獺(カワウソ)が自ら歌った謡
今月のゲスト:知里幸恵
Kappa reureu kappa.
ある日に、流れに沿うて遊びながら、泳いで下りサマユンクルの、水汲路のところに来ると、サマユンクルの妹が神のような美しい様子で、片手に手桶を持ち、片手に蒲の束を持って来ているので、川の縁に私は頭だけ出し、
「お父様をお持ちですか?
お母様をお持ちですか?」
と云うと、娘さんは驚いて眼をきょろきょろさせ、私を見つけると、怒りの色を顔に現して、
「Toi sapakaptek,(まあ、にくらしい扁平頭、
wen sapakaptek, 悪い扁平頭が
iokapushpa, 人をばかにして。
nimakitarautar, 犬たちよ、
cho cho...... ココ……)」
と言うと、大きな犬どもが駈け出して来て、私を見ると牙を鳴らしている。私はビックリして川の底へ潜り込んで、直ぐそのまま川底を通って逃げ下った。
そうして、オキキリムイの水汲路の、川口へ頭だけだして、見るとオキキリムイの妹が、神のように美しい様子で片手に手桶を持ち、片手に蒲の束を持って、来たので私のいうことには、
「御父様をお持ちですか?
御母様をお持ちですか?」
というと,娘さんは驚いて眼をきょろきょろさせ、私を見ると、怒りの色を顔に表して、
「Toi sapakaptek,(まあ、にくらしい扁平頭、
wen sapakaptek, 悪い扁平頭が
iokapushpa, 人をばかにして。
nimakitarautar, 犬たちよ、
cho cho...... ココ……)」
と言うと大きな犬どもが駈け出して来た。
それを見て私は先刻の事を思い出し、可笑しく思いながら川の底へ、潜りこんで逃げようとしたら、まさか犬たちがそんな事をしようとは、思わなかったのに、牙を鳴らしながら、川の底まで私に飛び付き、陸へ私を引き摺り上げ、私の頭も私の体も、噛みつかれ噛みむしられて、しまいに、どうなったかわからなくなってしまった。
ふと気が付いて見ると、大きなカワウソの耳と耳の間に私はすわっていた。
サマユンクルもオキキリムイも、父もなく母もないのを、私は知ってあんな悪戯をしたので罰を当てられ、オキキリムイの犬どもに殺され、つまらない死に方、悪い死に方をするのです。
これからのカワウソたちよ、決して悪戯をしなさるな。
と、カワウソが物語った。