「今度お前にユミちゃん紹介したいんだけど」
「えっ……」
今まで色んな女の子紹介されたけど、今回は特に気が進まない。
「ダメかな」
「……ごめん」
「……そっか」
残念そうな顔してる。
でもボクにだって断る権利はあるし。
急に思い出した。
悩んでたあの頃。
「まさかお前、そっち?」
学生時代、同級生からそう言われた。
女っ気がないとすぐそういう方向に結び付ける。
好きになったのがたまたま男だっただけだ。
きっかけは、よくある感じ。
この人と居ると楽しい、素直になれる。
あれ、何だこの気持ち。胸がドキドキモヤモヤする。
まさか、恋?
とまぁこんな感じ。
何で男を好きになったんだろうと思春期にはかなり悩んだ。
でもこの人と一緒に居る内に、男とか女とかそんなことはどうでもよくなってきて、悩んでた自分が馬鹿みたいに思えてきた。
オレはこの人が好きだから好き。
ただそれだけだ。
「やっぱ会ってくんないかな」
「……悪いけど、オレの気持ちは変わらないから」
「でも、お前にもユミちゃんのこと知ってもらいたいんだ」
「……ユミちゃんユミちゃんてうるさいな」
ついボソッと言ってしまった。
幸い向こうには聞こえなかったらしい。
「……とにかくオレは会わないから」
彼女と会ったら、現実を受け入れることになってしまう。
それだけは避けたかった。
「しつこくてごめん。こっちの都合ばっかりで」
驚いた。
珍しく謝ってきたから。
やっぱ恋愛してると人って変わるのかな。
哀しいけど。
「そっち行こ」
ボクは言われるがままついて行った。
話すのはいつもの公園のベンチ。
明る過ぎない街灯が、二人をいい感じに照らしてくれる。
「オレ、お前のこともユミちゃんのことも大事にしたいんだ」
大事、か。
その言葉だけで充分だ。
「オレの気持ちわかってほしい」
わかってるよ、お前の優しさも厳しさも。
でも、オレにどうしろっていうんだ。
どうしようもなく、空を見上げた。
曇りがかった星空だ。
その時、光の筋のようなものが視界に入った。
「あっ……」
ボクの声に、キミも空を見上げた。
「わぁ、すごい」
「パンスターズ彗星、今年しか見られないんだって」
二人で夜空を見る。
静かに流れる二人だけの時間。
このまま、このまま……。
気が付くと、涙が頬を伝っていた。
「決断」なんてしたくなかった。
ボクはただこの関係がずっと続けばいいと思っていた。
「……会うよ」
ボクはそっと涙を拭い、空を見上げたまま言った。
キミがこちらを見たのがわかったが、そのまま続けた。
「……彼女に会うよ」
「……いいの?」
ボクは顔を頷かせた。
「ありがと。ユミ、喜ぶよ」
少し声がかすれていた。
もういい、もういいや。
「大事」だって言ってくれた。
「彗星、キレイだな」
隣りのキミが言った。
曇りがかった星空が少し晴れていた。
隣りに居るけど、遠い存在になった。
空ばっか見上げてると、首疲れるけど、やっぱり、やっぱり星空はすべてを忘れさせてくれる。
―いつもありがとう。
これからもよろしくね。