第39回1000字小説バトル Entry22
夜中に目が覚めると記憶にない部屋にいた。
あるいは俺の部屋かも知れないが。
ベッドから足を下ろす。板張りの床がひんやりと冷たい。
靴を履いていない。靴下もない。
部屋の真ん中の板を突き破って木が生えている。
先っちょのほんの少しだけ。
電話が鳴った。赤い発光ダイオードが点滅する。
出ると切れた。が、受話器を置くとまたすぐに鳴った。
「ああ、やっと出てくれた。急いで下まで来て下さい」
一旦受話器を置く。思い直してまた上げた。
まだ繋がっていた。
「勝手に切らないでください」
「どこに来いって?」
「地下のボイラー室ですよ」
「そんな所で何すんだよ?」
「とぼけないでください。とにかくすぐ来て」
廊下に出て、階段を降りた。
素足なので床が冷たい。
一階の玄関のガラスの向こうに人がいた。
背の高い知らない男が待ち伏せている。
俺はそっと引き返し階段を踊り場まで戻った。
踊り場の壁に正方形の筋がある。
押すと開いた。
くぐる。
長い廊下に出た。
赤い絨毯がどこまでも続く。
壁に貼り紙が一枚。
<ボイラー室まであと僅か>
廊下の行き止まりにエレベータが見えた。
なるほど、アレを使うわけだ。
俺は廊下を走る。
理由?
後から入ってきた子供のようなモノが追いかけてくるからさ。
子供のようなモノは
歩いている。
笑っている。
俺を捕まえようと考えている。
だから俺は廊下を走った。
捕まったらどうなるんだろう?
エレベータに乗り込み扉を閉じる。
子供のようなモノが慌てて走り始めた。
が、もう遅い。
体当たりをしても無駄。
エレベータは俺一人を乗せて急降下を始めた。
「やっと来ましたね」
ボイラー室の男は言った。
背が低く、ネズミのような顔をしている。
丸い扉のハンドルをグルグル回す。
「この中です」
中から白い冷気が溢れ出す。
「昨晩私の母親が亡くなりましてね」
ボイラー室の男は関係のないことを言う。
「でも私はここを離れるわけにはいかない」
ボイラー室の男は、扉を完全に開け、脇のレバーを引いた。
冷気が消えていく。
「ちょっと見てください」
俺は中を覗き込んだ。
大きな樹の根。
ボイラー室中に伸びうねっている。
下は真っ暗で床がない。
「ここ、床がないよ」
「そうですか?」
次の瞬間、ボイラー室の男が俺の背中を押した。
突き飛ばすように。凄い力。
蹴ったのかもしれない。
ともかく。
俺はバランスを崩して中に転がり込んだ。
が、ここには床がない。
俺は
大きな
樹の
根に
何度も
ぶつかりながら
暗い中を
どこまでも
落ちていった。