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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage3
第43回バトル 作品

参加作品一覧

(2013年 2月)
文字数
1
小笠原寿夫
1000
2
mohu
999
3
スナ8
1000
4
ごんぱち
1000
5
深神椥
614

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TAXI
小笠原寿夫

右足を出せば、自然と左足が、着いてくる。人は、そういう生き物だし、それについてこだわったことはない。

「左足にたこができたよ。」
「だったら、右足で歩きゃあいい。」
「右足だけで歩けんのかい。」
「ケンケンでもすりゃあいいじゃねぇか。」
「したら、右足が傷むよ。」
「傷んだら、病院にいきゃあいい。」
「病院に行くにも、足が重要だ。足ほど重要なものはねぇ。」
「理屈だい。するってぇとおめぇさん、何かい?足がねぇってのかい?」
「左足にたこができたって言ってんじゃねぇか。ねえ足にたこができるかい?」
「全くだ。」
「で、おめぇさん。ビーチサンダル履いてんじゃねぇか。こりゃまた、時節柄、可笑しいとは、思わねぇか。」
「春夏秋冬、地面はアスファルトだ。じゃあ、車はどうなる?年柄年中、ゴム草履、履いてんじゃねぇか。」
「ありゃあ、タイヤってんだよ。」
「知ってるよ。」
「タイヤにしたって、擦り切れたら、痛てぇよ。」
「痛てぇってんだよ、全く。人間ってぇのは、賢い生き物だ。年柄年中、ゴム草履を履こうと思えば、履けねぇこともねぇんじゃねえか。」
「ただ、それには、足がかかる。」
「馬鹿だねぇ、おめぇさんは。どうして、車乗るのに、足がかかるんだい。」
そこへ、やって来た、久助。
「寒いよ、寒いよぉ~。」
「どうしたってんだい、久助じゃねぇか。何だって寒いってんだい。」
「何だって、寒いもんは寒いんだい。理由なんてあるかい、てやんでぇ!」
「まぁ、こっちへ上がりなさいよ、全くおめぇさんは。」
「ちーとはぬくもったかい?じゃあ理由を聞かせておくんなせぇ。」
「朝が早かったんで、暫くの間、日の出でもみに行こうと思ったんだい。そしたら、ラジオ体操が演っててさ。コーヒー飲んで、タバコ吸ったら、そのラジオ体操に参加したんだ。帰りがけに、バスに乗ったら、福祉乗車証を見せて、其処から歩きだい。」
「それからどした?」
「どうしたもこうしたもねぇよ。バスだったら、お金払わなくていいと思ったら、ところがどっこいときたもんだ!」
「払ったのかい?」
「コーヒー代に使っちまって、無一文だ。払う腹もありゃしねぇ。シャレでも言おうかと思ったら、着てる服に合わねえときてる。どうしたもんかと思ったら、気づいたら此処だよ。」
「言ってる意味がよくわからねぇよお前さんの話には、一本筋が通ってねぇ。まぁ、タバコでも一本吸いなよ。」
久助、ここでタバコを吸います。
「忘れちまった。」
TAXI 小笠原寿夫

小石
mohu

・小石を蹴った。

・ひどく、足が腫れた。

・程なくして、血が出た。

・病院に行った。

・「骨が折れています。」と診断された。

・翌日、会社を休んだ。

・部屋で布団にくるまり、泣いた。

・「私何やってるんだろ?」って思った。

・数分後、少し笑けて来た。

・ひたすら布団の中で寝た。

・ぐーぐー寝た。

・起きたら、翌日の9時だった。

・仕事を休んだ。

・そして、また寝た。

・起きたら、翌日の8時だった。

・また仕事を休んだ。

・そしたら会社をクビになった。

・職を失った。

・すごい不安になった。

・足に感覚が無くなっていた。

・病院に行った。

・足が壊死してると言われた。

・病院から入院を勧められた。

・断った。
 →お金が無いから。

・アパートを解約した。

・実家に戻った。

・親にびっくりされた。
 →主に足の状態について

・親のお金で病院に入院した。

・手術をした。

・足を切断した。

・絶望した。

・一寸先が見えなくなった。

・生きてる意味が分からなくなった。

・3ヶ月入院した。

・恋をした。
 →毎日見舞いに来てくれた、同級生の勇次君に。

・勇次君に優しくされた。

・3ヶ月、ずっと。

・胸が張り裂けそうな程、彼が愛おしくなった。

・思いが、抑えきれなくなった。

・でも、嫌われたくなかった。

・でも、告白してみた。

・「ごめん」って言われた。

・泣いた。

・結局、恋は実らなかった。

・死のうと思った。

・でも、そんな勇気は無かった。

・もう、どうしていいか分からなくなった。

・ひたすら布団の中にもぐり、眠った。

・ぐーぐー眠った。

・ふと、右足が疼いた。

・膝から下がないはずの右足に、感覚があった。

・無いはずの右足があった。

・がばっと、布団から起き上がった。

・時計を見た。

・ちょうど、足を痛めた、3ヶ月前に戻っていた。

・全部夢だった。
 →小石を蹴る所から。

・外に出た。

・日の光が暖かかった。

・小石があった。

・今度は蹴らなかった。

・そのまま会社に行った。

・同僚に夢の話を全て話した。

・笑われた。

・でもうれしかった。

・今までの話が全て夢だったから。

・でも少し寂しかった。

・夢だけど、勇次君にふられたから。

・新しい恋を探そうと思った。

・色んな男の人と付き合った。

・でも、勇次君以上の人とは出会えなかった。

・もどかしかった。

・日常に意味を見出せなかった。

・ぼーっとしていた。

・布団にもぐり寝た。

・ぐーぐー寝た。

・起きて、外に出た。

・ふと地面を見た。

・小石があった。

・思い切り、蹴飛ばしてやった。

ジュリの憂鬱
スナ8

「また置いていかれたわ」
 冷え切った部屋の中であたしは呟いた。
「また置いていかれたわ」
 最悪の気分だった。気付いたのは、時計の針が9時を回ったところだからついさっきだし、いつもあの人たちが帰ってくる時間よりちょっと遅いだけだけどあたしはびびっときていた。
「置いていかれたわ」
「まだわかんないじゃない」
「わかるわ。これまでだって、ひょっと出て行って帰って来なかった事なんて、何回もあるわ」
 置いていかれたのよ。絶望的に呟いたあたしに、ふん、と息を漏らすと姉はハンモックに潜り込んだ。
「ねえ、お姉ちゃん」
 心臓がきゅうっと縮こまるような悲しみに、泣きそうになるのをこらえてあたしは言った。
「あたしたち、愛されてないのかな」
「なんで」
 食い気味に問い返す、姉。
「だって……パパもママも最近冷たくなったし、帰って来ない事も増えたし、夜はいつも二人きりだし」
「忙しいのよ」
「娘なのに!」
 つい声が大きくなった。
「夜中まで娘を放ったらかして夜遊びなんて、ネグレクトもいいとこだわ」
 急に悲しくなって、あたしはしくしくと泣き出した。
「昔は違ったわ。パパもママもあたしにかかりっきりで、うんちもすぐ片付けてくれて、ご飯だって、こんな固くて冷たいものじゃなくって、やわらかくて温かいものを、ママの膝の上で、スプーンで一口ずつ掬って食べさせてくれた。優しく抱っこしてくれて、子守歌も歌ってくれた」
「それは、あんたがもう赤ちゃんじゃないから」
「まだ赤ちゃんよ! こんなに小さいのよ? あたし、一人じゃ何にもできないのよ……」
 こんなにあたしが悲しんでるのに。パパもママも何してるの?



 その時だった。ぱっと部屋が明るくなった。灯りが点いたのだった。
「ただいま娘たち!」
 パパ! ママ! あたしは、夢中で檻を噛んだ。がりがりがり……
「ごめんね。遅くなっちゃったね」
 檻を開けて、温かい手があたしを掴み出した。襟首をつままれて、軽く揺すられて、もうどうにでもなれみたいに全身の力が抜けていく。
「置いてかれた、とか思ってたりして」
 パパが上着を脱ぎながら、言った。
「動物を飼うには、一に責任、二にスキンシップだからね」
 そう言うとママはあたしの肛門に、うやうやしくチューをして、あたしの全身の毛は逆立った。
「やめろよ、嫌がってるだろ」
 パパは顔をしかめた。
 姉は、ふん、と息を漏らすと、こりこりと良い音をたててご飯を食べ始めた。
ジュリの憂鬱 スナ8

あたま山リターンズ
ごんぱち

 昔、ケチな男がおりました。
 桜の実を勿体ないと種ごと食べたお陰で頭から桜の樹が生え、花見客が訪れるようになりました。うるさくてたまらないと引き抜いた後に出来た凹みに池が出来て、これまた釣り客で大賑わい、とうとう頭の池に身を投げて死んでしまいました。

 ケチな男の隣りに住んでいた欲張りな男が、その一部始終を見ておりました。
「折角の儲けられる機会をフイにするなんてマヌケなヤツだ」
 季節は巡り、また桜が実を付けた頃、欲張りな男は桜の実をしこたま集めて、種ごと食べました。
 案の定、欲張りな男の頭から、桜の樹が生えて来ました。

「よお、松つぁん、今日は半ドンだろう? 良い日和だし、みんなで花見へ行かないかい」
「いいですね、ご隠居。上野ですか?」
「いやぁ、近所が良いよ。あたま山が見頃らしいよ」
 長屋の連中が連れ立って欲張りな男の頭へやって来ます。
 入り口には、柵と門が作られていました。
「一人二銭です」
 欲張りな男が箱を突き付けます。
「なんだい、金を取るのかい」
「払えないならお引き取りを。他にも桜はあるでしょう。ここほど見事かは知りませんが」
「今から余所へ行ったら日が傾いちまう。払う、払うよ。みんなの分はあたしが奢るよ」
 ご隠居が金を支払って、長屋連中は、あたま山の上までやって来ます。
「うへぇ、なんだいこりゃ」
 人人人の人だらけ、桜は立派ながら遠くに小さく見えるばかり。
「まあ仕方ない、始めるかい」
「花より団子でさぁ」
 長屋連中が弁当を広げて酒を用意し始めると。
「ええー、たまご、たまごー」
 欲張りな男がカゴにゆで卵を入れて売りに来ます。
「すまないね、弁当で足りてるよ」
「たまご、たまご!」
「しつこいね」
「たまご、たまごぉぉぉおおお!」
「分かったよ、買うよ」
 長屋連中はゆで卵を殻を剥きます。
 欲張りな男が、今度はくずかごを持って来ます。
「五厘で卵の殻一掴み分引き受けましょう、ちなみに地面を掘り返して埋めるなら二円五〇銭」
「払えばいいんだろう!」
 一時が万事この調子。
 悪い評判は広まるもので、桜の散るよりも早く客足はなくなって行きました。

 儲けにならないので樹を引き抜いて釣り堀にしてみましたが、前で懲りた人々は近寄ろうとしませんでした。
「むむ、金にならないとなると、池は邪魔なだけだ」
 欲張りな男は池を埋めてしまいました。人を雇って作業をしたせいで、結局五〇銭ばかり損をしてしまいましたとさ。
あたま山リターンズ ごんぱち

こんなにも誰かを想ったことはない
深神椥

 最初からわかっていた。
 この想いは、叶わないってこと。


「この前、会社の後輩といい感じになってさ。今度食事行くんだよね」

隣りでこう話すこの人とは幼稚園の時からの幼なじみで、小中高と一緒。
大学はバラバラだったが、卒業後、お互い地元に戻って来た。

もう二十年以上も一緒にいる。
お互い、長く居すぎた。

「お前は?誰かいないの?」
隣りに居る君が無防備に聞いてくる。
「……いないよ、そんなの」
引きつった笑顔で答える。

「作れよー誰かー。今度紹介してやろうか?」
「いいって」
昔からこうだ。お節介というか……。
まぁ、そういうとこも含めて好きになったんだけど。

「お前は昔から人付き合い苦手だったしな。でも作った方がいいぞー」
笑顔で受け流す。
心の中はこんなにも切なくなってるのに。

「あっもうこんな時間か。じゃあオレ、明日早いから」
「……うん」
本当はもっと、いや、もう少しでいいから一緒にいたい。

「お前も早いんだろ?」
「……うん」
でも、そんなこと言えるわけない。

「ホントーに誰か見つけろよ」
「……ん、あぁ……」
言ったら最期だ。

「じゃあ、またな」
「……あぁ、また」


 去って行く後ろ姿を黙って見送る。
 その背中が何だか猛烈に愛おしくなって、急に笑いが込み上げてきた。

 でも、その後、何だか胸の奥が苦しくなって、瞳からこぼれ落ちそうになるものを必死にこらえ、顔を上に向けた。


 満天の星空だった。


 その中で、ひときわ目立つ、冬の星座が、ボクを笑顔に変えてくれた。