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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage3
第42回バトル 作品

参加作品一覧

(2013年 1月)
文字数
1
小笠原寿夫
1000
2
香月
1000
3
ごんぱち
1000
4
深神椥
941

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自殺撲滅キャンペーン
小笠原寿夫

「あぁ、消えちまいたいなぁ。」
その男は、部屋で一人、そう呟きました。その時、一筋の光が、カーテンの切れ間から、差し込んだかと思うと、女神さまが舞い降りられました。
「安心してください。私は、あなたの味方です。」
女神さまは、お告げを述べられました。
「あなたの命は、あなただけのものじゃない。」
「そんな事、言ったって、生きてても、いい事ねぇし、このまま、一層の事……。」
「マァマァ、お待ちなさい。危ない!と思ったら、すぐここへ電話しなさい。」
女神さまは、その男に、一枚の紙切れを、差し伸べられました。
いのちの電話06-◯◯◯◯-◯◯◯◯
「よろしいですか?どんな事があっても、負けない信心が大切なのですよ。」
「だけどなぁ、会社だって、経営破綻ギリギリだし、僕だって、いつリストラに遭ってもおかしくないのに、人生なんて、投げ捨てちまいたいよ。」
その時、もう一筋、光が差し込みました。
「甘いで。」
ガネーシャでした。
「お前が思てる以上に、人生は甘ない。人生を見くびるな。お前が死んでも誰も得せーへんねん。」
「え?何ですか、コレ。どーゆうことですか?僕のアパートに、神様が二人。しかも、ギリシャとインドから。」
その時、さらに一筋の光が差し込みました。
「汝、右の頬を張られれば、即、左の頬を差し出し給え。」
キリストでした。その時、光が、これでもかと言わんばかりに差し込みました。
釈尊でした。
「あなたの心の中にも、仏は存在するのですよ。」
「え?え?何ですか?神様や仏様が。しかも、こんなにも沢山。」
ワンルームのアパートに、我先にと、神仏たちが、押し寄せました。
「商売繁盛で、家、家持って来い!」
「山の神は、全てを持っているのだぞ。」
「天を仰ぐ事が、何よりの信心だと思いなさい。」
ここまで来ると、男は、もう自殺なんて、関係がなくなっていました。神仏たちは、鍋を囲み、ワンルームのアパートでどんちゃん騒ぎを始め出されました。
ここで、ガネーシャが、声を張り上げられました。
「縁も丈縄となって参りましたが、ここら辺で、幹事に締めの挨拶をお願い致します!」
「締めて!早く締めて!」
弁天さまから、その男に、いきなり、マイクが手渡されました。
「えっ?あっ、あ、あの、皆様、お疲れ様でした。二次会は、カラオケとなっておりますので、足元、靴の履き間違い、体調管理には、お気をつけください。」

男は、次の日から、心を改め、仕事に臨んだといいます。
自殺撲滅キャンペーン 小笠原寿夫

プライドだけは社会人
香月

 靴下を二枚重ねてきたというのに、指先はかじかんでいる。冷たい板張りの床に、何枚ビニールを重ねたって大した意味はない。結局世の中は、なんでもかんでも恰好つけで出来ている。


「お手洗い行ってきます」


私の一歩いっぽに合わせて、ぺたんぺたんと音が響く。なんだか気恥ずかしくて、かじかんだ指先に必死で力を込め、スリッパよ・ひっつけひっつけと念じる。立体マスクで顔を隠し、お母さんから借りたダウンに背中にはホッカイロ。さながら受験生スタイルの私は猫背で廊下に出る。

廊下の突き当たりにあるトイレ。中には個室が二つ、今の時代にまだ和式かよと一人舌打ちをする。トイレという守られた私だけの世界、そこで一息付きたかっただけなのに、ここは座ることすら許してくれない。
かわりに私は、奥二重の瞳だけでた顔を鏡で確認する。今日も私はお父さん似です、残念ながら。
向かい合ったガラスと蛇口の低さが、ここが懐かしき学び舎だったことを思い出させる。

短い廊下。昔は端から端までとても長く感じて、全力疾走レーンだった。ダメと言われたからか、走ると怒られるからか、とにかくいつでも走りぬけていた。
ねえ先生。心の中で呟いてみたけれど、私には記憶に残る先生なんて居ない。ドラマの見すぎ、マンガの読みすぎ、それでも感傷に浸る権利ぐらい私にだってあるはずだ。


リレーの選手だった遥ちゃん、中学では写真部に入ったみたい。
ジャニーズ入るって言ってた達也は、今ラーメン屋のバイト。
おとなしかった南ちゃん、でき婚で二児の母って噂。

私はね、先生。とりあえず無難な大学出たよ。


「すいません、戻りました」


ならないように、すり足で持ち場へ戻る。勢いよく腰かけたパイプイスが、苦しそうな声をあげた。そんなこと関係ない、お前にはちゃんと役割があるじゃないか、ちきしょう。ぐいぐいと深く座り直し、二度余計になかしてやった。

右から左へと、まばらに流れる人々。おじさん、おじさん、おばさん、おじいさん、おばさん。
おばさんの後ろに、若い女の子。少し緊張しているような、戸惑いのような顔で私から紙を受けとる。前のおばさんはきっと母親なのだろう、一緒に進んでいく。

あの子はまだ夢見てるんだ。全員に与えられる幸福の量は平等だと思っている。金持ちも貧乏人も、若者も老人も、被災者も官僚も。
自分の力でもなにか変わるって。



「どうせ学会のやつらに勝てないよ」



いつも結局そう。
明日職安行きなきゃ。
プライドだけは社会人 香月

ごんぱち

 医師が処置室から出て来た。
 廊下の待合い椅子に座っていた若い夫婦は、うなだれたままだった。
 涙も枯れ果て、と表現するに相応しい、哀しみよりむしろ脱力した表情をしている。
「最後のお別れを、なさいますか?」
 医師が尋ねる。
 無言で夫婦は首を振った。
「お気落としなく」
 医師は膝を曲げて座ったままの夫と視線を合わせる。
「息子さんは幾千もの人の中で生きるのです。あなたの目や、奥様の肝臓のように」
 医師の言葉は慰めではなく、また、何かしらの反応を期待している風でもなかった。事実を事実のまま伝達し、合意を得る。インフォームド・コンセント。日常の業務の一つ。
 それは目の前の不幸がこの夫婦のみに降りかかったものではなく、多くの人々にも訪れ、そして克服されていった事の確固たる証明。システマティックな優しさとも言えた。
「――先生」
 立ち去ろうとする医師に、夫はぽつりと呟いた。
「やっぱり、見せて下さい」
「孝典さん?」
 妻が僅かに頭を上げ、夫を見つめる。
「僕は親として、見届ける義務がある、そう思うんです」
 夫の声には意思の力がこもっていた。
 医師は立ち止まり、一呼吸の間を開けてから、振り向いた。動揺を整理し終えた、やや固い笑みだった。
「そうして差し上げて下さい」
 医師は踵を返し、処置室の扉に手をかける。
 そして、ゆっくりと開いた。
 手術室と変わらない部屋には、洗浄済みの手術台があり、その上には小さな箱が置かれていた。
 弁当箱程の、小さな箱で、傍らに封印のシールがまだ台紙に付いたままで置かれている。
 夫は妻の肩を抱いたまま、箱の前に立つ。
 医師は、箱の蓋をゆっくりと取った。
 妻は夫の肩に顔をうずめ、夫は目を逸らしそうになりながらも見つめる。
 そこにあるのは、一塊の血にまみれた引き千切られたような肉片。
「これが……」
 夫の呟きに、医師が頷く。
「これが!」
 夫が振り上げた腕を、医師は押さえる。
「落ち着いて下さい。息子さんの亡骸に何をなさるんです」
「離してくれ!」
「死体損壊は罪になります! お止めなさい!」
 片付けをしていた看護師も、夫の腕を押さえる。
「落ち着いて下さい」
 医師は夫の肩に手を置く。
「癌細胞は、法的に移植用として使わずに葬る事を許された数少ない部位です。棺の中身があってお別れ出来るのは、本当に幸せな事なのですよ。さあ」
 温かな笑みを浮かべ、医師は夫婦に微笑んだ。
「触れてあげて下さい」
棺 ごんぱち

人の不幸はなんの味?
深神椥

「修羅場にはくれぐれも気を付けてね」
六年間不倫をしている友人のリカに送ったメールの一文だ。
それから三ヶ月後、リカと連絡が取れなくなった。

電話もメールもつながらない。
いつもはくるアドレス変更の連絡もない。
同じく友人であるサキにもメールしてみたが、何年も連絡を取っていないと返信がきた。

一体どこで何をしているのか。
相手の奥さんにバレて、本当に一悶着でもあったのだろうか。
不倫なんてやめなよと、もっと念を押しておけばよかった。
しかしよく六年間もバレなかったと思う。

 不倫なんてものは、恋愛経験の殆んどない私にとっては遠い世界のことだ。
リカとは大学時代からの友人で、当時から男性がらみで色々あり、これまた私とは縁のない世界の話を沢山聞かされた。
そういう話を聞く度、何故か少しワクワクした。
今思えば、リカも私も若気の至りだったのかもしれない。
おっと、頭の中で脱線してしまった。
連絡を取る方法を考えなければ。

 リカとは大学を卒業してからは年に数回連絡を取る程度だが、私にとっては大切な友人だ。
何か連絡を取る方法はないものか。
実家の連絡先は知っているが、わざわざ実家に連絡を取るのもどうかと思うし。
向こうから連絡がくるのを待つしかないのか……。

リカは大学卒業後、職を転々とし、その後上京した。
何度も、いつかは会おうとメールを交わしたが、お互いにかなり離れた所にいるため、実現できないでいた。

どこでどう、その相手と不倫関係に陥ったのかはわからないが、都会ってものはそうさせる何かがあるのだろうか……。
田舎者の私には多分一生わからないだろうが。

そういえば。
ふと思い出した。
リカが大学時代に付き合っていた人と今でも連絡を取り合っていると言っていた。
その人は今は美容室を経営しているらしい。
私はインターネットでその人を何とか探し当て、連絡先も調べた。
私は恐る恐るメールをしてみた。
その人とは昔何度か顔を合わせたことがあった。
憶えているだろうか……。


 それから数日後、見たことのないアドレスからメールが届いた。
開いてみると、リカからだった。
リカの元恋人にメールは届いていたようだ。
メールの内容からすると、どうやら不倫問題は解決したようだった。


……なーんだ、せっかく小説のネタになるかと思ったのに……

なんて。