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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage3
第39回バトル 作品

参加作品一覧

(2012年 10月)
文字数
1
ごんぱち
1000
2
石川順一
467
3
小笠原寿夫
1000
4
アレシア・モード
1000

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ウサギvs
ごんぱち

 ウサギはどんどんどんどん走り続けてから、振り返ります。
 カメの姿はもう見えません。
「どうせ晩まで待っても追い付けやしない、ひと休み……」
 足を止めかけて、ウサギは首を横に振ります。
「いやいや、どれだけ差が付くか思い知らせてやらなけりゃ」
 丘を一つ越えて、ゴールの岬の一本松が間近に見えて来ました。
「カメめ、謀ったな……」
 遠目には岬に見えましたが、一本松が生えていたのは小さな島だったのです。
 ウサギが悔しげに海を眺めていると、ふと、ヒレが水の上に出ているのが見えました。
「おい、ワニくん達!」
 ウサギに呼ばれて何匹かのワニがやって来ます。ワニとはサメのことです。
「どうしたね、ウサギさん」
「きみ達は、自分たちがこの辺りに何匹いるか知っているかい」
「そんな事は考えた事がないし、どうでも良いことだ」
「他の海の話では、勇魚にワニが五〇匹では負けるけれど、五十一匹では勝てたそうだ。数を知っていれば、無駄に血を流す事はなくなるよ」
 ウサギは一本松の島を指さします。
「こっちからあそこの島までずらりと並んでくれれば、ぼくが数えてあげるよ」
「それは名案だ」
 ワニたちは島までずらりと並んで頭を水面から出しました。
「行くよ! 一、二、三……」
 ウサギはワニの頭を足場に、ぴょんぴょん進んで行きます。
「九十八、九十九……」
 そして最後の一匹のところで。
「ははっ、勇魚に勝てる数なんてデタラメだ。ぼくが島に渡りたかっただけさ」
 ウサギはうっかり口を滑らせてしまいました。
「よくも騙したな!」
 百匹目のワニは怒って跳ねます。海に落ちたウサギにワニたちが群がりました。

「痛っ!」
 ワニがくわえていたのは、カメでした。硬い甲羅に、歯が折れています。
「離れろカメよ! こいつは我らを騙した、食い千切ってやる」
「こっちは勝負の真っ最中だ」
 カメはウサギを背に載せ、手足を引っ込めると高速回転し始めました。ものすごい勢いで、空へと舞い上がり、一本松の島へ降り立ちました。
 ウサギはカメの背から降ります。
「何故、ぼくを助けた?」
「お前は海を前に地団駄を踏んでりゃ良かったんだ」
 カメはふりかえってにやりと笑います。
「今度はお前にコースを決めさせてやる。どんなルートでも勝ってやるがな」
「ぬかせ」
 海に落ちる夕日を眺めながら、ふたりは大声で笑いました。
 対岸の浜では、大国主命が興を削がれた顔でウサギとカメを眺めていましたとさ。
ウサギvs ごんぱち

私の句想
石川順一

ナイターの前後は書店で立ち読みす

ナイターは比較的新しい季語らしい。水原秋桜子に「ナイター」を季語にした著名な句が有った筈だが。

ナイターの光芒大河へだてけり
ナイターのいみじき奇蹟現じけり
ナイターのここが勝負や火喰鳥
ナイターの勝ちぬ負けぬと酷暑過ぐ 以上水原秋桜子

私は今年の5月に新聞に小説を投稿して居たのも思い出した。マタイ福音書第5章第38節39節の山上の教えに基づいた小説だ。「右の頬を打たれたら左の頬も出しなさい」の教えで中々理解し難い教えだと思ったのを覚えて居る。

喫茶店で紅茶を頼むと白いティーポットに入って出て来る。ティーカップに濾過装置を通して注ぐと濾過装置には紅茶の葉の残骸がちょっぴり残る。そしてカップ二杯分ぐらいはポットに入ってやって来る。しかし2回目訪れた時には一杯プラス半杯分ぐらいしか無かった。遺憾な事だ。少し私のワールドが揺らぐ。
紅茶減り莢豌豆を収穫す

葉桜は大きな傘に変りけり

スーパーのアルバイトの帰りであった。少雨に見舞われ難儀した。しかし桜通りに差し掛かると体に浴びる水が少なくなった。初夏の頃であった。
私の句想 石川順一

わらしべ長者
小笠原寿夫

道のり、速さ、時間。

小学校一年生で習う概念である。この数式に凡ての金の要素が含まれる。

「ジパングには、それはそれは黄金の建物が、建っているらしいぞ。」
スペイン人のマルコポーロは、それを聞いて、いざ、ジパングに向かった。東方見聞録を書いたのは、それから、ずっと後のこと。

シルクロードを抜け、モンゴルの遊牧民族を見て、船でジパングへと渡った。

「木造の家や、茅葺き屋根ばかりで、一向に黄金の建物が、見えないじゃないか!?どうなっているんだ。」

これが、十四世紀前半の事だと言われている。足利義満が、金閣寺を建立する、少し前のことだったらしい。

「私、マルコポーロと申しますが、この辺りに、金の建物は、ございませんか。」
村人は、言う。
「馬鹿言っちゃあいかん。金の建物は、都に建てられるってぇ話だ。こっから歩くのは無茶だ。やめとけ。」
それでも、彼は諦めなかった。
「やめとけ。やめとけ。ここは、種子島じゃ。歩いていける道のりじゃあねぇ。」
やはり、彼は、諦めなかった。
「その足で行くと、まず、足の方が駄目になる。無茶はお良しよ、旅人さん。」
まだまだ彼は、諦めなかった。
「そこまで踏ん張るんなら、仕方が無い。教えてやろう。この度、将軍様が、都に金箔を貼ったお屋敷を作るそうじゃ。何でも茶室にするそうよ。歩いていくには、暇がかかるが、金を使えば、籠に乗っけて連れてってくれる人が、あるかもしれない。気をつけて行くんだよ。」
マルコポーロの顔が、少し綻んだ。彼は、自分の財布を覗いた。金貨が一枚と銀貨が二枚。
「これじゃあ、何処へも行けない。」
とぼとぼと、歩いて行くと、わらしべを持った男が歩いている。
「なあ、あんさん、このわらしべ、何かと交換してくれねぇかい。持ってるものなら何でもいい。」
わらしべには、虻が、付いて飛んでいる。いかにも面白そうなおもちゃに、思えてきた。

「やあ」
彼に、日本語は通じなかった。
「わかった。じゃあ、その金貨と変えてくんろ。」
わらしべ長者は、ごり押しで、金貨を手に入れた。
「やあぱん、いず、べりー、いんぽしぶる!」
エクセレントなアンサーが、ベリーハッピーにシャウトした。
果たして、わらしべ長者は、悠々自適な生活をし、マルコポーロは、泣きながら、ジパングを後にした。

東方見聞録。
「ジパングで、私が見たもの。それは、それは、見事な算盤だった。敢えて、註釈をすれば、それは、黄金の国である、と付記しよう。」
わらしべ長者 小笠原寿夫

願い星
アレシア・モード

 宵闇の空が高かった。
 私――アレシアは公園のベンチで、深く蒼ざめた天の星をぼんやり仰いでいた。人生には時々こんな場面がある。私は一人、数日前の記憶を辿っていた。はい、回想シーン。


『皆さん、今日は大切なお知らせがあります』
『当店は本日を以て閉店です。で、パートの人、』
『今月の給料は支払います。日割だけど』
『じゃ、解散』


 まとめれば僅か三行半の空しさよ。私は煙草に火を点けた。煙の昇る先にも星がある。見上げてごらん、夜の星を。
 心が弱れば、ささやかな幸せも大仰に感じ取れるようになっちまう。天は誰もに平等だ。貧者にも差別なく太陽は背を暖め、月は足下を照らし、星座はフリーで物語を綴る。そんな僅かな幸せが心の糧だとかなっちまう。財布の糧にはならん……

「……お嬢さん」
 背後から知らない男の声がして、私は振り返る。よぼよぼした爺ちゃんだった。皺の中に笑顔がある。割合まともなスーツを緩く着ていた。
「隣に座っていいかな」
 と言いつつ既によっこらしょと腰掛けている。私は特に異を唱えなかった。
「宇宙は、いい」
 爺ちゃんは私の気持ちを引き継ぐように言った。
「自由広大、無限の可能性。ああ行ってみたいと思わんか」
「そうね」
 気付くと、爺ちゃんは真っ直ぐ私の目を見つめていた。何だこの人。いい年して私を口説くつもりか。実はお金持ちで私を愛人にとか考えてるのか。死んだら財産相続とか浅ましい妄想をしてるのか。
「……儂と契約せんか」
 えっ?
「儂と契約して宇宙船になろう」
 いや、言葉、変だし。
「あのぉ、宇宙飛行士のスカウトですかねぇ」
「そんな感じ」
 いや、あの。
「冗談では、ない」
 爺ちゃんは私の手をいきなり握った。


(刹那、未知のイメージが私の全身に満ちる。テレパシー。宇宙、百万光年の空間、惑星ティモヵの都市を離陸した宇宙船は生体構造。様々な星から集合した様々な生命自身を部品として構成する巨大生体宇宙船が、緩慢なる航行の果てに発見した地球、冥王星基地を設営し遂にこの惑星へ上陸、っていきなり船が故障。基地に帰還し補修する為、互換部品を調達すべく地球生命調査を……って、私をエンジンにするっての?」
「むウ、無茶な話の飛躍への順応性、さすが調査通り。二年、いや一年間でいいかラさ! 宇宙船手伝ってヨ! さっき宇宙OKしたヨね、ね!」
 突然オレンジ色の光が私を包んだ。いざとなったら強引な手口かい。

 ま、それでもいいか。