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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage3
第44回バトル 作品

参加作品一覧

(2013年 3月)
文字数
1
iiyama
965
2
小笠原寿夫
1000
3
ごんぱち
1000
4
深神椥
1113

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彼女の魅力
iiyama

 僕が、彼女「飯島」さんを語るときに、まず言わなくてはいけないことは、僕と彼女の関係についてだ。僕と飯島さんは恋仲でも友人でもない、かといって薄い仲でもなく、知り合わない人でもない。僕にとって彼女は人でなく、彼女にとって人とはとるに足らないものであるだけだ。そんな飯島さんと過ごしたあのクソ暑い夏休みは終わりを告げ、思い返すと薄っぺらな幻のようなあの事件も全ては永劫の彼方となった現在、僕達の間にできた関係はよりビジネスライクなそれであり、上司と部下の関係というのが一番正しい。

「社長と社員ではないところが君らしい言い回しだね。君は僕に飼われているわけでも雇われているわけでもない、下について働いているだけだものね」

と飯島さんはこの関係性を示す文言に肯定的だ。皇帝的な彼女にしては珍しいことだけど、王様と下僕という関係性を口に出さない僕をもっとほめてくれてもいいように思う。まあただ、僕も嫌々下についているわけでもないので、やはりこの言い回しは的を外している。飯島さんは強いらない。

っというわけで、我が上司、飯島さんは人ではなく、独善的で、口が悪く、賢く、逞しく、けたたましく、そして正しく、美しい。彼女の魅力を説明するのは難しく、彼女を魅力だけで説明するのは愚かしい。素敵で不敵で完全無敵が彼女だ。だから僕はいつも、彼女の話をする際は僕のことから語ることにしている。僕が彼女と一緒にいる理由。

さて、なぜ僕が彼女の元でコマネズミの如くあくせく活動しているかというと、もちろん配属をもって彼女の下にいるわけではない。今も鮮明に思い出す、今年の4月のことだ。彼女の敵として僕は出会った、無敵の前に無謀にも敵として立ちはだかった、思い返すほど愚かな行為だがあの時の僕は必死だった。だから彼女に的として射られた、必至なことだ。彼女のものを盗ろうとしたネズミを彼女は軽く払っただけだがそれでもネズミは無残に殺された。気付いた時には彼女は全てを統べていた。負けた。敗北をもって僕は彼女の下についたのだ。

「いつまでもぐちぐちというなよ。相手が悪かったのさ。失敗したわけでもなく、手を抜いたわけでもないだろう。もっというと君が悪いわけじゃない」

そんなことを飯島さんは平気で言ってのける。上司として、部下のミスでも庇うように。

まったく惚れてしまう。
彼女の魅力 iiyama

小笠原寿夫

能登の山には、椎茸という名産物があります。学名Lentinula edodes。江戸という文字が、学名に入っていることは、日本が発祥の地である事を意味します。
「おーい、椎茸がわんさか採れたよー。お裾分けだーい。」
「こりゃあ、見事な椎茸だね、全く。」
「傘のところへ酒継ぎな。夜っぴて眠れない日にゃあ最高のお持てなしだーい。」
「あんさん、威勢がいいねぇ。どうしてこうも威勢がいいのかねぇ。」
「女房、子供にはわからねえや。椎茸のしの字も知らねぇってんだからよぉ~。」
「椎茸ってったって、ちゃんと深い意味があんのかい?」
「当た坊よ。椎茸ってのは、冬場寒いときに、木の根っこに生えてくんだ。じーっとそこで小さく根を張って大きく成長してくんだ。大きく成長したところから、仮首を根元から、切られるんだ。いいかい? 椎茸のジッと耐え忍ぶ姿は、何かに似てるとは、思わねぇか?」
「蛙?」
「違うよ、男がジッと耐え忍んで、働く姿を改めて、そっと自分に置き換えてみなよ。」
「なるほど。こりゃいいや。今日は酒椎茸で、祝い酒だ。」
「山に感謝しながら喰うんだよ。昔っから、香り松茸味しめじって言ってな。椎茸は重宝されなかった。だけど、これだけ立派な椎茸だ。山の神様もさぞかしお喜びだろうよ。」
二人の連中、椎茸を肴に一杯始めます。ホロぉ~っと酔いが回ってきましたところで、この二人、溝去ってしまいます。
「うめぇ~。うめぇ~。うんめぇ~。」
「な?うめぇだろ。旨い酒の肴に椎茸ひとつ首ったけときたもんだ。」
「上手い事言ったね。口の中が、椎茸の香りで、一杯になってくらぁ~。」
「能登の山々ありがとう!」
てなわけで、椎茸をお清しに入れて、美味しく頂きました。
「で、このお清し、誰が作ったんだい?」
「あんたじゃねぇのか。」
「俺じゃねぇよ。あんたに女房は、いたかい?」
「いや、俺りゃあ独り身だ。一体、誰の仕業だろうねぇ。」
二人の顔色が、赤から白にスーッと変わったところに、後ろから、角の生えた影が現れました。
「あなた方が食べた椎茸を一つでも多くお客様に提供できる用、夜通し考えているものだが、あなた方が食べた椎茸。一本いくらするのか、あんたら、知ってるのかい?」
二人は、おしっこをちびりながら、後ろを振り返りました。
そこに大木があったことだけは、読者さまにお伝えしておかなくてはいけません。
樫の木は、ただそこに根を張っていいました。
「これだけは椎には言うなよ。」
木 小笠原寿夫

何たら急行ナントカ事件
ごんぱち

 食堂車の中央に、男が倒れていた。
 既に他の乗客や乗務員で人垣が出来ている。
「ちょっと失敬」
 四谷と蒲田は人の間をすり抜け、男に近寄る。
「離れてて下さい!」
 遮ろうとする乗員の手を、蒲田が押し留める。
「この方は、かの『黒い雲』事件を解決した、四谷探偵です」
 蒲田が警察手帳を見せる。
「それと、非番ですが、私は警官です」
「ああ……警察」
 やや不安そうな顔をしながらも、乗員は四谷と蒲田を通す。
 四谷は倒れている男の傍らにしゃがみ、観察を始める。
「ふうむ、鋭利な刃物でひと突き」
「鈍器です」
 蒲田が答える。
「一撃で倒すとは手練れの」
「滅多打ちです」
「そこまでやるとは、怨恨による殺人」
「生きてます」
「って、じゃあ、どこが事件なんだよ!」
「わ……私、の」
 男が僅かに目を開ける。
「……大事な、青いダイヤが、奪われ、た」
「なんだって!?」
「しかも、金、銀、パールも一緒に」
「途端に安っぽくなりましたが」
 四谷は周囲を見渡す。
「君」
 そして、傍らの乗務員に尋ねた。
「乗客、乗員を皆、ここに呼んで下さい」

 食堂車には乗客、乗員がぎっしりと詰め込まれる。
「単刀直入に言おう」
 四谷はにやりと笑う。
「犯人はこの中にいる!」
 皆、ざわつく。
「誰なんです!?」
 蒲田の問いに、四谷は首を横に振った。
「それはその人の名誉の為に言わない」
「え?」
「一つだけチャンスを与えよう。今なら間に合う、警察にも言わない、言わないから、自分から言いなさい、後でこっそり返して、謝りに来なさい」
「……分からないんですね?」
「な、なな、何を言っているのかね! 分かっている、分かっているけれど、自分から罪を告白した方が裁判の心象とかもアレで、ナニだよ!」
「やっぱり分からないんですね」
「そんな事はない! ないにも関わらず、いや、なければこそ! いや、まあ仮に、仮にだよ? あったとしてもだ、この先追い詰めてもアレだよ、火曜サスペンスで崖で飛び降りたり何たりだよ」
「分かんないなら別の探偵に頼みます」
 蒲田は携帯電話を出す。
「いやいやいやいや、そうだ、こうしよう。みんな目を閉じてー、はい、じゃあやった人手を挙げて! 見てないから安心して、本当にみんなきちんと目を閉じてるから、分かるのは先生だけだぞー。はい、挙手ー」

「手を挙げたのが、我々以外の全員とは。フフ、また一つ謎を解決してしまったな」
「絶賛拉致られ中に何ほざいちゃってるんですか!」
何たら急行ナントカ事件 ごんぱち

それでもいいと思ってた
深神椥

「あっそうそう。この前話した会社の後輩のコ。一昨日食事行ったんだけど」

隣りの君が嬉しそうに話す。

「もぉーますますいい感じになった」

会うのは大抵夜。公園のベンチで。

お互いの家に行くこともあるけど、この人は最近人付き合いに忙しいらしい。
この人は今も昔も友達が多い。
ボクは今も昔もこの人だけかな。

「今度はデートの約束したんだよね」

昔からそうだ。
彼女ができると、彼女とのエピソードをやたらと話してくる。
聞かされる方は結構苦痛。
こっちの身にもなってほしい。
でも、向こうはそんなこと知る由もなく……


「どこ行こうかなー」
「……好きな人とならどこでもいいんじゃない?」

少なくともボクはそう。
好きな相手とならどこだって……。

「そぉーかぁー?」
「……そういう人もいるんじゃない?」
「それはお前だろ?」

見透かされた。

「うーん……ユミちゃんどこがいいんだろ……」

ユミっていうんだ。
へぇー……。

「……聞いてみればいいんじゃない?」
「うん……お前は?どこがいいと思う?」

聞き返された。
何だか勝手にドキドキ。

「……オレに聞くなよ」
「お前ならどこ行きたい?」

オレなら……お前とならどこでも……。

「……ドライブかな」
「ドライブかぁー。お前好きだよな。で、どこにするか」
「……オレなら海がいいかな」
「海~?この寒いのに?」
「……冬の海もいいよ」
「ふーん……海か。後でメールしてみよ」

昔、何度か一緒に海までドライブした。
楽しかったな……。
いつまでも思い出に浸ってるなんて、女々しいな、オレ。

「で、お前は?」
「……何?」
「だから、いいコいた?」
「……いないよ。探してないし」

ダメだ、顔が引きつる。

「探せよー。お前顔はいいんだから」

顔はって……。

「オレ別に彼女とかいなくていいし」
「何だよ。しけてんな」
「……それよりお前の方がモテんだろ」
「……まぁーね」

得意満面気味に言った。
何だか心配……。

「……結構誘われたりするの?」
「うーん……まぁ……ね」
「何そのタメ」
「まぁ、お前だから言うけど、たまーに男からも、ね」

えっ……えぇっ!?

「……なーんてね」

ボクは目をぱちくりさせた。

「……信じた?」

なっ何でつかなくてもいい嘘を……。

ボクは信じた自分が恥ずかしくて、下を向いた。
この人の一挙一動に振り回されてる。

「そんなわけないでしょ。男からなんて」

……やっぱり、男からなんて気持ち悪いと思ってんのかな。

「それよりやっぱお前の恋活でしょ」
「だからもうその話は……」


そうだ。
そうだった。

こうやって二人で話してるだけで、何気ないことで笑い合ってるだけで幸せだった。

「あっ今度うち来いよ。久々に作るから」
「……うん。楽しみにしてる」


君が笑う。
ただ、それだけで嬉しい。

ボクは、幸せだ。