拍手をしながら、舞台袖からスタンドマイク目掛けて、走り出す。
「どうも~、チャージ完了です!」
「いやマァ僕らねぇ、こうやって漫才してますけど、本当になりたい職業というのがありまして。」
「それは初耳やな。何になりたかったんですか?」
「マァ、その話はさておき。」
「その話をせんかいな。」
「新鮮な野菜を世に送り届ける手助けになる流通業者が、床に伏せったときに元気になってもらうために笑いを届ける商売をしたかったんですよ。」
「それ漫才師ちゃうんか。」
「寒い極寒の地に暮らす人々が少しでも温かくして寝られる毛布を届ける流通業者が床に伏せったときにも元気になってもらうための……。」
「なんで流通業限定やねん!」
「最後までよく聞け。その流通業に憧れる青年達にも笑いを届けられる様な立派な社会人になりたかったんです。」
「なるほど。君は社会人になりたいのか?」
「いや最後まで聞いてくれ。」
「まだあるんかい。もうええわ。」
「いや、違うがな。基本的にはあってるけど、いや違うがな。」
「どっちやねん。」
「っていう漫才をしたかったんですよ。」
「お前おったら、話ややこしなるわ。結局、お前は何になりたいの?」
「お前みたいな奴に憧れてんねん。」
「一回病院行った方がええで。」
「こういう漫才をしたかったんですよ。」
「だから、ちょくちょく漫才に感想を入れるなよ。」
「僕が感想を入れてはいけない理由を千字以内にして原稿用紙に収めなさい。」
「六文字でええか。め・ん・ど・く・さ・い。」
「こんな漫才を聞きに来てくれているお客さんもいるんでね。ちゃんと謝ってくださいね。」
「いや、これは相方共々、大変なご迷惑をおかけしております。」
「お前みたいに素直に謝れる奴、工事現場の看板以来やわ。」
「分かった。お前、一回社会出た方がええわ。」
「なんでや?」
「どこ行っても通用する人間になってこいっていう事や。」
「えっ、引退?」
「なんでやねん?!チャージ完了でした!」
汗だくで、舞台を降り、客の笑いのないまま、凹んでいる私たちに、後輩が一言呟いてくれた。
「僕ら、もう舞台上がれませんわ。」
理由を聞くと、余りにも痛恨のミスを侵していたのだそうだ。
「えっ、後輩の口からはよう言いませんわ。」
頼むから教えてくれ、と懇願すると、ひとつだけ教えてくれた。
「面白くないです。」
私は一瞬、絶句し、爆発した。
「わりゃ寿司の作り方も知らん癖にようその態度取れたなぁボケェ!」