宇宙から日本列島に狙いを付けて猛スピードで大気圏に再突入した俺は東京湾の玄関口の浦賀水道上空でピタリと静止した。
雲間から見える東京湾横断道路の海ほたるにはクルマと人々が、蟻の群れの様に上手くぶつからず動いている。
「初七日の終わりまで、も少し時間あるな」まだ生前の悪癖が残っているのか、マヨネーズのチューブを絞きるかの様に時間も使いたいのだ。
「宇宙旅行の次は海底探検だな、この世の見納めに」さてどこに潜るか思案しながら雲の上を漂っていると、カモメの大群がぶつかって来た。
カモメから逃れると沖合から外洋に向かってヘリコプターが数機周回飛行したりホバリングしている。
俺はスーッとカメラがズームするかの様に寄ってみた、厚木航空基地かヘリ搭載護衛艦から飛来したのか対潜ヘリコプターがソナーを海面に吊り下げていた。
「何事だ?そうだ丁度いいから潜ってみよう、潜るには絶好の機会だな」意外に細いケーブルづたいに潜ってみることにした。
ブクブクと泡がさかんに立っている、それが視界と日光を遮って晴天の真昼の割に薄暗い。
「居たぞ、デカい」それは巨大な黒いマッコウ鯨かと思いきや潜水艦だった。
どうやら某国の戦略ミサイル原潜らしく、悪魔の使いのSLBMが収まった扉が2列並んでいる、スクリューが止まっているところをみると機関故障で海中に静止している様だ。
辺りをこらして見ると、ずっと小さな潜水艦が2隻、たぶん海上自衛艦だろう。
その少し深いところに2まわり程大きな潜水艦が1隻、これはアメリカ原潜か。
極東のメトロポリス東京のちょっと鼻先の海底では、こんな事が起きているとは皆んな夢にも思っていないのだろうなあ・・
「おや、あれはまさか」俺は絶句した。
なんと子供頃に夢中になって観た東宝映画の海底軍艦轟天号が海底に着底しているではないか!信じがたいことにムー帝国の潜水艦ムーマリンが取り囲む様に数十隻も居るぞ!
そばに寄って轟天号の司令塔を覗き込むと、神宮司大佐と華麗なるムウ帝国女帝が日本酒で乾杯しているではないか!いやあ、めでたい、めでたい和平合意に達したんだな。
ん、何だ、何だ、人がせっかく感激しているのに邪魔する奴は!
「おとうちゃん、おとうちゃん」「あなた!」「二郎や」「ご主人大丈夫ですか、もし」
俺は目覚めた、というか生き返った?全身包帯でグルグル巻きで目だけが感激の涙で濡れている。
あれ、宇宙旅行は?海底探検はどうした・・