ココロツタウ~feel reluctant
深神椥
最近、及川の様子が変だ。
あまり目を合わそうとしない。
時々うわの空だ。
聞こうかとも思ったが、心の中に土足で踏み込んでしまいそうだ。
でも、何となくわかっていた。
転校してきた理由、それが原因かもしれない。
もしそうでも、いつも通りでいよう。
アイツの為にも、その方がいい。
そんなことを思っていた高二の冬。
オレはカラオケボックスの一室で及川を待っていた。
珍しく及川から日曜に会いたいと誘いが来た。
OKしたものの、何だか心の中がモヤモヤする。
いつも通りでいるはずだったが、緊張で落ち着かない。
ウーロン茶もコップの半分は飲んでいた。
そうしている内に店員と共に及川が入ってきた。
「遅れてごめん」
入ってくるなり、そう言った。
オレは首を振った。
店員は及川の注文を聞き入れ、出て行った。
二人で並んで座る。
何だかドキドキする。
オレから切り出すべきか。
「あの」
及川が言った。
オレは何も言わず、視線を落としたまま及川の方に顔を向けた。
及川は前を向いたまま話し出した。
「その、前の高校で、良くしてくれた先生がいて」
及川は言葉を選んでいるようだった。
「それで、その、最初は普通に話す程度だったんだけど」
そこまで言うと、目をつぶり、下唇を噛んだ。
「及川、言いたくないなら」
「いや、言うって決めたから」
強い口調に、込み上げてくるものがあった。
「その、先生は、いつからかボクに……」
「及川、もういいよ」
及川の顔を見れば、何となく察しはついた。
その時丁度、店員が注文した物を運んできた。
タイミングの悪さに、拍子抜けした。
店員がこちらを一瞥した。
「及川、飲んで落ち着け」
落ち着かなくちゃいけないのはオレの方だ。
及川はオレンジジュースを何口か含んだ。
「その、先生はボクに、ただそばにいてくれるだけでいいって。でも、ある時、見られて……。もっとそばにいてあげたかった。もっと先生のそばに」
その先生が男か女かはわからないが、別に聞こうとはしなかった。
「その先生のこと好きだった?」
「わかんない。ただ先生の為になるならそれでいいと思った。先生もボクをどう想ってたかわかんないし」
すべてを受け入れる、そのつもりだったのに、何だか余計にモヤモヤする。
「こんな時期に転校してきたのは、そういうことがあったから」
及川は自分の中で納得したようだった。
オレはどうなんだ、それを聞かされて。
覚悟していたが、何だか腑に落ちない。
お互いにどう想っていたかわからないと言っていたが、もしかしたら、及川もその先生も……。
もしそうだとしても、オレにはどうもできないのに……。
オレはただ三分の一程残ったウーロン茶を見つめていた。