今日は割と涼しい。こんな日は木陰や品の良いカフェテラスでゆっくり過ごすのが気持ち良い。
「見てみて、あんな夫婦になれたらいいと思わない?」
「そうだな、あの歳になっても仲良くカフェでデートか。俺達も長く幸せで居ような」
「ほら、お爺ちゃんがお婆ちゃんのお口を拭ってあげてる。ああ云う何気ない気遣いって微笑ましい」
樫の木にぶら下がりながらボクは二組を見ている。
『へぇあの若夫婦、あの老人達に感動してるんだ。まぁあれも愛だけど見習わない方が良いよね。実は、って云う裏も良くある。この世の中疑って掛からないとね。いまどき』
「ねぇあなた?」
「お前もいい歳して何してんだよ。わざとクリームつけただろ」
『うわ、じゃれ合いか?新婚、現実直面、倦怠期、そして別れだ』
「だって私もあんな風にしてもらいたいもん」
「わかったよ、ほらこっち向いて」
男は優しくハンカチで拭う。
夏の小休止。蝉の声も少し控え目な休日。まるでシャガールの絵画の様な時間が流れる。この人達はなんて幸せなんだろう。そんな嵐の前の人間情景をボクは静かに眺めていた。
『一応本妻さんの方をチェックしとこうかな。あんまりサボってると神様から叱られちゃうし』
先日ボクにもスマホが支給された。便利になったけど忙しくもなった。やれ誰が浮気した、喧嘩した。イジメだパワハラだ訴訟だ。人は嫌な事に直面すると心が弱くなる。それが原因だけど、これでメシ食ってるのも事実だしな。
『うわっやばい!あの爺さん浮気がバレちゃった?婆さんカンカンになってこっちに向かってる!それに何あれ?手に何か持ってる!光ってる!』
画面には狂乱鬼婆になった人の恐ろしい姿が映っていた。ボクは迷わず神様アイコンをポチっと押す。
『もしもし神様?天組の白羽です。鬼婆出現。止めます?それともこっちを非難させます?』
【神様……】
『えっ?何言ってるんですかボクは天使ですよ。どちらかと言うと本業……』
【神様…?】
『まぁ最近は死神がめちゃくちゃ忙しく、ボクらは暇で仕方ないですよ。でも役割があると思うんですよ、こればっかりは』
【神様!!】
『えっ、いえ!嫌と云うかただ……ハイやります!二役でも三役でもどこまでも!』
【プチッ】
『はあ、やるって言っちゃった……』
今の時代、死神は大忙しだってのは分かるけどさ、ボクらまであの黒羽根を付けるのはなぁ……。天使が黒羽根付けて××してたら恐過ぎるでしょ。
いまどき。