お呼びでしょうか、大統領。
さあ、ただいま、そちらへ上がりましょう。
ご無沙汰ですね、大統領。今夜は一体、何をお確かめになりたいと?
勇ましいあなたが私を呼べば、決まってそれは流血の前夜となりましたね。唇に、硝煙と逡巡の匂いを含んで。
あなたの御一族……お父様、お祖父様も、勇猛果敢な方だったとか。北アフリカの戦線では、自慢の彼女に跨って、豹を、虎をと撃ち倒し……なんて、嘘とは申しません。さて、今夜あなたのシャーマンに、発射スイッチは見つかりましょうか。そう、よくお探しなさい。よくお探しになって……。
残った夜は少ないですが。
あなたにとって私は戦いの女神でしょうか……それとも懺悔の神なのでしょうか。
いいえ、そもいまや、一体なにが、私に映ると仰るのでしょうか。
熱く濃密となった夜空では、マルスの炎も揺らいで見えます。いまや私のドームを巡り、十二の宮で囁く影は、古き神の姿にあらず……不死者となった六十六のイリジウム。機械の密告者たち。または雷光の火筒を構えた衛士たち。斥候、伝令、触れ回り……おや、予言者まで。
これが今の、私の星図(チャート)。そして、あなたの星図。
あなたの描いた、これが世界の星図なのですよ。
いまさらに、何の解釈の加わる余地の御座いましょうか?
いいえ……そうでもないかもしれません。
あなたはまだ、ご存知ではないでしょう。巡る天体たちの中心の、陰鬱な私のドームの中央の、玉座に脈打ち始めた影を。
重く、暗く、そして小さな芥子粒の核、膨張し始めたメランコリーの、その託宣を。
言いますまい。言いますまい。ただ紛れもない、これが私の、あなたの、そして世界の……未来なのですと。
今ここにある、未来、未来、……未来!
あなたはまだ、ご存知でない。大統領。
さあ、じきに夜も明けましょう。闇は消え、新しい日は昇りましょう。
お望みの答えは、私に見つかりましたでしょうか。
さて勇ましき大統領。今度はマイクの筒を握り、力強く、天高く、その咆吼をお上げなさい。その持てる力によって存分に、今度は世界を揺さぶるがよろしいでしょう。火をつけ、燃やし、蹂躙なさいませ。いつもの、いつものように……。
世界はきっと、それを待っておりましょう。
私たちの、朝は来るのです。大統領。
今日はこれにて、下がりとう存じます。またお呼びいただければ幸いです。
あなたに栄光と繁栄のあらん事を。