居ないのだと思う。朽ち果てるべくして、私は、朽ち果てている。誰が、思い浮かべよう。この老いさばらえの居ない世界に一輪の花が咲いた事に。人生という大舞台に、一人っきりで、咲いたコントに、我々は、あらん限りの遺言状として、この小説ではなく、コントに最期まで情熱を注いだ私を笑いなさい。泣き笑いではなく、更なる笑いの文化発展の為に。只の若手達よ。この大空に、虚構はない。あるのは、見る目を損なった男が、見てしまった、虚像という夢に他ならない。夢を追え。この大空に、太陽が沈まぬその日まで。笑いに長けし者達よ、言え!満月が消えし、その日まで。我が名を、継し者達よ、語れ!この遺書が、忘却の彼方に消え去りし、その日まで。
そして、ありがとう、我が現実と虚構の合間を縫ってくれた、数々のくノ一達へ。
(中略)
あなた方は、今、正に歴史の生け証人となる。野生の王国は、観るも見事、話すも及ばぬ、最高にして、最期の私の遺書となる。去りし日に、あったことを以上書き連ねたが、この世に残ってしまった罪悪と功績を世に刻みつけよ。我が忘れ物を、改めて、取りに行こうと思う。
私の残した最期の屁を、屍に託し、尸を石にしたい場合もあるのかもしれない。愛すべき我々の子孫繁栄と不老長寿の為に。
あの恐ろしき、災害に拠り、このコントが咲いた事を忘れないで欲しい。

二◯一八年八月八日
尺八幸之助

私は、それを読んだか否か、涙ながらに、その遺書とやらをシュレッダーにかけ始めた。
八 小笠原寿夫

イマドキ天使
早透ひかる

 今日は割と涼しい。こんな日は木陰や品の良いカフェテラスでゆっくり過ごすのが気持ち良い。
「見てみて、あんな夫婦になれたらいいと思わない?」
「そうだな、あの歳になっても仲良くカフェでデートか。俺達も長く幸せで居ような」
「ほら、お爺ちゃんがお婆ちゃんのお口を拭ってあげてる。ああ云う何気ない気遣いって微笑ましい」
 樫の木にぶら下がりながらボクは二組を見ている。
『へぇあの若夫婦、あの老人達に感動してるんだ。まぁあれも愛だけど見習わない方が良いよね。実は、って云う裏も良くある。この世の中疑って掛からないとね。いまどき』
「ねぇあなた?」
「お前もいい歳して何してんだよ。わざとクリームつけただろ」
『うわ、じゃれ合いか?新婚、現実直面、倦怠期、そして別れだ』
「だって私もあんな風にしてもらいたいもん」
「わかったよ、ほらこっち向いて」
 男は優しくハンカチで拭う。
 夏の小休止。蝉の声も少し控え目な休日。まるでシャガールの絵画の様な時間が流れる。この人達はなんて幸せなんだろう。そんな嵐の前の人間情景をボクは静かに眺めていた。
『一応本妻さんの方をチェックしとこうかな。あんまりサボってると神様から叱られちゃうし』
 先日ボクにもスマホが支給された。便利になったけど忙しくもなった。やれ誰が浮気した、喧嘩した。イジメだパワハラだ訴訟だ。人は嫌な事に直面すると心が弱くなる。それが原因だけど、これでメシ食ってるのも事実だしな。
『うわっやばい!あの爺さん浮気がバレちゃった?婆さんカンカンになってこっちに向かってる!それに何あれ?手に何か持ってる!光ってる!』
 画面には狂乱鬼婆になった人の恐ろしい姿が映っていた。ボクは迷わず神様アイコンをポチっと押す。
『もしもし神様?天組の白羽です。鬼婆出現。止めます?それともこっちを非難させます?』
【神様……】
『えっ?何言ってるんですかボクは天使ですよ。どちらかと言うと本業……』
【神様…?】
『まぁ最近は死神がめちゃくちゃ忙しく、ボクらは暇で仕方ないですよ。でも役割があると思うんですよ、こればっかりは』
【神様!!】
『えっ、いえ!嫌と云うかただ……ハイやります!二役でも三役でもどこまでも!』
【プチッ】
『はあ、やるって言っちゃった……』
 今の時代、死神は大忙しだってのは分かるけどさ、ボクらまであの黒羽根を付けるのはなぁ……。天使が黒羽根付けて××してたら恐過ぎるでしょ。
 いまどき。
イマドキ天使 早透ひかる

3冠王。
石川順一

「ヒトラーの側近ばっかじゃなかろうか」
 私はこの川柳で川柳大賞を受賞したが、実は私はヒトラーに関する博士論文の審査に通過したばかりの頃であった。昨年度は修士号、今年は博士号とその上川柳大賞まで頂いた。
「この川柳には作者の憎しみはこもって居りません。むしろ軽いまでの蔑視、いや蔑視では無いな、もうはるかに裏返って爽快なぐらいの尊敬の念がこんな表現に転嫁して仕舞った。と私は推測します・・」


「蒲公英で家を造ると子供かな」
 私はこの俳句で俳句大賞を受賞した。実は私の家は花屋もやって居て、アフリカの子供たちにフラワーキャンペーンのいっかんとして蒲公英の種を大量に寄付した事があった。県知事賞は勿論内閣総理大臣賞まで頂いたのだが、その上俳句大賞まで頂いた。
「この俳句には夢があります。実際タンポポで家なんて作れませんよ。でもそんなこと口が裂けたって言ってはいけません。あなたはその瞬間から子供の敵ですよ。実際そう言う子供ほど実際上の判断が優れている場合が多いと高名な児童学者は言って居りました。人間は現実の思考だけでは耐えられないのですな。夢のある子供ほど学力があると言う統計もあるほどです・・」


「シケイダと叫ぶ少年夢の中朝起きれるか不安の中でもある」
 私はこの短歌で短歌大賞を受賞した。実は私は花屋だけでは家計が苦しいので蝉の養殖も内職の様にやっていて、蝉が鳴かない地域に蝉を供給するヴォランティアをやった事があった。おかげで地域貢献大賞を頂いた上に短歌大賞まで頂いた・・
「この短歌、最後の下7が破調で「不安の中でもある」と9文字です。しかしそこに却って不安感を打ち消す効果を持つ事が出来ました・・」


 以上私は川柳俳句短歌と短詩形文学の3冠王を達成した訳だが、詩があるじゃないのと言われた。だが4冠王など邪道だ。何故なら詩はその人の恣意で長短自由自在に描き分けられるので、短詩形文学に入れるのは邪道だと思って居る。
3冠王。 石川順一

月下の死闘
ごんぱち

 半分ほどに欠けた月が、京の都の五条橋を照らす。
 橋の中央に岩が一つ置かれている。
 遠目からはそのように見えたかも知れない。
 僧だった。
 それは正確ではない。
 確かに橋の上に座る男は、頭巾をかぶり衣を身に着けているが、背負った七つの武具は、大の男であってもその一つを振り回す事も難しい大きさで、そのどれもが血の跡が残り錆を噴いている。
 これ程に人を殺め、傷つけ、そして、血走り殺気立った目をした男が、僧である訳がない。
 僧形の男は、ふと、顔を上げる。獣じみた聴覚は、それを如何なる生き物よりも早く捉えた。
 月明かりに僅かに浮かぶ道を、男が一人やって来た。風雅な生まれなのか、月にでも当てられたのか、笛を吹きながら歩き来る。
 僧形の男は立ち上がり、薙刀を構える。
 武術の形ではない。だが、この巨大な薙刀を棒きれのように扱う腕力は常人の力を遙かに超えている。
 それに気付いたのか気付かぬのか。笛も、足も止まらない。
 薙刀の間合いに後、十歩も歩けば入ろうというところまで近付いた時。
「そこの男!」
 僧形の男は怒鳴った。
「腰の物を置いていけ」
 ようやく男の笛が止まった。笛を離した彼の顔は、まだあどけなさの残る少年だった。少年は、僧形の男をじっと見据えて言った。
「知っているか!」
「は?」
「五条橋に刀を奪う荒くれ坊主がいるという噂は京の都中に広まっている! だがお前も、年中起きている訳ではないし、留守の時もある。その為、無事に橋を渡れた者もいる、というか、そもそもそういう時の方が多かったりして、そんな坊主は本当にいるのか、なんて意見も出始めて今やUMA扱いになりつつあるって事を!」
「な、なんだと?」
 UMA扱い、その言葉は少なからず僧形の男を動揺させた。
「それで良いのか? 東スポで『ついにゴジョゴンを死体で発見……か!?』みたいな記事になって、それで満足か!」
 僧形の男の脳裏に、様々な東スポの一面が浮かぶ。
「うぉおおおお! 嫌だ、そんなのは嫌だ!」
「これを払拭するのは、新たな噂しかない!」
 笛の先で少年は僧形の男を指す。
「新たな噂!?」
「ずっと実利的で庶民が興味を持っている事、すなわち!」
 少年はぐっと親指を立てた。
「平家、討とうぜ!」

「これが真相なのだ、吉次殿」
「兵法はともかく、腕っ節で弁慶殿が負けはるのは不自然と思うてましたが、これで腑に落ちましたなぁ」
「……こらこら、そこの東スポ坊主」
月下の死闘 ごんぱち

叙景
深神椥

 この曲を聴くと、涙が出てくる。

 いつもそうだ。
 部屋でひとり、この曲を繰り返し聴いて、切なくなる。

特に、今年はいろいろあったから、なおさらだ。
家族とも、友人とも、仕事でも、自分の中でも……。

歌詞の内容と自分を重ね合わせてるわけじゃないけど、切なくなってしまう。

今年も残り四ヶ月だが、これ以上何も起こらないことを願いながら、この曲を聴く。
いつも以上に、「聴くこと」に身が入る。

でも、その時間、その瞬間て、キライじゃない。
ひとりの時間、ひとりで過ごす時間をとても満喫しているような気がする。


 静かな夜、部屋でひとり、この曲を聴く。
 外からは虫たちの声が重なり合って聞こえる。
 開け放った窓から入ってくる初秋の風がとても心地いい。

 この時間、この瞬間が好きだ。


ふと、窓の外を見た。

満天の星空には、まだ完全に満ちていない月があった。

私は、その月を愛おしむように眺めた。

「この瞬間も似たようなものかも」


そう思うと、夏の終わりがとても寂しく感じた。