「師匠どうなされました」
「どうもこうもない。鐘をごんごん突いとったら腰痛が再発しても―たのじゃ。前にもそんな様な事があったじゃろ。でも高得点句を呟くのだけは止められんのじゃ」
と言ったかと思うと師匠であるお坊さんは深く座禅を組み深く息を吸い込んだ・・かと思うと高得点句を呟き始めた。
「筒にして覗く通知簿山笑ふ 右左義 牛あまた散らして阿蘇の風光る かささ和 前掛を外して花の客となる 風々子 一村の風を集めて鯉幟 昌司 すかんぽやじわりと進む物忘れ 六甲虎吉 花粉症らしき隣の試着室 菊鞠潤一 おとうとの背丈また伸ぶ豆の飯 醇子 枝折戸の風の開け閉め竹の秋 よつみ 菜の花や僧も流人も石ころに 万里子 口笛で返す囀り渓の宿 恋怒 満足が駄賃で買えた昭和の日 風々子 たんぽぽや貧も明るき子沢山 凡鑽 春耕と言へど二坪ほどのこと 田圃 雪柳やさしい嘘を知った夜 益子そぼろ 幼子が赤子に唄う雛の歌 マッチ 剃刀のほどよくすべり春の水 元貞 鶯の高音一山統ぶるかに 昭生 永き日や悠々自適といふ無聊 大津英世 筍やとんがっている十五歳 伊藤涼景 スキップをそっとしてみるレンゲ畑 益子そぼろ 多分このむず痒きとき蝌蚪に足 青野草太 途中から伴奏だけの卒業歌 吹留宏風・・」
「しかも出典を示せとか古代俳句協会から脅しが・・」
「それは脅しでは無くて常識の範疇では・・」
「それだけなら許せるがわしの飼って居るこの黒くてでかい犬、こやつまで高得点句を呟くようになって仕舞った。飼い主に似たのか。こやつが呟いた高得点句がわしを通じて呟かれるぞよ・・」
「古書店に春連れ入るや女学生 曖永魑 少年の感情線へ蝌蚪落とす 猫団子 咲く日より散る日を探る桜かな 景月 宇宙にも散らせてみたき花吹雪 旭 目黒川一万隻の花筏 のらくろ 無心なる花を無心に仰ぎをり 玉緒 陽をためて咲くたんぽぽの黄色かな 少年画芳 春うらら電子レンジへ返事する 中村青潮 おやすみと言ふ人のゐて夜半の春 道子 花びらを袂にしまひ茶会席 渡部磐空 食卓は二人に戻る桜餅 多事 菜の花も 乗り込んで來る 海の駅 そら この胸の内知られしや春の宵 舵写洛 お願いがあります夜のさくら見て 石 和 白雲を喰(くら)ふがごとし鯉幟 柴田婆娑羅 仕舞風呂見遣る出窓の朧月 竹庵 一と言を言ひそびれたり春の虹 北浦日春 思い出はちぎり絵の中春霞 猪甘劉 踊場のピンクの電話おぼろ月 猫団子 永き日を沈殿物として暮らす 糸川草一郎 たんぽぽがぽぽぽと並ぶ大通り ひの 横面の牙のにやりと鰆かな 葛生淳一 たらの芽の命を二度に食べにけり 草人・・・・」