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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage3
第79回バトル 作品

参加作品一覧

(2016年 2月)
文字数
1
サヌキマオ
1000
2
エルツェナ
999
3
小笠原寿夫
1000
4
緋川コナツ
1000
5
ごんぱち
1000
6
南部修太郎
934

結果発表

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タタ(A.D.1983)についての研究と考察[Live]
サヌキマオ

 最近発見されました音声資料の分析結果から鑑みますに、これは我々極東文化学会の長年の課題に一定の回答を得られたものではないかと確信しております。
 今から発見された音声資料を再生いたしますが、音声を文字に落としたものも合わせて御覧ください。お手元の資料です。ええ、よろしいですか。

 当学会が長年追い求めてきた「タタ」についての新情報なのですが、当時の楽曲が示します通り「タタ」は売買されるものであったということがわかります。ええ、ここですね。

<タタ買う君のことをタタ買わない奴らが笑うだろう>

 重要なのは次です。いま、今のくだりに関連して、タタを買う当時の人間を「買わない」という選択をした人間が嘲笑の対象にする。そして、<冷たい水の中を震えながら上っていけ>と続くのです。タタを買った者を笑う者が「水の中を震えながら上って行け」と言う。
 これ、なんでしょう。
 で、次です。次の部分。魚ですね。魚が痩せこけたりしてどこかに上っていく。何処に上っていくのかというと、タタを買いに行く。

<それでもとにかくタタ買いの質上切符を握りしめて あいつわうみになりました>

 この<わうみ>については目下研究中なのですが、当時の日本語辞書から類似表現を探してみるとこれ「這う身」かもしれません。で、当てはめてみると、意味としてはしっくり来る。魚だった語り手がタタを買うことによって這う身、そう、つまりは陸上生活をはじめる。はい、なにか質問ですか。
――ああ、ええ、それはもう部分訳でございますので、本発表はこの楽曲の意味解釈を問うものではなく、「タタ」という単語の意味を究明するものでありまして(以下、質問と回答の応酬が25分続く)――

 そろそろ持ち時間も少なくなってきましたので話を戻します。我々の学会では今まで、聖ペテン大のコウルリッジ教授が「タタ買いの挽歌」を、ヴワル図書館大の電気田ドンブラコ主任検査官がサトーアイコの「タタ買いすんで日が暮れて」を、バカ田大学の珍生物助教が今昔物語の「タタ買いの庭に一人の小さき僧出で来たりて」について発表なされました。
 今回の発表で最も申し述べたいのは、「タタ」というものは、買う人があっても売る人がいない、という事実であります。つたない研究ではありますが、この研究が後の研究にとって議論をほげれけめこさわせる試金石のひとつとなれば、これ以上のことはありません。以上であります(拍手)。
タタ(A.D.1983)についての研究と考察[Live] サヌキマオ

ぼくと力と責任と
エルツェナ

「お父さん、お待たせ」
 そう言って、小一時間前までは高さ約3メートル、太さ約12センチの鉄柱であった鉄塊を、入り口から見えるボクシングジムの隅に置く。
 元はリングの支柱で、見る人が見ればそう気付ける程度には特徴が残っているため、暫くはこれで道場破り避けになるかな?

「…相変わらず、強いね」
 ボクシングジム側での道場破り一撃必殺は、なにもただ腕力が強いからだけじゃない――この家は両端にボクシングジムと空手道場を構えるだけでなく、その間にフィットネスジムまで挟まっているし、さらに両親がモノを教えるのも身体を鍛えさせるのも上手いから今のぼくがあるけど、幼い頃から鍛えすぎて成長が阻害されるほどに筋肉が付きすぎたせいもあって、未だに女性らしくないぼくの身体は身長140センチ有るか無いか。

「そうかな? ぼくはまだまだだと思うよ…特に心」
 そのため、力を込めなければ相手の力を受け止めることができず、体躯の良い暴漢なんかに殴られると、ガードの上からでもかなり押されてしまう。

 それでも、ぼくは自分の身体には結構満足してる。
 というのも、よくある性的犯罪の対象にされる様なこともない体躯だし、また近間で起きた際には犯人を一撃で足止めできる力もあり、なおも逃げようとする巨漢相手には関節技を極めて強引に動きを止められる器用さもある上に、バイクや軽自動車ならば正面から止めたコトもあるから、上を目指すにせよ現状の出来は素晴らしい。

 でも、それを発揮すべき時は、できる限り少なくしないと行けない…その見極め、そして他人の喧嘩に利用されることの予防などが後手に回るコトも多く、そういう意味でも使い処には悩まないといけない位に、強くなってしまったのだ。

「…ほんと、難しいよね…」
 そうぼやくぼくの頭に、ぽん、と父親の掌が軽く乗った。
「…今は、それでいいさ。 たんと、悩みなさい」
 父親は、そういってくれた。

「ところで、汗もかいただろうし、着替えは要るかい?」
 言われて、鉄柱を拳一つで鉄塊にしたのを思い出し、頷くと、
「ほら、着替えだ」
 喜んだ父親はそう言って、悪趣味なランニングシャツを渡してきた。
「またそれ?」
 露骨に嫌な顔をして突き返そうとするが、
「安心しろ、サイズも近いから、胸もキチンと隠れるぞ?」
 下ネタを寄越してきたので、容赦なく鼻っ柱にジャブで突き返した。
 本っ当、これさえなければ良いお父さんなのに。
ぼくと力と責任と エルツェナ

元禄の物書き
小笠原寿夫

元禄元年。世は徳川吉宗の時代。
「おい、与助。こんなとこで何してんねん。」
縁側の軒先で、昼寝をしている男がいる。
「わいはな、こうやって日向ぼっこしながら、物思いに耽るのが大好きなんや。」
塀の向こうを、行き交う車屋や人々を見ながら、ごろんと寝っ転がっている。
「そんなことしとらんと、瓦の一つでも吹き上げて、手に職つけなはれ。おまはんみたいなんが、遊んでるから、世の中は、駄目になっていくんや。」
熊五郎が、そう言うと、与助は、寝返りを打って、熊五郎の方へ向き直した。
「いや、わいはな、何も女のことや、食いもんの事ばっかり考えてんのと違う。いつかな、世の中を、あっと言わせる、大芝居を書き上げてみせるんや。その為の用意が、今の生活や。」
与助は、のんびりとした口調で、そう言うと、大の字になって、お日様に当たっている。
「外の世界を見てみなはれ。皆、明日の銭を稼ごうと、躍起になっとる。おまはん程のええ身分のやつは、誰一人としておれへん。」
熊五郎は、続ける。
「それでは、時の将軍に言い訳が立たんやろ。」
与助は、聞いているのか、いないのか、お日様と行き交う人々を、交互に見ている。
「いつか、天下の与助と言われるほどの、芝居を作るんや。わいはな、あの汗水垂らして、働くだけのせせこましい生活が嫌なんや。働きたいもんは、働いたらええ。物思いに耽るのも、わいの仕事や。」
熊五郎は、眉間に皺を寄せながら、閉口した。
「おまはん、それやったら、その大芝居とやらの触りだけでも聞かしとくんなはれ。それで、行けそうやったら、わいも何にも言わん。好きに物思いでも、日向ぼっこでもしたらええ。」
「芝居はな、全部、わいの頭の中や。わいの頭は商売道具。それを見せるわけには行かへん。」
そう言うと、与助は、ぐうぐうと、いびきをかいて、寝てしまった。熊五郎は、呆れた顔で、与助を見ているが、当の本人は、夢の中である。一体、どんな夢を見ていることやら。

一世一代の大芝居が作られている最中とあっては、邪険にも出来ない。
熊五郎は、与助の家の敷居を跨ぎ、表へ出た。子供が砂利道で、無邪気に遊んでいる。
与助は、のんびりと、寝ているが、無邪気さ故の大芝居が、もしかすると、完成するのかもしれない。存外、与助の言うことも間違っていないのか、と思い直し、熊五郎は、瓦屋根を吹き上げる作業に戻った。
後に、与助は、芝居「お花半七」を書き上げる。
元禄の物書き 小笠原寿夫

主婦とスキャンティ
緋川コナツ

 小松雅子は動揺していた。
 洗濯機の前で仁王立ちしている雅子の手には、小さなパンツが握られている。今年ハタチになる娘のパンツは買い替えるごとに小さくなり、その面積に反比例して色や装飾は派手になっていた。
 無駄にデコレーションされたショッキングピンクの極小パンツ。雅子はそれを眺めながら、軽い目眩をおぼえた。

「ちょっと遥香。なんなの、このド派手なスキャンティはっ!?」
 雅子は帰宅した娘の遥香に詰め寄った。
「は? スキャンティって何? イミフなんですけどぉ」
「イミフって……こんなみっともない下着を身に着けるような娘に育てた覚えはありません!」
「ちょ、帰ってくるなり何よ。いいじゃない下着くらい好きなの買ったって。別に他人に見せるわけじゃないんだから」
「そういう問題じゃないの。嫁入り前の娘が、こんな……」
 すると怪訝な表情をしていた遥香が、呆れたように笑いだした。
「嫁入り前って、そんなの若いからこそ穿けるんじゃん。実際、お母さんのパンツなんて色も形もババ臭くて、女として完全に終わってるもんね」
 思いがけない娘からの反撃に、雅子は言葉を失った。
「それにスキャンティって、いつの時代よ? もう昭和すぎて爆笑!」
 それだけ言うと、遥香は洗濯物を持って笑いながら自分の部屋へ行ってしまった。
 雅子は何も言い返せなかった自分に落胆していた。
 結婚して、子どもを産んで、いつの間にか自分の下着になど何の関心も持たなくなっていた。穿ければいい、尻が隠れればいい、それで安くて丈夫なら完璧だ。いつしか「女」という土俵から降りて「主婦」という立場に甘えきっていたのかもしれない。
 雅子は思い立って、ウィキペディアで「スキャンティ」について調べてみた。すると『ショーツよりさらに布地の面積の小さい下着のこと』『スキャンティとはスキャンダルにパンティを合わせた造語である』『肉体的姦通を暗示する、よろめきパンティ』と書かれてあった。
「よろめきパンティ……」
 雅子の目の前を閃光が駆け抜けた。久しぶりに感じる甘酸っぱい衝撃だった。

 後日、雅子の元に通販の荷物が届いた。
 はやる気持ちを押さえて箱を開けると、中には花びらのように可憐なスキャンティが入っていた。
「か、かわいい……」
 鏡の前で、そっと両足を通して穿いてみた。思わず胸がきゅんとなる。
 いろんなモノがはみ出していたけれど、そんなことは構わない、と雅子は思った。
主婦とスキャンティ 緋川コナツ

労働価値
ごんぱち

「……なあ、たまには掃除とかしたらどうだろう。俺も毎週の休日にはやってるけど、その度に床が見えない状態になっているというのはどうなんだ?」
「評価されもしな家事労働に、誰がモチベーションを持てると思う?」
「やってないか? 金曜日にはバラを買ったり、可能な範囲でハウスキーパーを雇ったり、君の小遣い分を確保出来るように家計計画を立てたり」
「家事労働っていうのは、三〇〇万円ぐらいの価値があるのよ。私の小遣いとして使えるお金なんか、二〇〇万円ぐらいしかないじゃない」
「だから足りない?」
「正当な報酬が受け取れてないって事。親の介護もやってるでしょ。知ってる? 訪問介護って、一時間で本当は四〇〇〇円ぐらいするのよ。毎週、半日仕事になってるんだから、これだけで毎月一〇万円ぐらい余分に仕事をしてる事になるんですけど?」
「ふうむ?」
「払う物も払わないで偉そうな事言わないでよ。安月給のあなたが悪いんでしょ」
「……俺の意見を聞きたいか?」
「おかしな事でも言ってる?」
「家事労働が三〇〇万円という説をそのまま認めたところで、その半分は君自身の為に行っているのだから、報酬が発生したとしても一五〇万円で、今の小遣い二〇〇万円で十分じゃないか?」
「でも介護が!」
「介護を足してもだよ」
「嘘よ、四〇〇〇円って、友達のヘルパーやってる人から聞いた売上だもん」
「まず、お義母さんが入所しているのは特別養護老人ホームなので、訪問介護を併用して算定する事は不可だ。それをさておいたとして、単なる散歩の付き添いは訪問介護で算定出来ないサービスであるという前提もあるがそれも一応目をつぶってだな。訪問介護においては、その報酬として移動時間は考慮されていない。君の場合実際にやっている支援は一〇分程度だから、介護報酬は『身体介護01』相当の百六十五単位で地域区分による単価一〇.二一円をかけると、一千六百八十四円となり、その他は通常算定出来ない。更に、計画書、サービス実施記録、資格要件、人員配置用件等、軒並み達していないので、運営基準による減算もさっ引けば一ヶ月に五千円になるかも怪しい」
「ほ、ほら! ほら見なさい! 五千円よ、五千円足りないじゃない! 足りないのよ、足りない! 足りないったら足りないの!」

「それで、仲直りは出来たのか?」
「ご心配おかけします、課長。どんぐりを夕方に四粒やるって言ったら、手を叩いて喜んでましたよ」
労働価値 ごんぱち

阿片の味(抜粋)
今月のゲスト:南部修太郎

『どう阿片をやってみませんか?』
 友が云った。
『やってみましょう』
 私はこわごわながら頷いた。
 部屋の一端に支那風の四角な寝台が置いてある。友に教えられて、私はその上に横になった。すぐ眼の前に豆ランプ、それを間にして同時に女の一人が向い合せに横になる。そして、私は女の手振をじっと眺めている。と、ちょっと形の説明に困るが、大福餅ほどの大きさと形を持った雁首に火吹竹ほどの柄をつけた阿片吸飲具を左手にとった女は右手の耳かき様なもので枕元の小缶からちょうどにかわを少しゆるめたような褐色の半液体をすくい上げて、雁首の表面の小さな孔の辺へぬすりつける。そして、そのぬすりつけた処を豆ランプの火焔にかざして、柄の一端に唇を当てながら劇しく吸う。ぽやっと芳ばしい匂いが鼻先にくる。女はやがてそれを私に渡して同じように吸ってみろと云う事を手振口振で示す。無論、私が支那語に全く通じないからだ。
 さて、受け取ったのを口に当てて、日本の煙管を吸うような積りで、雁首の孔の処を豆ランプにかざしながら私は三四度ゆっくり吸ってみたと女が駄目だ、もっと激しく吸えとまた手振口振で教える。これはあとで分ったのだが、ゆっくり吸うのでは、火焔で煮え立つ半液体が孔をふさいでしまうからなのだ。私は頷いて、ちょうど火吹竹を構えるような工合に両手で柄を握って、スウッスウッと云うほどに劇しく吸息を繰り返した。と、なるほど、今度は孔も塞がらずに、煙草様の煙が口の中へはいってくる。が、口ではちょっと云えない特種の強い匂いは持っているが、それはいい葉巻のような嬉しい薫りでもなく、また格別舌に触れて有難い風味を持ってもいなかった。煙草にすれば、十本何銭程度の安煙草の格で、吸っていて一向うまくも何ともない。そして、女は三四度半液体の塗り直しをやってくれて、盛に吸いつづけてみたが、予想していたような快い恍惚状態に達しもせずと云って、更に催欲的にもならなかった。
『まずいもんですね、阿片なんて…………』
 やがて寝台から起き上って苦笑しながら、私は女達と雑談に耽っている友の側へ歩いて行った。
『そりゃ君、阿片の味がほんとに分るまでには、二月ぐらいは苦労しなけりゃ駄目なんですよ』
 友は笑い返しながら云った。