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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage3
第68回バトル 作品

参加作品一覧

(2015年 3月)
文字数
1
DOGMUGGY
1000
2
サヌキマオ
1000
3
叶冬姫
999
4
ごんぱち
1000
5
石川順一
1065
6
夢野久作
451

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幽体潜行
DOGMUGGY

宇宙から日本列島に狙いを付けて猛スピードで大気圏に再突入した俺は東京湾の玄関口の浦賀水道上空でピタリと静止した。
雲間から見える東京湾横断道路の海ほたるにはクルマと人々が、蟻の群れの様に上手くぶつからず動いている。
「初七日の終わりまで、も少し時間あるな」まだ生前の悪癖が残っているのか、マヨネーズのチューブを絞きるかの様に時間も使いたいのだ。
「宇宙旅行の次は海底探検だな、この世の見納めに」さてどこに潜るか思案しながら雲の上を漂っていると、カモメの大群がぶつかって来た。
カモメから逃れると沖合から外洋に向かってヘリコプターが数機周回飛行したりホバリングしている。
俺はスーッとカメラがズームするかの様に寄ってみた、厚木航空基地かヘリ搭載護衛艦から飛来したのか対潜ヘリコプターがソナーを海面に吊り下げていた。
「何事だ?そうだ丁度いいから潜ってみよう、潜るには絶好の機会だな」意外に細いケーブルづたいに潜ってみることにした。
ブクブクと泡がさかんに立っている、それが視界と日光を遮って晴天の真昼の割に薄暗い。
「居たぞ、デカい」それは巨大な黒いマッコウ鯨かと思いきや潜水艦だった。
どうやら某国の戦略ミサイル原潜らしく、悪魔の使いのSLBMが収まった扉が2列並んでいる、スクリューが止まっているところをみると機関故障で海中に静止している様だ。
辺りをこらして見ると、ずっと小さな潜水艦が2隻、たぶん海上自衛艦だろう。
その少し深いところに2まわり程大きな潜水艦が1隻、これはアメリカ原潜か。
極東のメトロポリス東京のちょっと鼻先の海底では、こんな事が起きているとは皆んな夢にも思っていないのだろうなあ・・
「おや、あれはまさか」俺は絶句した。
なんと子供頃に夢中になって観た東宝映画の海底軍艦轟天号が海底に着底しているではないか!信じがたいことにムー帝国の潜水艦ムーマリンが取り囲む様に数十隻も居るぞ!
そばに寄って轟天号の司令塔を覗き込むと、神宮司大佐と華麗なるムウ帝国女帝が日本酒で乾杯しているではないか!いやあ、めでたい、めでたい和平合意に達したんだな。
ん、何だ、何だ、人がせっかく感激しているのに邪魔する奴は!
「おとうちゃん、おとうちゃん」「あなた!」「二郎や」「ご主人大丈夫ですか、もし」
俺は目覚めた、というか生き返った?全身包帯でグルグル巻きで目だけが感激の涙で濡れている。
あれ、宇宙旅行は?海底探検はどうした・・
幽体潜行 DOGMUGGY

ランイ
サヌキマオ

 三途の河は闇であった。底があるかと思ったら闇であった。岩肌があるかと思っても闇である。亀に連れられて、よくよく闇に目を凝らしてはみた。岩肌とも巨大な魚とも言えないような陰影が見えたかと思ったが「見えたい」と思っただけであった。実際は水の流れだけが頬や手の甲を撫ぜた。見上げた水面は灰色にゆらゆらと揺れた。
 こうなってしまうと何を書いても自由なんですよね。目の前に黄金の金魚を閃かせてもいいし、いっそ天空の城でも出しますか水中だけど。呼吸で苦労しないから空中も水中も誤差の範囲内だ。
 亀は薄ぼんやりと光って、力強く泳いでいる。どこに光源があるかしら、と思うとやはり頭上からで、空の上には光るものがあるということなのである。川の果てが終わったら次は空の果てかね、などと二秒ほど考えたがすぐ止めた。前方に屋敷が見えてきたのである。亀は私を載せたまま建物に向かっていった。見たことのあるもので喩えるならば、中国あたりにこういう建物があった気がする。「竜宮城」とはおいそれと言えなかった。浦島太郎の絵本などずいぶん昔に見たっきりだが、そういううろ覚えの印象とも違う建物が建っている。入り口は大木戸で横に「宮海」と額がかかっている。こういうのはたいてい右から読むのだ。「海宮」である。扉の脇に四角く蓋がしてあって、蝶番で留めてある。亀は蓋を頭で押して館の中に入っていく。まるで猫用の戸のようだ。
 屋敷だからといって水が引くわけではない。誰かが案内してくれるでもない。亀に助けられはしたが、亀を助けてはいない。扉を開けて中を覗くほかないと思ったが、鍵がかかっている。おいおい、これでおしまいか、とやや嫌な気持ちにはなったが、考えてみれば泳げるのであった。平泳ぎの要領で外壁を乗り越える。そうだ楼閣だ。この形状の建物にぴったりの単語を今思い出した。
 楼の中は伽藍堂である。漢字で書くと格好がいいが、要するに空である。が、中央正面の壁に撓垂れ掛かって股を広げる巨大な女の前では、そんなことどうでもいいのであった。女は顔を上気させて、天井から垂れ下がる鎖にしっかと掴まって気張っている。薄い藍の衣を羽織っていて、腔穴からはごぼ、ごぼ、と泡が立っている。泡は乳白色をしながら海宮の外へと流れ出ていく。ここに来て私は「女は出産をしているのだ」と思い当たった。死ぬのと産むのが紙一重なのだ、と納得した。実に勝手な納得である。
ランイ サヌキマオ

ハジマリの町へ
叶冬姫

「やばっ」
 年度末だというのに二連休が貰えたので少し気分が浮き立っていた時に、碧はその葉書を見つけて青くなった。
 仕事は不規則の上忙しい。食事は外食続きだし、家にはお風呂と寝に帰っている様なもの。部屋の掃除は休みの日に何とかしようと思っていた。そんな中で、埋もれていた葉書を発見したのだ。

 それは、碧が卒業した中学校が今年の卒業生を最後に廃校になるので、卒業十年の節目も兼ねて同窓会をしようという案内だった。
 無理。こんなに忙しいのに行けるわけがない。この御時世、廃校だって珍しいことじゃないし欠席だわ、と貰った時にはすぐ返信をしようと思っていたのだ。思っていたのに。今発見した往復葉書の日付は明日を示しているのである。返信が届かない時点で欠席扱いとなっているだろうが、いくら何でも大人としてあり得ない。何とか連絡方法がないかと、碧はその葉書を見返してみる。幹事は伊藤咲希。そして、碧は本来なら自分が返信内容を書く場所に、その文字を見つけた。
『タイムマシン埋めた五人は全員出席でーす。確定なので異議は認めませーん』 ご丁寧に、碧の返信欄にはすでに出席の方に印しがつけてある。
「タイムマシンじゃないし!」
 タイムカプセルだ、私達が卒業式の日に埋めたのは! と碧は突っ込む。幹事とかを引き受けるしっかり者に見える癖に、サキはこういうボケをやらかす子だった。サキに碧に結子。それから敦士にタイ。中学時代、馬鹿やっては怒られて、無茶やってはその二倍褒められた五人組。卒業式の日には、ベタに桜の木の根元に『将来の夢』なんてものを書いて埋めた。
 帰れないよサキ…と碧は思う。十年経って、卒業式の日に埋めた夢が叶ってここにいるはずなのに。
 夢だった仕事が、東京に居るためだけの言い訳になっている。夢の端っこで、ぶらさがって落ちないようにするだけで精一杯で。こんなので帰れるわけがない。だから、私は帰らない。

 寝過ごすところだった。列車の最後の乗り継ぎで、碧は眠りこんでしまっていた。車内アナウンスが、碧の生まれ育った町の名前を告げている。
 仕方がないじゃん、と碧は思う。だってあいつらは、私が帰らないと他人のはおろか自分達の分のタイムカプセルも開けない。そんな奴らだって碧は知っている。
 サキ、タイムマシンの件は思いっきり突っ込んでやるからね。
 返信忘れは棚上げさせてもらおう。
 何せ、決定事項なんだから。
ハジマリの町へ 叶冬姫

有効活用
ごんぱち

「畜生……神も仏もねえ」
 拘置所の中で、男は呟く。
「あんな脳が半分腐ったような年寄りが金持ってたって仕方ないじゃん。経済回してやったんだから、逆に感謝して欲しいぜ」
「なるほど、ごもっともな事です」
「え?」
「貴方の使命感による行動、賞賛に値します」
 硫黄の煙と共に現れたのは、ダークグレーのスーツ姿の男だった。一見人間と変わらないが、その肌は青みがかり、耳は尖り、頭からは小さい角が生え、尻尾もある。
「あ……悪魔」
「ナベルス侯爵率いる十九の軍団のうち、第十四軍団に属する悪魔ヘッテルギウスと申します。貴方の心からの叫びと、神への呪詛によって、悪魔との契約意向と判断されましたので、ご契約の手続きのお手伝いに参りました」
 ヘッテルギウス氏は恭しくお辞儀をする。
「願い……? 食い殺しに来たんじゃなくて?」
「はい」
「本当に?」
「はい。神が悪魔を滅ぼせないのは、契約という正しさを遵守する悪魔に、滅ぼすべき罪を見出せないからでございます。悪魔の言葉はいつも誠実であり、破滅をするのはそれに頼りすぎる人の心の弱さ故なのです。さあ、強き心の人よ、願いをどうぞ。どんな願いも、それに見合った対価で叶えて差し上げましょう」
「だ、ったら」
 動揺を抑えきれないままに、男は口を開く。
「無罪に、してくれ」
「証拠品の隠滅などの工作なら死後の魂全て、裁判官の言葉を入れ替えてしまう方法ならば死後の魂の半分で承りますが」
「魂を取られるのか?」
「死後に魂の所属が神ではなく我ら悪魔に移るということです。我らの魂となれば、天国に至る事や、生まれ変わる事はなくなります。ただし、これは全ての魂が我らの物になって初めて意味を持ちますので、残りの半分が神のもののままであれば、多少の不利はあっても天界の門をくぐれる可能性は残ります」
「だったら半分のコースだ!」

「ブラッディーマリー!」
 地獄の四丁目のバーで、ヘッテルギウス氏は四杯目のカクテルを注文する。
「ご機嫌ですね。仕事の調子、よろしいんですか?」
 絞り器に新鮮な心臓を挟みながら、バーテンダーのニスシチが尋ねる。
「転生者狙いでね。前世のツケと合わせて魂まるごと契約完了さ」
 テーブルに置かれたカクテルをヘッテルギウス氏は喉を鳴らして飲む。
「自分の魂がどっちに寄ってるかも分からないような人間が、魂なんか持ってても仕方が無い。悪魔がしっかり使ってやるのが、有効な魂の使い方ってもんさ」
有効活用 ごんぱち

俳句修行
石川順一

「あなた、0点取ったからって高得点句からは逃れられませんよ」
ああ、そうなのだ。0点さえ取れば逃れられると思って居た高得点句だったが見通しが甘かった。遂には睡眠中にまで高得点句を聞く修行が考案され、私がその修行の実行者に選ばれて仕舞った。
「梅一輪庭に明るき妻の声 白兎 糸通す向こうに母の日向ぼこ 古田椿 点滴の落つるあたりに春の雷 田井吾十歩 相マフラー君足す僕で余りゼロ 木村七夢 日を孕み 目玉のごとき 軒滴 きたのみさき 春浅し相槌ばかりの英会話 重青 魚網より這い出づる蟹一点の緋 銀次」
おお、結構高得点句を聞きました。でも修行はそれだけでは終わりません。やはりより高度な修行として、人間を相手にしているだけではだめで、犬を相手に修行しなさいと。私は俳句王である柴犬と会って来ました。
「わんわんわん、追い越せぬ回転木馬春の雲 石口翼 味噌蔵のはだか電球冴返る 淡雪 冬耕や己の影に鍬を打つ 渡邉静風」
何と、犬が俳句を呟くのです。私は結構刺激的な俳句修行が出来ました。翌日?(5日後でした)行って見ると飼い主さんが居られまして、柴犬さんは室内の様です。私はこっそり、南向きに小走りに家を出て来まして、西向きに駐車して居る車の車種をじっくりと特定して居ますと
「これこれ高得点句はどうなされました、まだまだですな、春光を捲き上げてゐる象の鼻 高橋透水 子の息が空にいっぱいしゃぼん玉 林昭太郎 活断層蜜柑の筋が多すぎる 石口翼 草萌や伏して指示待つ盲導犬 田村洋々 静かなる力の満ちて梅一輪 薩摩隼人」
と、かの有名な俳句仙人の先生から優しく声を掛けられました。
「おお、忘れて居りました。麦を踏む一歩一歩の無心かな 山本春川 寒紅をさして阿修羅に逢ひにゆく やち坊主 鉄棒の錆うっすらと春を待つ 健央介 春風に卵産みたくなる女 遠藤もとい 指置けば曇る鍵盤春の雪 林昭太郎 てにをはで変る人生春近し 達哉」
俳句仙人先生は高得点句はただ唱えるだけでは役に立たないが、唱えない事には何も始まらないので、ありきたりな否定には惑わされずに修行にはげみなさいとの事だ。私はその言葉に勇気を得て、カザルスのチェロの演奏をCDで聞きながら修行に励んだ。
「龍天に登り卵に黄味ふたつ 石口翼 除雪車の白き闇よりあらわるる 青田士郎 父の死も忘れし母と春を待つ マリン 繕ひし網の匂ひや風光る 丸岡正男 春の日を集めて島の洗濯場 高橋城山 雁帰る一度も後振り向かず 昌司 春浅し長病みの児に買うノート 横田未達 春めくや玩具のような駅に降り 諸岡岩船・・」
俳句修行 石川順一

お金とピストル
今月のゲスト:夢野久作

 泥棒がケチンボの家へ入ってピストルを見せて、お金を出せと言いました。ケチンボは、
「ただお金を出すのはいやだ。その短銃を売ってくれるなら千円で買おう。お前は私からお金さえ貰えばそんなピストルは要らないだろう」
 泥棒は考えておりましたが、とうとうそのピストルを千円でケチンボに売りました。ケチンボは泥棒からピストルを受け取ると、すぐにも泥棒を撃ちそうにしながら、
「さあ、そのお金ばかりでない、ほかで盗んだお金もみんな出せ。出さないと殺してしまうぞ」
 と怒鳴りました。
 泥棒は腹を抱えて笑いました。
「アハハ。そのピストルはオモチャのピストルで、撃っても弾丸が出ないのだよ」
 と言ううちに表へ逃げ出しました。ケチンボはピストルを投げ出して泥棒を追っかけて、往来で取っ組み合いを始めましたが、やがて通りかかったおまわりさんが二人を押えて警察へ連れて行きました。
 警察でいろいろ調べてみますと、泥棒が貰った千円のお金はみんな贋物のお金で、ピストルはやっぱり本物のピストルでした。
 二人共牢屋へ入れられました。