それでもいいと思ってた
深神椥
「あっそうそう。この前話した会社の後輩のコ。一昨日食事行ったんだけど」
隣りの君が嬉しそうに話す。
「もぉーますますいい感じになった」
会うのは大抵夜。公園のベンチで。
お互いの家に行くこともあるけど、この人は最近人付き合いに忙しいらしい。
この人は今も昔も友達が多い。
ボクは今も昔もこの人だけかな。
「今度はデートの約束したんだよね」
昔からそうだ。
彼女ができると、彼女とのエピソードをやたらと話してくる。
聞かされる方は結構苦痛。
こっちの身にもなってほしい。
でも、向こうはそんなこと知る由もなく……
「どこ行こうかなー」
「……好きな人とならどこでもいいんじゃない?」
少なくともボクはそう。
好きな相手とならどこだって……。
「そぉーかぁー?」
「……そういう人もいるんじゃない?」
「それはお前だろ?」
見透かされた。
「うーん……ユミちゃんどこがいいんだろ……」
ユミっていうんだ。
へぇー……。
「……聞いてみればいいんじゃない?」
「うん……お前は?どこがいいと思う?」
聞き返された。
何だか勝手にドキドキ。
「……オレに聞くなよ」
「お前ならどこ行きたい?」
オレなら……お前とならどこでも……。
「……ドライブかな」
「ドライブかぁー。お前好きだよな。で、どこにするか」
「……オレなら海がいいかな」
「海~?この寒いのに?」
「……冬の海もいいよ」
「ふーん……海か。後でメールしてみよ」
昔、何度か一緒に海までドライブした。
楽しかったな……。
いつまでも思い出に浸ってるなんて、女々しいな、オレ。
「で、お前は?」
「……何?」
「だから、いいコいた?」
「……いないよ。探してないし」
ダメだ、顔が引きつる。
「探せよー。お前顔はいいんだから」
顔はって……。
「オレ別に彼女とかいなくていいし」
「何だよ。しけてんな」
「……それよりお前の方がモテんだろ」
「……まぁーね」
得意満面気味に言った。
何だか心配……。
「……結構誘われたりするの?」
「うーん……まぁ……ね」
「何そのタメ」
「まぁ、お前だから言うけど、たまーに男からも、ね」
えっ……えぇっ!?
「……なーんてね」
ボクは目をぱちくりさせた。
「……信じた?」
なっ何でつかなくてもいい嘘を……。
ボクは信じた自分が恥ずかしくて、下を向いた。
この人の一挙一動に振り回されてる。
「そんなわけないでしょ。男からなんて」
……やっぱり、男からなんて気持ち悪いと思ってんのかな。
「それよりやっぱお前の恋活でしょ」
「だからもうその話は……」
そうだ。
そうだった。
こうやって二人で話してるだけで、何気ないことで笑い合ってるだけで幸せだった。
「あっ今度うち来いよ。久々に作るから」
「……うん。楽しみにしてる」
君が笑う。
ただ、それだけで嬉しい。
ボクは、幸せだ。