右足を出せば、自然と左足が、着いてくる。人は、そういう生き物だし、それについてこだわったことはない。
「左足にたこができたよ。」
「だったら、右足で歩きゃあいい。」
「右足だけで歩けんのかい。」
「ケンケンでもすりゃあいいじゃねぇか。」
「したら、右足が傷むよ。」
「傷んだら、病院にいきゃあいい。」
「病院に行くにも、足が重要だ。足ほど重要なものはねぇ。」
「理屈だい。するってぇとおめぇさん、何かい?足がねぇってのかい?」
「左足にたこができたって言ってんじゃねぇか。ねえ足にたこができるかい?」
「全くだ。」
「で、おめぇさん。ビーチサンダル履いてんじゃねぇか。こりゃまた、時節柄、可笑しいとは、思わねぇか。」
「春夏秋冬、地面はアスファルトだ。じゃあ、車はどうなる?年柄年中、ゴム草履、履いてんじゃねぇか。」
「ありゃあ、タイヤってんだよ。」
「知ってるよ。」
「タイヤにしたって、擦り切れたら、痛てぇよ。」
「痛てぇってんだよ、全く。人間ってぇのは、賢い生き物だ。年柄年中、ゴム草履を履こうと思えば、履けねぇこともねぇんじゃねえか。」
「ただ、それには、足がかかる。」
「馬鹿だねぇ、おめぇさんは。どうして、車乗るのに、足がかかるんだい。」
そこへ、やって来た、久助。
「寒いよ、寒いよぉ~。」
「どうしたってんだい、久助じゃねぇか。何だって寒いってんだい。」
「何だって、寒いもんは寒いんだい。理由なんてあるかい、てやんでぇ!」
「まぁ、こっちへ上がりなさいよ、全くおめぇさんは。」
「ちーとはぬくもったかい?じゃあ理由を聞かせておくんなせぇ。」
「朝が早かったんで、暫くの間、日の出でもみに行こうと思ったんだい。そしたら、ラジオ体操が演っててさ。コーヒー飲んで、タバコ吸ったら、そのラジオ体操に参加したんだ。帰りがけに、バスに乗ったら、福祉乗車証を見せて、其処から歩きだい。」
「それからどした?」
「どうしたもこうしたもねぇよ。バスだったら、お金払わなくていいと思ったら、ところがどっこいときたもんだ!」
「払ったのかい?」
「コーヒー代に使っちまって、無一文だ。払う腹もありゃしねぇ。シャレでも言おうかと思ったら、着てる服に合わねえときてる。どうしたもんかと思ったら、気づいたら此処だよ。」
「言ってる意味がよくわからねぇよお前さんの話には、一本筋が通ってねぇ。まぁ、タバコでも一本吸いなよ。」
久助、ここでタバコを吸います。
「忘れちまった。」